【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります
第11話『おっさん、再び異世界へ』
翌日、敏樹は家の自動車を借りて近所のホームセンターを訪れていた。
丸1日経ったので〈拠点転移〉を使えるようにはなっているのだが、ネットで注文した装備類は届いておらず、鉄工所の同級生に頼んだ片手斧槍ができあがるまでに数日はかかるので、そのあたりがそろうまではこちらに残るつもりである。
「えっと……、カセットコンロは必須だよな。お、テントもあるのか。買っとこう。あと、寝袋の下に敷くクッションマットみたいなのも欲しいよなぁ。あ、枕!!」
といった具合にショッピングを楽しむ。
「おぉ、安全靴! これだとつま先を保護できるじゃないか」
思わぬところで思わぬ防具を見つけた敏樹は、カートにハイカットの安全靴を追加して会計をすませると、車に荷物を積んだまま近所の中古車ディーラーへと車を走らせた。
「おーい、いるかー?」
「はいよー、って大下先輩? 久しぶりじゃないっすかー!!」
敏樹が訪れたのは『パンテラモータース』という高校時代の後輩、真山徹の実家が営んでいる中古車ディーラーである。
敏樹の呼びかけに応じて顔を出したのは、つなぎに身を包んだ精悍な顔つきの三十代後半の男であった。
元々自動車のみを扱う中古車ディーラーだったが、徹の趣味の延長のような形でバイクを扱い始めていた。
「ひさしぶりっすねー。先輩が高校卒業して以来だから……」
「20年以上ぶりか」
「うへぇ、おれらも歳とりましたねぇ。で、何の用です? まさか大下先輩がバイクを買いに来たってワケじゃ――」
「いや、そのまさか」
「マジっすか!? 先輩、中免もってんすか?」
中免とは中型二輪免許のことであり、ずいぶん前から普通二輪と名称が変わっているのだが、敏樹らの世代の者はいまだに中免と呼ぶ者が多い。
敏樹は高校卒業時の際、普通自動車免許を取るついでに二輪の免許も取っていたのであった。
教習以来バイクに乗った経験は一度もないが。
「まぁ、最近おれらの世代でバイク買う人結構多いんすけどね。で、どんなのを?」
「森の中走ったり出来るやつ、かな」
「おおっと、クロカンに目覚めたんすか? 渋いっすねぇ」
クロカンとはクロスカントリーの略称であり、わかりやすくいえばオフロードのことである。
それのどこが渋いのかは謎だが、徹が言うところの“渋い”には特に意味はないのだろう。
「道とかはどんな感じです?」
「獣道すらない」
「うへぇ、いきなり上級っすねぇ……。ま、クロカンだとウチにあるのならこれ一択っすけど」
と後輩が示したのは白地に緑の模様が入った250CCのオフロードバイクであった。
「こいつならノーマルでもかなりイケますよ。もちろんイジったほうがいいのはいいんすけどね」
「あ、じゃあガッチガチのクロカン? 仕様にしといてよ。金のことは気にせずな」
「うほぉー、太っ腹っすねー、ありがとやっす! じゃあおれの全技術を注ぎ込みますよー」
「どれくらいかかる? 出来れば急ぎなんだけど」
「ダッシュで一週間くらいっすかね」
「オッケー。ついでにプロテクターとかヘルメットとか欲しいんだけど、ある?」
「モチっすよー」
都合のいいことに、どうやらこのショップはクロスカントリーにそこそこ力を入れているらしく、敏樹はここで頑丈なライダースジャケットにライダースパンツ、硬質プラスチック製のプロテクター一式とヘルメットを購入できた。
「あ、そうだ。あともう一つお願いがあるんだけど……」
敏樹はそのあと納車の日取りなどを決めつつバイク購入の手続きを済ませた。
「親父さんの調子どう?」
「いや元気すぎて困ってるんすよー」
「車のほうにいるの?」
「ええ。顔見ていきます?」
「そうだな。ついでに車も見とくか」
「お、まじっすか!? あざーっす!!」
敏樹は徹に連れられ、自動車コーナーへと足を運んだ。
「おう。大下くんか」
「どうも、ご無沙汰してます(親父さん久々に見たけど、なんかドワーフっぽいな)」
がっちりとした体格にひげ面という徹の父親に対してそんな印象を持ったのは、異世界に行ったことと無関係ではあるまい。
