スキルイータ

北きつね

第二百話


 ロックハンドで考えていた以上に時間がとられてしまった。

 ナーシャの歓喜が怖かった。何度も確認させられた。イサークに引き取ってもらってもダメだった。最後には全部取り上げると言って黙らせる事ができた状態だ。
 想像通り、ナーシャとカトリナに指輪を見られた。同じものは作られないと説明して、簡単なデザインの物をイサークが採取していた素材で作成した。

 ダンジョンが自由に作られるという話はしていない。攻略したので、ある程度の言うことは聞かせられるとだけ話してある。眷属化した程度だと考えているようだ。
 カトリナがなにか考えていたのだが、無視させてもらう。厄介事の匂いしかしてこないからだ。

 俺を問いただして、ダンジョンを壊されてしまう方が困ると考えたようで、深くは突っ込んでこなかった。

 それ以上に、甘味や心太ところてんのレシピに書かれている事を細かく聞かれた。

 ステファナとレイニーとリーリアとオリヴィエがホームから出てきていたので、簡単にレシピを再現した。
 レシピが問題ないことが納得できたようなので、あとの事はナーシャイサークとカトリナに任せる事にした。

 洞窟に帰ったら、ルートガーが迎賓館で待っていると連絡が入った。
 眷属とダンジョンコアチアル/ペネム/ティリノは、ホームの中で居るようだ。クローン・クローエが、シロの肩で休んでいる。
 オリヴィエとリーリアとステファナとレイニーを連れて、ホームからブルーフォレストダンジョンの転移門の部屋に到着する。

 迎賓館にはここから向かえばすぐだ。

 ブルーフォレストに出ると、建物が出来上がっていた。
 倉庫の様な作りになっている。執事エントが1人立っていて、俺たちがダンジョンから出てきたら、スーンを呼び出してくれるらしい。5分ほどでスーンがやってきて、ルートガーが待っている執務室まで誘導してくれるようだ。

「小屋ありがとうな」
「いえ。あの様な感じでよろしいでしょうか?」
「十分だ」
「はい。今後、ダンジョンを開放なされる事を考えまして、簡素な物にいたしました」
「そうだな。ブルーフォレストダンジョンは公開する必要はなさそうだけどな」
「そうですね」
「ペネムダンジョンもチアルダンジョンもまだ攻略まで程遠い状況なのだろう?」
「はい。イサーク殿が抜けられたのが大きいですね」
「そうか・・・。スーン」
「はい」
「ロックハンドに、執事エントメイドドリュアスを数名送っておいて欲しい」
「かしこまりました。何をさせるのでしょうか?」
「料理だな。あと、ゼーロに言って、魔の森の探索を行わせてくれ、ロックハンドの近くが、イサークが感じたことだが温かいと言うから、温泉でもあるのかもしれない。調べさせて欲しい」
「かしこまりました」

 執務室に入ると、ルートガーとミュルダ老が待っていた。

「どうした?」

 ソファーに座って、2人が提出した書類を眺める。

「大丈夫そうだな」
「はい。全体会議の開催は問題ありません」
「それで?」

 ミュルダ老から別の書類が差し出される。

「ふーん。馬鹿なことを考えているやつが居るな」
「はい。どうなさいますか?」
「老は、答えが出ているようだな。ルートはどう思う?」
「俺ですか?」
「あぁ」

 ルートガーは少しだけ考えてから自分の考えを語り始める。

「ツクモ様どころか俺たち・・・。違いますね。ギュアンやフリーゼまでも届きません」
「え?その程度なの?」
「はい」
「最終目的は、メリエーラ老で間違いないのだな?」
「はい」
「そうか・・・。楽しめないのだな」
「間違いなく」
「わかった。モデストたちに対処させてくれ」
「処分は?」
「メリエーラ老に一任する」
「かしこまりました」
「ルート。お前は関わるなよ。ミュルダ老が主体となって、元老院が対処するようにしてくれ。いいな?」
「え?」「はっ!婿殿。ツクモ様は、婿殿とクリスが裏の仕事をするなとおっしゃっているのです」

 ルートガーが俺の顔を見てくる。
 ミュルダ老もすごいな・・・。解ってくれるとは思ったけど、そこまで考えてくれているのだな。

 散々汚れ仕事をさせてきた俺が言うのもおかしいけど、ルートガーとクリスには、チアル街の代表になってもらわないと困る。
 禅譲ではないが、俺は象徴でいい。シロの事もあるから、俺が全権力を握るのは良くない。

