スキルイータ

北きつね

第二十三話

/***** 3人の獣人 Side *****/

 スーンが、部屋から出ていった。
「ふぅー」「死んだかと思った」「・・・」

「豹族の。お主」
「すまん。俺は、ブリット=マリー。ブリットと呼んでくれ。白狼族の、熊族の、すまん」

 豹族の男は、頭を下げる。
 事実、熊族や白狼族が言っている事はわかるが、3人居ればなんとかなると思っていたのも事実だ。それが、見透かされて、殺気だけで、心が折れてしまいそうになる。なんとか踏みとどまったのは、自分の肩に、豹族の命運がかかっている。それだけで、踏みとどまれた。

「いい。これではっきりとした、ツクモ殿は、俺たちに何かを望んでいるわけではない」
「どういう事だ?」
「あぁすまん、俺は、ヨーン=エーリック。エーリックと呼んでくれ。俺たちに、何か望んでて、スーン殿がそれを感じていれば、俺たちを萎縮するような事をするわけがない」
「そうだな。白狼族の・・・エーリックが言う通りだな。すまん。俺は、ロータル。そのまま呼んでくれ」
「わかった、ブリットも、ロータルも、スーン殿の態度でわかったのは、ツクモ殿は、俺たちを害するつもりも無ければ、俺たちに何か望んでいるわけでも無いということだ。お互い、正直な話をすればいい。俺はそう思う」

 二人は頷いて、承諾する。
 3人の口調が、意識して族長や種族の代表っぽくしていた口調から、普段の口調に戻っているのに、誰も気がついていない。それほど、スーンが行った事が衝撃的だったのだろう。

「いくか?」
「そうだな」
「あぁ」

 すでに、3人は運命共同体になっている。

/***** カズト・ツクモ Side *****/

「大主」
「あぁ入ってもらってくれ」

 3人の獣人が戻ってきてくれたようだ。
 入ってきて、俺の前で”臣下の礼”の様な態度を取る。スーンに目線を送るが、これが当然だという雰囲気がある上に、周りのドリュアスも同じだ。おかしいと思っているのは、俺だけのようだ。
 頭を下げられたままでは話はし辛い。

(スーン。彼らに何かしたのか?)
(いえ)
(これでは話ができない。どうしたらいい?)
「御三方、大主が、お主たちとの会談を望んでいる。面をあげよ」
「「「はっ」」」

 え?どうい状況?
 俺に臣従するの?そんな話していないし、俺、何を与えていいのかさえもわからないよ。

「えぇ・・・と、まぁそのぉなんだぁ・・・あっそうだ。貴殿たちはどうしたいの?あぁそうか、隷属のスキルが使われているのだったな。それじゃ好きな事は言えないよな。よっと」
「え?」「へ?」「あ?」

 3人のところまで、歩いていく、もっとこっちに来てくれればよかったのにな。
 初めてだけど、大丈夫だろう。
// 固有スキル:固有化
// スキルを固有スキル化する事ができる。ユニークスキル
// レベル1:自分にのみ配置できる
// レベル2:眷属/物(魔核)にも配置ができる
// レベル3:自分/眷属/物(魔核)のスキルを取り除ける。スキルカードになる
// レベル5:自分/眷属/他人/物のスキル/スキルの効果が取り除ける

 固有化のスキルで、魔核に配置を繰り返していたら、レベルが爆上がりして、現状レベル5になっている。
 そこできる事が増えている。スキル効果を取り除く事ができるらしい。そうなると、隷属のスキルが使われた形跡がある獣人族から、隷属効果を打ち消す事ができるのではないか?