「――ふむ、クロカン仕様車で小回りがきくとなると、こいつかな」
徹の父親が示したのはスリードアで車高が高い小型車だった。
「えっと……、660って、軽じゃないですか!」
「おう、軽だな」
「いや、軽じゃパワー足りんでしょう?」
「おや、この車を知らんのかね?」
「車とかあんま詳しくないんで……」
「はは。それでよくクロカンなんぞに興味を持ったなぁ」
「いろいろありまして……」
「ま、詳しいことは訊かんでおこうか。でだ、こいつだがな。浅めの川なら余裕で渡れるんだよ」
「マジっすか?」
「ああ。取説にも川の渡り方書いてあるぐらいだからね」
「馬鹿じゃないです?」
「はっは。まぁそういう車なんだよ、こいつは」
「へええ」
「ま、軽が嫌だというんなら1.3リッターモデルもあるけどね。一回り大きいけどそれでも十分小回りはきくから」
そうやっていくつか質疑応答を繰り返した結果、敏樹はカーキ色の1.3リッターモデルを買うことにしたのだった。
「まいどありがとうね。でも、新車で買うんなら正規ディーラーに行った方がいいよ?」
「ああ、いやガッチガチのクロカン仕様に改造してほしいんで」
「そうなの? まぁ君がいいならこっちはありがたいけどね。ああ、それから、こいつは街乗りには向かないからね。燃費悪いしうるさいし揺れるしで」
「あー、大丈夫です。あともうひとつお願いがあるんですが……」
いろいろと頼み事をしたうえで自動車の購入手続きを進めた敏樹は、帰りに知り合いの不動産屋を尋ねて貸ガレージをひとつ、即決で契約した。
「ったく、ワケのわかんねーもん作らせやがって……」
バイクや車の購入手続きを行った日から数日後、同級生から連絡を受けた敏樹は、彼が営む鉄工所を訪れていた。
その同級生は敏樹よりも少し背が低い小太りの男で、頭はずいぶんと禿げ上がっていた。
数年前に同窓会で会ったときは決して帽子を脱ごうとしなかったのだが、どうやらもう開き直ったらしい。
「悪い悪い」
「ウチの製品で変なことするんじゃねーぞ」
「おう、わかってるって」
どう考えてもまともな用途がなさそうな武器を作らされた同級生だったが、敏樹からそれなりの対価を得ていたのでそれ以上突っ込んだ質問も忠告もなかった。
「大下、また暇なときに、な」
同級生はそう言うと、口元で杯を傾ける仕草を行なった。
「おう。またな」
同級生が帰ったあと、敏樹は出来上がった武器のほどよい重みを堪能していた。
斧頭の片方が刃に、他方が突起になっている片手持ちのタクティカルアックスをベースに、斧頭の中央から垂直に槍の穂のようなものが伸びている。
「しかし、いよいよ斧槍っぽくなったなぁ」
出来上がった武器のシルエットを見ながらそう呟いた敏樹は、その武器を片手斧槍と名付けることにした。
**********
「よっこらせっと……。こんなもんかな」
敏樹は体中にバックパックやらポーチやらを身につけ、だるまのような姿になっていた。
防刃ベストとライダースパンツの上からプロテクターを身につけ、フルフェイスヘルメットという格好なので、荷物がなくてもあまり人に見られたくない姿である。
トンガ戟を肩に担ぎコンパウンドボウはたすき掛けに身につけていた。
背負ったバックパックから、片手斧槍の斧頭が顔を出している。
盾に関しては丸形のライオットシールドだけを装備し、あとは後日に回すことにした。
こんな格好でいながら敏樹は庭に立っていた。
まだ薄暗い早朝なので、人が通ることはほとんどないのだが、それでもゼロではない。
人目につく危険を危険を冒してでも敏樹が庭に出たのは、安全靴を履いておきたかったことと、あらためて桜を見ておきたかったという理由があった。
ここ数日で花は散り始め、もう半分以下になっていた。
次にいつ帰ってくるかはわからないが、あと数日もすればすべて散ってしまうだろう。
その前にもう一度見ておきたいと、なんとなく思ってしまったのだ。
「さて、旅立つにはいい日だな」
風に吹かれて舞う桜の花びらを改めて眺めながら、敏樹はつぶやいた。
「よし、じゃあ行くか」
次の瞬間、敏樹が立っていた空間を埋めるために空気でも流れたのか、庭に散らばっていた桜の花びらがふわりと舞い上がった。
丸1日経ったので〈拠点転移〉を使えるようにはなっているのだが、ネットで注文した装備類は届いておらず、鉄工所の同級生に頼んだ片手斧槍ができあがるまでに数日はかかるので、そのあたりがそろうまではこちらに残るつもりである。
「えっと……、カセットコンロは必須だよな。お、テントもあるのか。買っとこう。あと、寝袋の下に敷くクッションマットみたいなのも欲しいよなぁ。あ、枕!!」
といった具合にショッピングを楽しむ。
「おぉ、安全靴! これだとつま先を保護できるじゃないか」
思わぬところで思わぬ防具を見つけた敏樹は、カートにハイカットの安全靴を追加して会計をすませると、車に荷物を積んだまま近所の中古車ディーラーへと車を走らせた。
「おーい、いるかー?」
「はいよー、って大下先輩? 久しぶりじゃないっすかー!!」
敏樹が訪れたのは『パンテラモータース』という高校時代の後輩、真山徹の実家が営んでいる中古車ディーラーである。
敏樹の呼びかけに応じて顔を出したのは、つなぎに身を包んだ精悍な顔つきの三十代後半の男であった。
元々自動車のみを扱う中古車ディーラーだったが、徹の趣味の延長のような形でバイクを扱い始めていた。
「ひさしぶりっすねー。先輩が高校卒業して以来だから……」
「20年以上ぶりか」
「うへぇ、おれらも歳とりましたねぇ。で、何の用です? まさか大下先輩がバイクを買いに来たってワケじゃ――」
「いや、そのまさか」
「マジっすか!? 先輩、中免もってんすか?」
中免とは中型二輪免許のことであり、ずいぶん前から普通二輪と名称が変わっているのだが、敏樹らの世代の者はいまだに中免と呼ぶ者が多い。
敏樹は高校卒業時の際、普通自動車免許を取るついでに二輪の免許も取っていたのであった。
教習以来バイクに乗った経験は一度もないが。
「まぁ、最近おれらの世代でバイク買う人結構多いんすけどね。で、どんなのを?」
「森の中走ったり出来るやつ、かな」
「おおっと、クロカンに目覚めたんすか? 渋いっすねぇ」
クロカンとはクロスカントリーの略称であり、わかりやすくいえばオフロードのことである。
それのどこが渋いのかは謎だが、徹が言うところの“渋い”には特に意味はないのだろう。
「道とかはどんな感じです?」
「獣道すらない」
「うへぇ、いきなり上級っすねぇ……。ま、クロカンだとウチにあるのならこれ一択っすけど」
と後輩が示したのは白地に緑の模様が入った250CCのオフロードバイクであった。
「こいつならノーマルでもかなりイケますよ。もちろんイジったほうがいいのはいいんすけどね」
「あ、じゃあガッチガチのクロカン? 仕様にしといてよ。金のことは気にせずな」
「うほぉー、太っ腹っすねー、ありがとやっす! じゃあおれの全技術を注ぎ込みますよー」
「どれくらいかかる? 出来れば急ぎなんだけど」
「ダッシュで一週間くらいっすかね」
「オッケー。ついでにプロテクターとかヘルメットとか欲しいんだけど、ある?」
「モチっすよー」
都合のいいことに、どうやらこのショップはクロスカントリーにそこそこ力を入れているらしく、敏樹はここで頑丈なライダースジャケットにライダースパンツ、硬質プラスチック製のプロテクター一式とヘルメットを購入できた。
「あ、そうだ。あともう一つお願いがあるんだけど……」
敏樹はそのあと納車の日取りなどを決めつつバイク購入の手続きを済ませた。
「親父さんの調子どう?」
「いや元気すぎて困ってるんすよー」
「車のほうにいるの?」
「ええ。顔見ていきます?」
「そうだな。ついでに車も見とくか」
「お、まじっすか!? あざーっす!!」
敏樹は徹に連れられ、自動車コーナーへと足を運んだ。
「おう。大下くんか」
「どうも、ご無沙汰してます(親父さん久々に見たけど、なんかドワーフっぽいな)」
がっちりとした体格にひげ面という徹の父親に対してそんな印象を持ったのは、異世界に行ったことと無関係ではあるまい。
「――ふむ、クロカン仕様車で小回りがきくとなると、こいつかな」
徹の父親が示したのはスリードアで車高が高い小型車だった。
「えっと……、660って、軽じゃないですか!」
「おう、軽だな」
「いや、軽じゃパワー足りんでしょう?」
「おや、この車を知らんのかね?」
「車とかあんま詳しくないんで……」
「はは。それでよくクロカンなんぞに興味を持ったなぁ」
「いろいろありまして……」
「ま、詳しいことは訊かんでおこうか。でだ、こいつだがな。浅めの川なら余裕で渡れるんだよ」
「マジっすか?」
「ああ。取説にも川の渡り方書いてあるぐらいだからね」
「馬鹿じゃないです?」
「はっは。まぁそういう車なんだよ、こいつは」
「へええ」
「ま、軽が嫌だというんなら1.3リッターモデルもあるけどね。一回り大きいけどそれでも十分小回りはきくから」
そうやっていくつか質疑応答を繰り返した結果、敏樹はカーキ色の1.3リッターモデルを買うことにしたのだった。
「まいどありがとうね。でも、新車で買うんなら正規ディーラーに行った方がいいよ?」
「ああ、いやガッチガチのクロカン仕様に改造してほしいんで」
「そうなの? まぁ君がいいならこっちはありがたいけどね。ああ、それから、こいつは街乗りには向かないからね。燃費悪いしうるさいし揺れるしで」
「あー、大丈夫です。あともうひとつお願いがあるんですが……」
いろいろと頼み事をしたうえで自動車の購入手続きを進めた敏樹は、帰りに知り合いの不動産屋を尋ねて貸ガレージをひとつ、即決で契約した。
「ったく、ワケのわかんねーもん作らせやがって……」
バイクや車の購入手続きを行った日から数日後、同級生から連絡を受けた敏樹は、彼が営む鉄工所を訪れていた。
その同級生は敏樹よりも少し背が低い小太りの男で、頭はずいぶんと禿げ上がっていた。
数年前に同窓会で会ったときは決して帽子を脱ごうとしなかったのだが、どうやらもう開き直ったらしい。
「悪い悪い」
「ウチの製品で変なことするんじゃねーぞ」
「おう、わかってるって」
どう考えてもまともな用途がなさそうな武器を作らされた同級生だったが、敏樹からそれなりの対価を得ていたのでそれ以上突っ込んだ質問も忠告もなかった。
「大下、また暇なときに、な」
同級生はそう言うと、口元で杯を傾ける仕草を行なった。
「おう。またな」
同級生が帰ったあと、敏樹は出来上がった武器のほどよい重みを堪能していた。
斧頭の片方が刃に、他方が突起になっている片手持ちのタクティカルアックスをベースに、斧頭の中央から垂直に槍の穂のようなものが伸びている。
「しかし、いよいよ斧槍っぽくなったなぁ」
出来上がった武器のシルエットを見ながらそう呟いた敏樹は、その武器を片手斧槍と名付けることにした。
**********
「よっこらせっと……。こんなもんかな」
敏樹は体中にバックパックやらポーチやらを身につけ、だるまのような姿になっていた。
防刃ベストとライダースパンツの上からプロテクターを身につけ、フルフェイスヘルメットという格好なので、荷物がなくてもあまり人に見られたくない姿である。
トンガ戟を肩に担ぎコンパウンドボウはたすき掛けに身につけていた。
背負ったバックパックから、片手斧槍の斧頭が顔を出している。
盾に関しては丸形のライオットシールドだけを装備し、あとは後日に回すことにした。
こんな格好でいながら敏樹は庭に立っていた。
まだ薄暗い早朝なので、人が通ることはほとんどないのだが、それでもゼロではない。
人目につく危険を危険を冒してでも敏樹が庭に出たのは、安全靴を履いておきたかったことと、あらためて桜を見ておきたかったという理由があった。
ここ数日で花は散り始め、もう半分以下になっていた。
次にいつ帰ってくるかはわからないが、あと数日もすればすべて散ってしまうだろう。
その前にもう一度見ておきたいと、なんとなく思ってしまったのだ。
「さて、旅立つにはいい日だな」
風に吹かれて舞う桜の花びらを改めて眺めながら、敏樹はつぶやいた。
「よし、じゃあ行くか」
次の瞬間、敏樹が立っていた空間を埋めるために空気でも流れたのか、庭に散らばっていた桜の花びらがふわりと舞い上がった。
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ノベルバユーザー251799
アホまるだしだな