 性急かもしれないが、ルートガーとクリスがチアル街の中心になってくれる様に持っていきたい。

 俺たち俺とシロにとって都合がいいのだ。

「ツクモ様?」
「そういう事だよ。ルート。お前とクリスで、次の全体会議を仕切って欲しい。儀式的な事は、俺が行うけど、それ以外の事はルートとクリスに任せたい。出来るよな?」

 ルートガーが俺を睨むように見ているが、挑発しているような雰囲気ではない。
 俺が本気か探っているようだ。目線を外して、ステファナが淹れてくれたお茶を口に運ぶ。レイニーが作ってくれているクッキーと一緒にだ。

「はぁ・・・。あんたはいつだってそうだ。急に最大限の要求をする。そのうち後ろから刺されますよ」
「大丈夫だ。俺を害して得になりそうな奴は、ルートしか居ないからな」
「それじゃ俺だけが危険人物ですか?」
「違うのか?」

 また俺をにらみつける。
 実際、俺を殺しても誰も得をしない。この環境を維持したほうが得だからだ。そして、俺を殺しても全部が手に入らない。良くても仕組みの一部だけだ。もう殆どの物は手放してしまっている。
 ショッピングモールや遊技場は、カーマン商隊が握っている。
 ダンジョンに関しては、表向きはギルドが掌握しているように見えている。

 俺が権力を握っているように見えるのは決裁を俺がおこなっているからで、決裁に関しても、徐々にルートガーや元老院が行うようになっている。俺1人を殺してすべてを奪えると思っているような愚か者は実行してみればいい。その結果、自分たちの命だけではなく自分たちが大事にしているがどうなるのかしっかり考えてみることだ。

「あんたはいつもそうだ。わかりました。このエルフの集団は、ミュルダ殿にお任せいたします」
「違う。違うぞ。ルート」
「こんな些末な事だけをミュルダ老に任せるのではない。裏の情報や組織を全部、ミュルダ老に渡して、お前とクリスは日の当たる場所を歩けという事だ」
「は?」

 ミュルダ老も解っているようだ。

「婿殿?泥は、ワシたち元老院とツクモ様が被ると言っているのです」
「だから、それじゃ・・・。え?」

 気がついたようだな。

「あんた・・。ツクモ様?」
「どうした?」
「全部。ここまで作っておいて・・・」
「面倒になった。それじゃダメか?」
「ダメに決まっている!!!」

 机を叩いて立ち上がって俺を睨む。
 睨むが、すぐにソファーに座り直して、頭を下げた。

「なんで・・・。なんで・・・。俺、なんだ!?」
「ルートがふさわしいと思ったからだ」
「だから、なんでだと!聞いている!答えろ!」

「婿殿」
「ミュルダ殿。申し訳ない。でも、俺は、この人を、カズト・ツクモを支えると誓った。この人に何もかも負けたと思った時から、そう決めた!なのに、ここで、なんでだ!俺じゃなくてもいいだろう?イサーク殿やヨーン殿。それに、ミュルダ殿に、それこそメリエーラ殿だって居る。なんで、俺、なんだ!」

「ルート。それに俺は答えなければダメか?」
「えぇ是非お願いします。俺が納得できたら、あんたの策に乗ってやる」
「ほぉ・・・。言ったな」

 簡単な事だ。
 イサークでは、ナーシャの影響が強すぎる。それに、人族への恨みが消えていない。口ではなんとでも言える。でも、俺が奴らにロックハンドを任せてわかった事だが、どこかで人族に対する憎しみを捨てきれていない。イサークでは、最終的にどちらかを選択しなければならなくなった時に、間違いなく獣人族を選ぶ。それではトップは任せられない。両方を救う手段を考えて足掻くやつでなければならない。
 ヨーンも同じ理由でダメだ。

 ミュルダ老は、年齢的な事で裏方やご意見番ならいいがトップを任せる事ができない。その上、ミュルダ街の印象が強すぎる事から、ミュルダ街に属していた者を贔屓すると思われてしまう可能性が高い。周りからどう見えるのかが重要なのだ。
 チアル街は、旧ミュルダとは違うという事をアピールする為にも、ミュルダ老ではダメなのだ。
 メリエーラ老は、エルフ族だ。メリエーラ老は、エルフ族にこだわりは無いだろう。しかし、周りから見た時に、メリエーラ老はふさわしくない。エルフ大陸の影響下に入ってしまったと見えてしまう上に、ユーバシャールで顔役をしていた事で、ミュルダ老と同じことになってしまう。
 それに高齢だ。エルフ族としても老齢に差し掛かっている。その事から、新しい街のトップにはふさわしくない。

 ついでにシロでもダメだと言っておく。シロに関しては、皆まで言わなくても解ってくれたようだ。
 同じ理由で、フラビアやリカルダもダメ。

「ルート。お前しかいない。お前が受けなければ、俺は今からクリスを呼び出して命令しなければならない。それはしたくない。わかるよな?」

 ルートガーとクリスならいろいろな柵をまとめる事が出来る。
 ミュルダとサラトガ。アンクラムの遺児も配下に居る。その上で、集落出身の子供もつかえている。どう考えても、ルートガーが一番適任だ。

「はい。あんたから命令されたら、クリスは逆らえない。お願いされれば無理してでも受けるだろう」
「あぁだから、お前しか居ない」
「もうひとつ教えてくれ、なんで”今”なんだ?」
「ダンジョンを攻略してから考えていた。以前に、ルートに言ったよな?」
「何を?」
「ダンジョンをいじれると・・・」
「あぁ」
「今、ダンジョンはチアル街にとってはどういう扱いだ?」
「?必要なものだ」
「本当にそう思うか?」
「あぁ」
「そうか、今ダンジョンに魔物が溢れたらどうなる?」
「はぁ?困るに決まっている」
「違うな。困らないが答えだよ。混乱はするだろうが、なんとかできてしまうだろう。それこそ、ダンジョンの入り口を封鎖して、出口を固めればいい」
「・・・」
「資源?それこそ、困らないよな?街の外周や集落が安全になった事で、作物を作ったりしている」
「・・・」
「食料?肉?それこそ、魔の森や海が手に入った事で困らないよな」
「・・・」
「ダンジョンは、居住空間をよくする為だけに使っている。『今無くなっても困らない』が答えだ」
「あぁ」
「でも、これが256年後や512年後になったら事情が変わってくる。ダンジョンに依存した状態になってしまう」
「そうだな。なんだよ。その具体的な数字は?」
「数字は気にするな。なんとなくだ!」
「まぁいい・・それで?」
「ルート。お前は、そこまで生きるか?」
「無理だろうな」
「俺は?」
「・・・」
「そうだ。俺とシロは生きている可能性が高い。俺とシロがいつまでもトップでいられないのは解るよな」
「・・・」
「その沈黙は、理解したと受け取るぞ?」
「それで?」
「お前たちは、俺とシロの気まぐれの上で生活していく事になる」

「・・・。でも、それは、俺が代表になっても変わらないよな?」
「そうだな。でも、人の受け取る印象は違うよな?」
「印象?」
「そうだ。眷属に守られた絶対的な俺の顔色を伺って生活しているのと、そんな俺に意見をしたり、命令したりする事が出来るルートガー・エルミニオ・サラトガ・ペネムに従っているのでは違うよな?」
「・・・」
「次の世代では難しいかもしれないが、次の次の世代は違うかもしれない」
「あんたやシロ様が変わってしまう事はないのか?」
「わからない。わからないが、それはお前が心配する事ではないだろう?」
「・・・。そうだな。新の支配者は、一部の人間だけが知っていればいいということか?」
「そういう事だな。そうしたら、俺とシロは安全だし、お前たちも自分たちで掴み取った物を手放したくないだろう?」
「たしかにな。でも・・・」

「婿殿?諦めた方が良いと思うぞ?」
「ミュルダ殿?」
「元老院としても、ツクモ様がいつまでも前面に出るのは良いとは思っていない。早めに、ツクモ様には”ダンジョンの制御”だけをしてもらうようになってもらうのが良いと思っている」
「そうだな」

 ミュルダ老の言葉が全てなのだろう。
 俺がダンジョンを攻略した事は公にされているが、ダンジョンを自由に出来るとは思われていない。
 魔物が出にくい状態を保ったりする事が出来る程度だと思われている。

 いろんな場所に作ったダンジョンも、大きくなりすぎたペネムダンジョンの株分けだと説明している。人が居ないダンジョンは、勝手に成長してしまって、魔の森の様になってしまうので、人が近くに居て制御できる状態にしておきたいと言うのが説明の趣旨だ。
 その上で、成長したダンジョンを俺の制御が出来る範疇に抑える事で、資源として使う事が出来るというわけだ。
 全体会議で、それらのことを再度説明した上で、俺はダンジョンの制御だけを行う事になると説明する。