 白狼族の男に触れながら、固有化スキルを発動する。
 スキル効果を消すのは、”除去”だ。詠唱する。そうしたら、除去可能な効果が表示される。その中に、”隷属”と出てきたので、選択して、実行する。
 ”隷属化:主人なし”となっている部分が消えているのが確認できた。

「よし」

 他の二人にも同じ事を行う。
 熊族の男には、”物理攻撃半減”の効果も付与されていたので、それも除去する事にした。

 3人の驚いた顔を見ると、これも普通ではできないことなのだろうか?
 やっぱり、一般常識を教えてくれる人が欲しいな。できれば、”今”の年齢に近い人で・・・。その前に、獣人族の話をしっかり聞かないとな。

「3人の隷属効果を打ち消した。これで、話せなかった事も話せるようになる・・・よね?」

 3人が慌てて、”臣下の礼”の体勢に戻る。
「我は、白狼族のヨーン=エーリック。カズト・ツクモ様に、臣従いたします。できましたら、我らを一族及び獣人族を助けてください」

 続けて、熊族のロータル。豹族のブリット=マリーが同じ様な言葉を続ける。
 別に臣従なんてしてほしくないのだけどな。でも、なんか切羽詰まっているようだし、助けて欲しいというのなら、力を貸す事くらい問題ないよな。

「スーン。奴隷商に捕まっていた以外の獣人族の集落はどうなっている」
「まだ人族との戦闘中で、一進一退の様子です。獣人族は、女子供を逃し始めていますので、それらは、大主のご命令通りに、人族に襲われる前に確保しております」

 うーん。助けて欲しいと言ってきているからな、獣人族を助けるでいいだろう。
 どうも”奴隷商”に、味方しているような人族は信用できない。それに、宗教を名乗っておきながら、隷属のスキルを使うような奴らは、好きになれそうもない。

「エーリック殿。ロータル殿。マリー殿。獣人族の集落が、人族・・・アンクラム街の人族に襲われているらしい。助けに行きたいと思うが問題ないか?」
「ツクモ様。我らの事は、呼び捨てにしてください。それから、同族を、獣人族を、助けてください」

 マリー殿は、ブリットと呼んで欲しい様だ。何か、あるのだろうけど、気にしないことにしておく。

「スーン。カイとウミとライは、すぐに戻ってこられそうか?」

 実際には、呼子があるので、できるのだが、なんとなくスキルを見せないほうがいいだろう。スーンならそれを察してくれるだろう。

「大丈夫だと思われます」

「そうか、エーリック。ロータル。ブリット。獣人族を助けたら、俺に何をしてくれる?」
「「「絶対の忠誠を!!!」」」

 スーンもドリュアスもそれで納得できるのか、満足そうにうなずいている。
 忠誠なんかよりも、実質的な事がいいのだけど、こんな環境だから、しょうがないのかな。

「わかった、獣人族には、収穫や開拓とダンジョンの攻略に付き合って欲しいが大丈夫か?詳しくは、他の住人族と合流してからになるとは思うがな」

 一旦、3名を下がらせる。

 カイとウミとライと念話で状況を確認してから、呼子で呼び寄せる。

「スーン。カイとウミとライに説明を頼む。俺は、使えそうなスキルと武器を取ってくる」
「かしこまりました」
『主様。スキルなら僕たちが持っていますが?』
「あぁ違う違う。回復系や移動補助系が少し居るだろうからな」
『カズ兄。どこかに行くのですか?』
「獣人族が困っているみたいだからな。助けに行こうと思ってな」

「大主。それなら、我らだけで行きます」
「うーん。スーンたちは、今回は奴隷商から助けた獣人族と、ピム殿の相手を頼む。それまでには帰ってくる予定だが、待ってもらう事になったら、失礼だからな」
「かしこまりました。待機場所などはどういたしましょうか?」
「ん?横の休憩所では駄目なのか?」
『駄目です』『ダメ!』『反対!』
「・・・はい。大主のお住まいに近すぎます」

「・・・そうか、それなら、岩山の下に、待機できる建物を作るか?」
「それが、よろしいかと思います」
「スーン。任せていいか?安全には配慮しろよ」
「はい。かしこまりました。今後の事を考えまして、少し大きめに作ります」
「間に合うのか?」
「大丈夫です」
「それなら、頼む。それから、獣人族は、その建物とは違う場所に、開けた場所を作って、そこで待機してもらおうかと思うがどうだ?」
「わかりました。平地にして、あとは獣人族に意見を聞くようにいたします」
「そうだな。それがいいだろう。こちらもくれぐれも安全に気を使ってくれよ」
「かしこまりました」

 大まかにはこれでいいかな。
 さて、獣人族の救出に向かうか!

