スキルイータ

北きつね

第百五十六話


 万全の体制で挑む必要性は皆無だろう。
 それでも、”ヌシ”が待っているのだ、手を抜かないで、しっかりと休んでから挑もう。

 ダンジョン内で身体をゆっくりと休める事が出来るわけもなく、できるだけ快適な状態で休める場所を作る必要が有る。俺達は、ライに馬車を出してもらって、馬車の周りに眷属たちに結界を展開してもらう。

 俺とシロで一台の馬車を使って、他でもう一台を使う事になった。
 馬車の中なら布団を敷いて休むことが出来るので、快適度合いで差が出てくる。

 食事を終えて、湯で身体を拭いてから、寝ることにした。

「シロ。無茶はしなかっただろうな?」
「もちろんです。ほぼレイニーだけで対応できました」
「そうか、力押しでまだ突破できるのだな」
「はい」

 レイニーの戦い方は、体力一本勝負の所がある。
 スピードを駆使して飛び込んで、弱点を狙う形だ。ステファナは、どちらかと言うとウミ型の戦い方で、スキルを上手く絡めながら戦っている。レイニーもスキルは使うのだが、体力や自分に作用するスキルを好むようだ。
 スキルの発動の上手い下手はあるが、好むスキルまで違ってくるのだな。

 シロを抱きしめながら、そんな事を考えながら眠りにつく。

---
 翌朝。
 寝た時とは逆に、シロが俺を抱きしめていた。

「ご主人様」
「リーリアか?おはよう」
「おはようございます。お食事の準備が出来ております。湯浴みを先にしますか?」
「そうだな。シロを起こして、身体を拭いてから、食事にしよう」
「かしこまりました」

 リーリアが馬車から離れるのがわかる。
 少し経ってから、ステファナとレイニーがお湯とタオルを持ってきてくれた。自分でも用意できるのだが、せっかくだから受け取って使う事にした。

 シロも起き出して、お互いの背中を拭いてから、馬車から降りた。

 朝食は簡単に済ませられるものにしてもらっている。
 ダンジョンの深さもわからないので、物資を大量に持ち込んでいるからといって、考えなしに消費していいものではない。できる限り、節約して効率よく使っていく必要がある。
 まだ10階層なのだ。

 朝食も終わって、片付けをしながら今日の対応を考える。
 階層主を倒すのは当然として、ここで一旦戻るという選択肢も有るのだが、皆が揃って最下層を目指す事で一致した。階層主を突破したら多少は魔物も強くなる事が予測できるので、フォーメーションをもとに戻して、前線をオリヴィエとレイニーに担当してもらう事にした。

 大丈夫そうなら、オリヴィエとステファナが交代する。

「よし、行くか?」

 皆を見回して大丈夫そうだと判断する。

 階層主の部屋までは、昨日シロとレイニーが掃除をしている。
 新たに産まれた魔物はいないようで、抵抗なく進むことができた。

 確かに、階層主の部屋っぽいな。
 でも、奥からチアルダンジョンの時に感じた強者の気配なんてしていない。

 まぁ開ければ解るし、進むためにも開けなければならない。

 リーリアとオリヴィエが一歩前に出て、階層主が居るであろう部屋の扉を開いた。

 どうやら、6名までしか入られない仕組みのようだ。

 俺とシロとオリヴィエとリーリアとステファナとレイニーで入る。
 カイとウミとライとエリンはまっている事にした。

 6名が入った所で、扉がしまったのでそういうものなのだろうと思うことにした。

 扉が閉まってから、数秒後に魔物が現れた。
 拍子抜けしてしまった。緊張して武器に手を置いた俺を殴ってやりたい。

 中央にゴブリンソルジャー(仮)とゴブリンメイジ(仮)が居るだけで、後は通常のゴブリンで構成されているだけだ。上位種といってもソルジャーとメイジだけなら、このメンバーなら過剰戦力になってしまう。

「レイニー。ステファナ。任せていいか?」
「仰せのまま」「かしこまりました」

 2人が、剣を構えてゴブリンの集団に突っ込んでいく、シロが俺の前に出た
「カズトさん。数が多いので、討ちもらしが居た場合には僕が処理します」

 俺は手をかけていた刀から手を離した。
「わかった。シロ任せる。オリヴィエとリーリアは状況を見て、危なそうな者のフォローを頼む」
「かしこまりました」「マスターの意のままに」