 ペネムダンジョンの様に、ある程度、成長したら攻略するか、街で資源として使うか考えればよいという事だ。
 そのために、チアル街の下にあるダンジョンの様に居住区が作れるように制御するか、通常のダンジョンの様に魔物が出てくるようにするのかを全体会議で決めてもらう事になる。

 諦めきった表情ながら、ルートガーは了承してくれた。
 ただ、一つだけ譲らなかったのが、チアル街の代官だという事にしてほしいという事だ。

 チアル街の代表は俺で、ルートガーは代官だという事になる。
 そして、裏の組織はルートガーから、元老院の下部組織となる。

 元老院は、耳の役目を持つ。俺や代官に情報を伝える役目だ。元老院の定員は5名とした。任命は、俺の名前で行う事になる。それ以外では解任はないが、決定権も何もない。組織図では、チアル街代官の下部組織となる。

 これらの事は、40日後の全体会議で決定される事になる。
 全体会議で、ルートガーが代官になる事は公表される。ルートガーの名前で全体会議が招集される事になる。反対する者は全体会議で発言する事になる。

 俺は、できた40日を使って、新たに産まれたダンジョンコアに意識が芽生えるのか実験する事にした。
 ホームから皆を出して、クローエとクローン・チアルとクローン・ペネムとクローン・ティリノだけを残して、倍率を1,440倍にする。

 このまま38日ほど放置すれば目安となる約150年149年が経過する事になる。

--- 38日後

「マスター!」
「お!クローエ。久しぶりだな」
「はい!149年ぶりです」
「そうだったな?それで?」
「はい。シャイベは意識を得たようですが、それ以外は、意識は芽生えないようです」
「どういう事だ?」
「あっちょっと待ってください。後数日で・・・」

 ホームからではなく、次元を越えてきたのか。クローン・チアルとクローン・ペネムとクローン・ティリノが出てきた。
 それから、初めて見るクローン・クローエが居る。あれが、シャイベなのか?

「マスター。お久しぶりです」
「そうだな。それがシャイベなのか?」
「はい。クローエ殿からクローンを譲り受けて、操作して居ます。やっと慣れたので、マスターの所に連れてきました」

「シャイベか?」
「はい。マスター。はじめまして、それから申し訳ありません」
「何を謝る?」
「ミュルダ。サラトガ。アンクラム。ブルーフォレスト。ユーバシャール。ロングケープ。パレスケープ。パレスキャッスル。ロンクハンドが、私のサブダンジョンソリューションになってしまって、意識が芽生える事はありません」
「ん?それならそれで別に問題は無いけど、シャイベの負担になっていないか?」
「いえ、むしろお姉さま達と違いまして、並行して9つのコアを連動させていますので、快適です」
「そうなのか・・・。問題がないのならいい。中はどうなっている?」

 なぜか全員が目をそらす。
 そりゃぁ149年も放置していたからな荒れ放題なのは当然だろう。

 倍率を1倍に戻して、丁度居たリーリアとシロを連れて中に入る。

 ・・・。
 これは、目をそむけたくなるな。

「クローエ。なにか言い訳があるのなら聞いてやるぞ?」
「え?なぜ私だと?」
「お前以外に考えられないからだ・・・。しょうがない。リーリア。オリヴィエとメイドドリュアスたちと協力して片付けと掃除を頼む」

「ご主人様。ここまで汚れていると作り直した方がよろしいかと思います」
「そうだな。任せる。クローエ。魔物は?」

「出てないであります。私たちで対応できました!」
「わかった」

 チアルが首を横に振っている事から、結界でしのいでいたのだろう。

「リーリア。カイとウミとライを呼んできてくれ。あと、エリンとアズリも・・・いいや、眷属を集結して、片付けてしまおう」
「かしこまりました」

 せっかく、いろいろ進化しているようだし、150年もかけて作られた生態系を無闇に崩したくない。
 魔物だけは間引いておいたほうがいいだろう、生態系のトップは俺たちだからな。それで生態系が崩れたら、その時にまた考えればいい。どうせ、俺たちの箱庭なのだから楽しめるようにしておきたい。

 一日かけて、ホームの中の大掃除をした。
 149年の汚れを落とすのにかかった時間だと思えば短いだろう。

 掃除が終わりかけた時に、クリスがホームにやってきて、全体会議が迎賓館で行われると呼びに来た。
 図らずにダンジョンと転移門の有用性が証明されてしまった。

 全体会議は何事もなく始まって、何事もなく終わった。
 今、新しく代官となったルートガーと俺が座る円卓には、サラトガ/ミュルダ/アンクラム/ユーバシャール/ロングケープ/パレスケープ/パレスキャッスルの各代官と元老院のミュルダ老とメリエーラ老が座っている。

