T.T.S.
FileNo.1 Welcome to T.T.S. Chapter3-4
4
人気を匂わせる闇の中を、ストレートフラッシュが駆け抜ける。
和装の上に白衣を纏った二人は、前後で挟む様に人事不省に陥った有島を運んでいた。
ちなみに担架の代わりとして、源が身を隠していた葭簀を勝手ながら拝借している。
腹部を細い線状に貫かれた有島は青白くグッタリとしていて、生気を欠片も感じさせない。
正に瀕死状態だが、帰還すれば全快の見込みがある。
しかしながら、応急処置を行った源は有島の状態に驚いていた。
縮んだ胃とくすんだ肝臓。
その間に胆嚢を避ける形で引かれた創傷の線は、生体を完璧な時限装置に変えていた。
太い血管を一本だけ切られた彼の身体は、出血量こそ多いものの、内臓諸器官には一切の損傷が見られなかったのだ。
「即死はしねぇが放っときゃ致命的になる状態だな。胃の縮み具合からして飯を食ってる様子もねぇ……体力減衰でタイムリミットの下拵えって訳かよ」
処置を施した源は業腹な口調でそう言った。
いずれにしろ、今優先すべきはこの場を離れる事だ。
それは勿論、有島の容態が危険な為、と言うのもあるが、それ以上に、この時間に住む者達の関心が怖いからだ。
蔵の所有者宅には麻酔をかけてあるが、他の人々は違う。
彼等に事を悟られた瞬間、最も悪い想定か、それ以上の事が起こる可能性がある。
そこで絵美が発案し、二人が実行に移したのが、白衣姿での移送だった。
これは肉眼視認化拡張現実と言う変装技術に頼った案で、視覚誤認情報を発する光学迷彩に白衣のフィルターを重ねる事で成り立っており、これで二人は“患者を医局に移送の為に近所の葭簀を拝借した医者と看護婦”というシチュエーションを作ったのだ。
川村マリヤを確保するまでの衣装もこれに由る物で、フィルターを外した二人の姿は、ライダースーツの様な繋ぎになっている。
これにより、概ね二人の行動指針には障害がなくなった。
しかし、有島の損傷具合は偽りなく危険だ。
「紫姫音、緊急時信号を発信しろ!時間がねぇから急げ!!」
「わかった!」
D-28地点が視認出来る場所まで来て、先行する源がWPに向かって叫んだ。
紫姫音も状況を理解しているのか、即応する。
インジケーターが即座に開き、チャンネル検索を始めた。
負けじと絵美も適材適所を模索する。
「源、マリヤの運搬は私よりアンタの方が向いている。エリちゃんとの通信は代わって!」
「あいよ、紙園に川村と同じ場所に葭簀置いといていぃか聞ぃといてくれ」
「分かった」
「源!緊急信号送ったよ!20秒後に返信来るって!」
「だとよ、紫姫音ごと渡すから、後ぁ頼んだぞ」
WITを放った源は、そのまま有島を引き摺って民家に消える。
乱回転するそれをキャッチし、絵美は頷く。
「じゃあ繋げ……大丈夫?」
「め……まわった」
「……頑張ろう紫姫音ちゃん」
ウェッと嘔吐寸前の嘆息を吐き、紫姫音は固定化完了を宣言した。
「いけるよ」
紙園エリの声が流れ出す。
「T.T.S.No.2い源、何故貴方は毎回毎回緊急信号で通信されるのですか?軽挙は慎めと骨身に染みる様に教え込んだのに、何をやっているんですか貴方は?馬鹿ですか?愚図ですか?白痴ですか?死んで頂けませんか?」
「……えと、ごめんねエリちゃん。私、絵美なのだけど、本当に緊急事態なの。作業分担で源と代わっていて……」
「絵美さん?では、この通信は……」
「詳細は後で。ともかくTLJを早急に跳躍させて。重要参考人を確保したのだけど重傷を負っていて……このままでは命があ「ぶないよねえ」……え?」
「絵美!!」
突然、自身の言葉に割り込んだ誰かと紫姫音の声を聞いた。
直後。
脇腹に受けた信じられない力に呼気と吸気を全て奪われ、絵美の身体が高々と飛んだ。
これまで感じた事のない浮遊感。
それはザラザラ巡る視界の中で肩に受けた別の衝撃により逆転。
絶望的な落下感に変貌する。
だが、それも刹那の事。
すぐに焼ける様な痛みが背中に走り、風が止んだ。
瞬く間に起こった出来事に、理解はおざなりにされたまま。
漸く開けた目に、満天の星空が広がる。
三半規管が狂ったか、未だに浮遊感が拭えない。
呼吸の仕方が分からない。
全てが一瞬だったのに、患部が熱に脈動し、現実なのだと糺す。