 戦闘はレイニーがゴブリンを倒して、ステファナが上位種を狙う形で推移する。
 数の違いから、抜け出す者も居るが、シロが的確に倒している。

 一気に減っていかないと思ってみてみると、後方で新たなゴブリンが産まれて、前線に送り込まれているようだ。

「ステファナ。後ろだ。何かゴブリンが産まれる場所がある」
「わかりました」

 スキル攻撃で対応していたステファナがレイニーの隣まで移動する。剣を使った戦いに変わる。

「シロ。今までより多く抜けてくるからな」
「はい!」

 さっきまでは、シロは1体1体の相手をしていたが、今は2体同時や3体同時に戦っている。
 それでも余裕が見える。俺やオリヴィエやリーリアが出る場面ではなさそうだ。

「旦那様!」
「ステファナ。その黒い珠を破壊しろ」
「はい!」

 レイニーが上位種を抑えている間に、ステファナが後方に回り込めた。
 ゴブリンを生み出していた珠を破壊できた事で戦況は一段とこちらに有利に傾く。

 シロも前線近くまで前進している。

 ステファナとレイニーがそれぞれ一体づつ上位種を倒した事で、決着がついた。

 あとは、掃討戦になるだけだ。
 部屋の中には、それでもまだ10体を超えるゴブリンがいる。上位種がいないので士気も低い烏合の衆でしかない。、俺たちが負ける要素がいっさいない。3人で戦えばあっという間に片がつく。

 最後のゴブリンを、シロが切り倒した。
 3人は辺りを見回して、自分たち以外には生きている者が居ない事を確認してから、俺の所に戻ってきた。

「カズトさん」
「うん。お疲れ様」

 それにしても、扉が・・・あぁ開いたな。前後の扉が開いた事が確認できた。

 戦いに参加していなかったエリンたちも問題なく部屋に入ってこられた。
 どういうことなのか理解出来ないが、そういう物だと思っておこう。

 11階層を目指す事にした。
 大量のゴブリンの死体は素材も必要ないので、全部カイとウミとライが吸収する事になった。

 11階層からも作りは同じ様だ。
 ほぼ一本道で魔物が大量に襲ってくるだけだ。11階層からはオークが主軸になっているようだ。

 うーん。
 ステファナでも行けそうだけど、安全を考えたほうがいいだろうな。

「オリヴィエ。レイニー。前衛を頼む」
「かしこまりました」「仰せのままに」

 オークの突進を前衛2人が塞いで、後衛のステファナとリーリアがスキルを使って体力を削っていく。倒せる威力のスキルは使わないように言っている。
 弱ったところを、ステファナとレイニーがとどめを刺すようにさせている。最初の頃は、力加減が解らなくて、倒してしまっていたのだが、13階層に降りる頃にはうまく調整ができるようになってきた。

 それにしても、このダンジョンには罠が見られないよな。
 このくらいの階層まで降りてきたのなら、罠くらいあってもいいと思うのだけどな。

 広さもほぼ一定のようだし、考えて作ったという感じが一切しない。道もほぼ一本道。違うのは階層の始まりにいくつかの道があるだけで、後は曲がりくねったりはしているが、一本道で分岐さえも見つからない。探索という意味では面白味もなにもない。
 ただただ出てくる魔物と戦って進むだけなのだ。

 15階層に到達しても何も変わらない。16階層に降りる階段前までたどり着いた。
 レイニーに疲れが見え始めてきた。今日は、この辺りまでにしておこう。

「リーリア」
「はい。野営の準備を始めます」
「たのむ。オリヴィエ」
「はい。周辺状況を確認してきます」

「パパ!」
「ん?どうした?」
「カイ兄とウミ姉と行かなかった道を見てきていい?」
「いいけど、無理はするなよ?」
「わかった!」

『カイ。悪いけど、頼むな』
『主様。任されました』

『ウミも頼むな』
『はぁーい』

 ステファナとレイニーはリーリアを手伝っている。
 ライに馬車を出してもらって、俺とシロは中で湯浴みをする事にした。

「ふぅ」
「どうしました?」
「順調だけど、なんだか手応えがなくてな」
「そうですね」
「この程度なら・・・。そうか、俺達は収納とライという動く倉庫が居るからなんとかなっているだけなのか?」
「?」
「あぁこの程度の魔物しかいないとなると、ユーバシャール区の冒険者や湿地帯の者たちが攻略に乗り出さなかったのが不思議だったのだよ」
「カズトさん・・・」
「ん?なに?」
「あのですね。物資の問題もですが、戦力的にも異常なのですよ?」
「そんな事ないだろう?エリンやカイやウミなら解るが、あぁリーリアやオリヴィエもか・・・。でも、戦いには参加していないだろう?」