「カイ。ウミ。ライ。そうだな。スーン。どのくらいの戦力で行くのがいい?」
「監視している者からの報告では、カイ様とウミ様だけで十分だとは思いますが、一人も逃がすなという事でしたら、ライ様の眷属であるヌラどのから進化後の眷属を10体ほどお連れなれば大丈夫だと思います」
「わかった。ライ。ヌラから、進化したての者を、30体ほど出してもらえ、3体で1グループで行動するようにしろ。あとは、現地で指示を出す」

 下がらせた3人を呼び戻して、獣人族の集落の救出を行う事を告げる。
 3人の中から一番速度に自信がある、白狼族のエーリックが道案内をする事になる。実際には、エントたちから逐次情報をもらっているので迷うことは無いが、獣人族に協力したという体裁も必要になってくるだろう。

 残った二人、ロータルとブリットには、後日、到着する、獣人族のまとめを行ってもらう事になった。

「スーン。任せる」
「ご安心ください」

 一礼するスーンに任せて、俺たちは、ブルーフォレストの中を、集落に向って急ぐのだった。

/***** ??? Side *****/

「長老。もう耐えられません!」
「ダメだ。もう少し、もう少しだけ踏ん張れ。そうしたら・・・」

 黒狼族の長老は、自分が信じてもいない事を、部下たちに語っている。

「大丈夫じゃ。救援に出した者たちが戻ってくれば、攻勢に出られる。奴らの後背を襲ってくれる!」
「「「おぉぉぉ!!!」」」

 戦力差が、100対1の絶望的な状況なのに、戦況が拮抗しているのは、人族の奴ら、アンクラム街も、獣人族を根絶やしにするわけには行かないからだ。彼らは、獣人族を奴隷にする事を最終的な目的にしている。
 女子供も必要だが、これから、ミュルダやその先を考えると、肉奴隷は絶対に必要なのだ、そのためにも、戦える獣人を安易に殺すことができない。

 地の利も獣人側に有利に動いている。

 しかし、絶対的な物量に押し潰れそうになっているのは間違いない。
 長老の中では、あと半日持ちこたえるのが限界だと思っている。それでも、先に逃した、女子供が安全な場所に行けるまでは、包囲網を突破できるまでは、持ちこたえなければならない。それが、どんなに困難な事でもだ。

「皆。後少し、後少しだけ、踏ん張ってくれ!我ら同胞が駆けつけてくれる」
「「「おぉぉぉ!!!」」」

 黒狼族の長老は、残っている者たちに心の中で詫た。
 残っている者たちも、自分っちが立っている場所が”死地”である事は認識している。そのために、怪我をした者から、若い者を付けて、逃し始めている。

 人族も、昼夜問わず攻めてくるわけではない。
 それどころか、なにかゲームでもしているように、時間を空けて攻め込んでくる。絶望的な状況に追いやった、獣人族の心が折れるのを待っているようだ。

「族長!また攻めてきます」
「こちらの配置は?」
「終わっています」
「よろしい!攻勢に出よ!」

 攻勢と言っているが、ゲリラ作戦と言ったほうがいいだろう。
 背後に回るふりをして、撤退する時間を稼ぐのが目的だ。

 族長は、これが最後だと考えていた。
 最後とは、これで戦闘がおわると言うわけではない。ここに残った者が全滅するだろうと考えていた。半数以上は逃した。その半数でも、人族の包囲網を突破してくれていれば、そう考えている。

「族長!」
「どうした!」
「人族が、人族が総崩れです。後方で、なにか有ったようです」
「何かとはなんだ!」
「わかりません。人族が倒されていきます」

 族長もそれはわかった。人族の圧力が弱まってきている。
 戦略的な撤退の可能性もある。時間が進むごとに、圧力が弱まっている。

「族長。一気に攻めますか?」
「いや。ここは、一旦距離を取る。皆に伝えよ。”撤退せよ”」
「はっ」

 生き残れたのか?
 それにしても、援軍なのか?魔物が、人族を襲ったのなら、撤退は間違いではない。他の獣人族なら、攻勢に・・・いや、まずは生き残ることを優先しよう。儂らは傷つきすぎた。

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