「ガハッ…………ゲホッ…………」
咽返りで復活した心肺が、全身の鈍痛を際立たせる。
「…………ぐ……」
奥歯を噛んで痛みに耐え、体を起こそうとする。
だが。
「慌てないで」
強い力で胸を押さえられ、絵美は再び仰向けに戻された。
激痛が意識を揺さぶる。
『ヤバい……どこでもいいから、身体を動かさなきゃ……意識が、飛ぶ……』
気合と根性で手を伸ばす。
胸の強い圧力を掴み、それが何者かの脚だと分かった。
『誰だ……コノ!』
怒りと共に瞼を開く。
ソレを見た瞬間、脳裏に源の言葉がリフレインした。
“今回の相手はマジでヤバい!ヤバ過ぎる!!”
「はじめまして、だね。彼はどこだい?」
そこに、金糸で刺繍をあしらった藍地の直垂を纏う翁面があった。
人気を匂わせる闇の中を、ストレートフラッシュが駆け抜ける。
和装の上に白衣を纏った二人は、前後で挟む様に人事不省に陥った有島を運んでいた。
ちなみに担架の代わりとして、源が身を隠していた葭簀を勝手ながら拝借している。
腹部を細い線状に貫かれた有島は青白くグッタリとしていて、生気を欠片も感じさせない。
正に瀕死状態だが、帰還すれば全快の見込みがある。
しかしながら、応急処置を行った源は有島の状態に驚いていた。
縮んだ胃とくすんだ肝臓。
その間に胆嚢を避ける形で引かれた創傷の線は、生体を完璧な時限装置に変えていた。
太い血管を一本だけ切られた彼の身体は、出血量こそ多いものの、内臓諸器官には一切の損傷が見られなかったのだ。
「即死はしねぇが放っときゃ致命的になる状態だな。胃の縮み具合からして飯を食ってる様子もねぇ……体力減衰でタイムリミットの下拵えって訳かよ」
処置を施した源は業腹な口調でそう言った。
いずれにしろ、今優先すべきはこの場を離れる事だ。
それは勿論、有島の容態が危険な為、と言うのもあるが、それ以上に、この時間に住む者達の関心が怖いからだ。
蔵の所有者宅には麻酔をかけてあるが、他の人々は違う。
彼等に事を悟られた瞬間、最も悪い想定か、それ以上の事が起こる可能性がある。
そこで絵美が発案し、二人が実行に移したのが、白衣姿での移送だった。
これは肉眼視認化拡張現実と言う変装技術に頼った案で、視覚誤認情報を発する光学迷彩に白衣のフィルターを重ねる事で成り立っており、これで二人は“患者を医局に移送の為に近所の葭簀を拝借した医者と看護婦”というシチュエーションを作ったのだ。
川村マリヤを確保するまでの衣装もこれに由る物で、フィルターを外した二人の姿は、ライダースーツの様な繋ぎになっている。
これにより、概ね二人の行動指針には障害がなくなった。
しかし、有島の損傷具合は偽りなく危険だ。
「紫姫音、緊急時信号を発信しろ!時間がねぇから急げ!!」
「わかった!」
D-28地点が視認出来る場所まで来て、先行する源がWPに向かって叫んだ。
紫姫音も状況を理解しているのか、即応する。
インジケーターが即座に開き、チャンネル検索を始めた。
負けじと絵美も適材適所を模索する。
「源、マリヤの運搬は私よりアンタの方が向いている。エリちゃんとの通信は代わって!」
「あいよ、紙園に川村と同じ場所に葭簀置いといていぃか聞ぃといてくれ」
「分かった」
「源!緊急信号送ったよ!20秒後に返信来るって!」
「だとよ、紫姫音ごと渡すから、後ぁ頼んだぞ」
WITを放った源は、そのまま有島を引き摺って民家に消える。
乱回転するそれをキャッチし、絵美は頷く。
「じゃあ繋げ……大丈夫?」
「め……まわった」
「……頑張ろう紫姫音ちゃん」
ウェッと嘔吐寸前の嘆息を吐き、紫姫音は固定化完了を宣言した。
「いけるよ」
紙園エリの声が流れ出す。
「T.T.S.No.2い源、何故貴方は毎回毎回緊急信号で通信されるのですか?軽挙は慎めと骨身に染みる様に教え込んだのに、何をやっているんですか貴方は?馬鹿ですか?愚図ですか?白痴ですか?死んで頂けませんか?」
「……えと、ごめんねエリちゃん。私、絵美なのだけど、本当に緊急事態なの。作業分担で源と代わっていて……」
「絵美さん?では、この通信は……」
「詳細は後で。ともかくTLJを早急に跳躍させて。重要参考人を確保したのだけど重傷を負っていて……このままでは命があ「ぶないよねえ」……え?」
「絵美!!」