 シロが俺の顔を覗き込むようにしてから
「本気でおわかりにならないようですね」
「ん?」
「ステファナとレイニーもすでにアトフィア教の聖騎士以上です。歴代の英雄と一緒だと言えば、異常性がおわかりになると思います」

 歴代の英雄?
「そうなのか?歴代の英雄が、どの程度なのかわからないけど、そこまで強くは無いだろう?」
「・・・。カズトさん。僕が言うのも恥ずかしいけど、僕がカズトさんたちと対峙した時に居たアトフィア教の聖騎士たちでこのダンジョンに潜ったとして、10階層どころか、5階層で最悪は全滅していると思います。良くて、命からがらの敗退ですよ」
「え?あっそうなの?」
「はい。間違いないと思います。自分の力量はわかっています」
「あっでも、それは武装が違うからじゃないのか?」
「武装とスキルカードを同じにしても、10階層は抜けられなかったと思います。6人の縛りが無くても、階層主の突破は難しかったと思います」

 そんなに差が出ているのか?
 何が違うのかと言ったら、チアルダンジョンでの強制戦闘訓練ブートキャンプだな。それでも、体力と魔力が2段階上がった程度だろう?
 そこまで違うのかな?

 今度実験してみようかな?

「カズトさん?」
「ん?あっ悪い。少し考え事をしていた。そこまで差があるとは思っていなかったからな。でも、今シロが言った通りだとしたら、結界のスキルカードを偶然数枚持っていないと攻略も難しいよな」
「はい。僕も、そう思います。それに、物資の問題もありますし、武装の質の問題もあります」
「武装の質?」

 刀はまだ特殊だとして、他に何かあるのか?
「カズトさん。お忘れですか?僕たちが使っている武器は、竜族の鱗を鍛えし剣ですよ。防具は、伝説級の物ですし、下着に至っては・・・」

 そうだった。
 すっかり忘れていた。
 ドワーフたちが嬉々として作った物を使っているのだった。

「それなら納得だな」
「はい。でも、収納の問題をクリアして、武装も同じ物を揃えたとしても、この階層辺りが限界だと思います」
「そんなにか?」
「はい。僕も驚いているのですが、これだけ連続で戦っても疲れが見えてこないのですからね」
「ん?疲れは見えていたぞ?」
「あっ疲れては来ていますが、僕が言っているのは、立てなくなるような事がないという事です」
「そうだな。そこまでになってしまうと限界を越えてしまっているだろうからな」
「僕が異常だと思ったのは、僕はそんなに戦っていませんので、違うのですが、ステファナとレイニーが疲れ始めた程度だって事です」
「そう言われたらそうだよな。戦闘がいい感じで行えているのがわかるからな」
「はい」

 ステファナが食事ができた事を告げに来るまでシロと全裸のままそんな話をしていた。
 そうとも知らないステファナが馬車の中を除いてしまって、顔を真赤にしながら、食事ができた事を告げていった。俺とシロはお互いの格好を確認して納得した。
 ステファナがどう思ったのかわからないが、謝っておこうと思った。

 エリンがまだ帰ってこなかったので、オリヴィエが迎えに行ったようだ。

 そのオリヴィエから連絡が入った。
 奥まで突き進んでいるので、帰るのが遅くなるので、先にご飯を食べてくださいとリーリアに連絡が入った。

 シロがステファナに謝っているのと、言い訳のような事を言っている。時折、俺のほうを見ているので、何か説明しているようだが聞かないほうがいいだろう。

 エリンたちが帰ってきたのは、食事が終わってお茶を飲み始めたときだった。
 なんか、宝箱があったと嬉しそうに話してきた。中身は、古びた羊皮紙の束だった。

 オリヴィエが俺に羊皮紙を差し出して来た。
 羊皮紙を確認すると、この羊皮紙にかかれている事が真実なのだとしたら、このダンジョンは71階層まであるようだ。10階層ごとに階層主が存在している。

 ゴブリン→オーク→オーガ→ゴブリン上位種→オーク上位種→オーガ上位種→上位種複合

 となっているようだ。
 その上分岐に関する地図も添付されていた。

 71階層が、ダンジョン主の階層になるようだ、そこまでの道が全部書かれていた。
 基本一本道なのかわかりがないが、階層開始時点の分岐を間違えると、徐々にしんどくなっていくようだ。複数階層にまたがってから行き止まりになってしまうようなトラップもあるようだ。

「パパ!エリン。偉い?」

 マップを取得してきた、エリンの頭を思いっきり撫でる。
 検証は必要だろうが、これからの攻略がだいぶ楽になったのは間違いなさそうだ。


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