 場所は、最初はルートガーの執務室で行うつもりだったが、諸般の事情で元老院が設置される場所に置いた円卓で行う事になった。

「ツクモ様」
「今日は、ダンジョンをどうしたいのか?それについての会議だ。それ以外は、各々やってほしい」

「ワシからもいいか?」

 サラトガの代官がなにかあるようだ

「ん?」
「この会議はこれからも定期的に行われると思っていいのか?」
「俺が出るとは限らないが、元老院とダンジョンを持つ代官の会議としておこなってくれ」
「それなら、文句はない」
「あっロンクハンドはまだ代官ではないが、参加する事になると思うが許して欲しい」

 皆が了承の意を示してくれる。

「俺からもいいか?」

 アンクラムの代官だ

「ルートガー殿がチアル街の全権代理者なのは納得したのだが、ダンジョンに関してはどうなる?」
「それを話したい。俺としては、各代官に任せたいと思っている」
「ありがたい。それなら文句はない。あと、できれば次回から、冒険者ギルドの関係者も呼んだほうがいいと思うがどうだろう?」

 俺は問題ないと思うが、俺が発言するとそれが確定となってしまう。
 皆の意見を聞いたが反対の意見はなかった。

「元老院としてはどうだ?」
「ワシは問題ないと思う。できれば、商人ギルドや職人ギルドを交えたほうがいいかもしれない」

 皆も賛成のようだ。
 さて、これから長い会議になるのだろう。利益の調整になるのだから、なかなか決まらないのはわかりきっている。
 ため息を隠して会議の成り行きを見守る事にした。

 そう思っていたのだが、会議はすぐに終わった。

 皆がロックハンド型のダンジョンを望んだからだ。
 ロックハンドの事は説明しなかったのだが、低階層では魔物が出てこないようにして、誰でも入られるようにしたいという事だ。

 資源としてのダンジョンは、チアル街が一手に引き受ければいいと考えているようだ。
 魔物はなるべく出てほしくないという事だ。ある程度はしょうがないが、冒険者が居着くようなダンジョンではなく、逃げられる場所にしたいという事のようだ。

 冒険者ギルドや商業ギルドを先に呼んでおきたいのは、これらの決定に不満を言わせないために必要だと思っているかららしい。
 ただ、時々魔物が出て、討伐されるくらいなら歓迎したいという事だ。

「ツクモ様。魔物が湧き出すのは制御出来るのですか?」
「難しいが、チアル街のダンジョンの様に、弱い魔物だけが出るようにしておいて、皆で倒していれば、強い魔物が産まれにくい状況には出来る」
「そうなのですね。それなら、チアル街から初心者の冒険者を派遣してもらって、ダンジョンを定期的に見回って貰えば大丈夫ということですか?」
「そう考えてもらって大丈夫だ」
「ありがとうございます。ルートガー殿。そのときの資源は?」
「属する地区で買い取って貰っていいと思う。ただ、冒険者が拒否したりする事がある」
「わかっています。それなら、俺は問題ないと思います」

 ユーバシャールの代官が手を挙げる。

「ツクモ様。ダンジョンの中はどの程度制御できるのですか?」
「ん?」
「例えば、気候とかは制御できますか?」
「やってみないとわからないけど、常夏とかは無理だな。一定の気温とかなら出来ると思う。チアル街のダンジョンはそうなっているからな」
「それなら、ユーバシャールのダンジョンは温かい気温でお願いしたい」
「なぜだ?」
「ユーバシャールの近くには、湿地帯があり、いろんな種族が生活しています。その者たちが、気温の変動に弱く、冬場にユーバシャールに押しかけてきます。しかし限度があるので押しかけてきた時の対処です」
「わかった。必ずとは約束できないけど、やってみる」
「ありがとうございます」

 これを皮切りに、各ダンジョンの安全地帯の地形や気候の要望を聞いた。

 一通りのまとめができた所で解散となった。
 全体会議からのダンジョン運用会議が終わった。

 元老院の部屋の奥から、外に出て、ログハウスに向かう事にした。
 ログハウスにも転移門が欲しいな。ダメかな?

「お疲れ様。カズトさん」
「本当につかれたよ」
「でも、これで・・・」
「そうだな。シロと結婚が出来るな」
「はい!」

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