突然、自身の言葉に割り込んだ誰かと紫姫音の声を聞いた。
直後。
脇腹に受けた信じられない力に呼気と吸気を全て奪われ、絵美の身体が高々と飛んだ。
これまで感じた事のない浮遊感。
それはザラザラ巡る視界の中で肩に受けた別の衝撃により逆転。
絶望的な落下感に変貌する。
だが、それも刹那の事。
すぐに焼ける様な痛みが背中に走り、風が止んだ。
瞬く間に起こった出来事に、理解はおざなりにされたまま。
漸く開けた目に、満天の星空が広がる。
三半規管が狂ったか、未だに浮遊感が拭えない。
呼吸の仕方が分からない。
全てが一瞬だったのに、患部が熱に脈動し、現実なのだと糺す。
「ガハッ…………ゲホッ…………」
咽返りで復活した心肺が、全身の鈍痛を際立たせる。
「…………ぐ……」
奥歯を噛んで痛みに耐え、体を起こそうとする。
だが。
「慌てないで」
強い力で胸を押さえられ、絵美は再び仰向けに戻された。
激痛が意識を揺さぶる。
『ヤバい……どこでもいいから、身体を動かさなきゃ……意識が、飛ぶ……』
気合と根性で手を伸ばす。
胸の強い圧力を掴み、それが何者かの脚だと分かった。
『誰だ……コノ!』
怒りと共に瞼を開く。
ソレを見た瞬間、脳裏に源の言葉がリフレインした。
“今回の相手はマジでヤバい!ヤバ過ぎる!!”
「はじめまして、だね。彼はどこだい?」
そこに、金糸で刺繍をあしらった藍地の直垂を纏う翁面があった。
「T.T.S.」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
1,391
-
1,159
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
450
-
727
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
27
-
2
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
14
-
8
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
1,000
-
1,512
-
-
215
-
969
-
-
2,860
-
4,949
-
-
398
-
3,087
-
-
2,629
-
7,284
-
-
614
-
1,144
-
-
104
-
158
-
-
65
-
390
-
-
10
-
46
-
-
3
-
2
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
3,653
-
9,436
-
-
187
-
610
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
71
-
63
-
-
86
-
288
-
-
23
-
3
-
-
33
-
48
-
-
477
-
3,004
-
-
4
-
1
-
-
86
-
893
-
-
83
-
250
-
-
10
-
72
-
-
218
-
165
-
-
3,548
-
5,228
-
-
2,799
-
1万
-
-
6
-
45
-
-
7
-
10
-
-
47
-
515
-
-
17
-
14
-
-
4
-
4
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
614
-
221
-
-
42
-
52
-
-
62
-
89
-
-
116
-
17
-
-
1,658
-
2,771
-
-
164
-
253
-
-
34
-
83
-
-
51
-
163
-
-
42
-
14
-
-
1,301
-
8,782
-
-
265
-
1,847
-
-
213
-
937
-
-
83
-
2,915
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
220
-
516
-
-
408
-
439
-
-
29
-
52
「SF」の人気作品
-
-
1,798
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント