T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-5


~1937年5月15日PM3:50
カタルーニャ共和国 バルセロナ~

 相も変わらず、バルセロナの街には爆音と発砲音、そして悲鳴が響く。だが、そんな中でもグエル公園の一角だけには静寂が広がっていた。
 ベテラン兵との死闘を終え、グッタリと疲れた源の元に幸美と紗琥耶がやって来たのは、つい5分ほど前のことだ。MP18/1やチャフグレネードの音に夜光虫のごとく吸い寄せられた兵の数は、思ったよりも多く、大規模だった。

「とりあえず全員仲良く昇天イカせてる。今なら自家発電したってバレねえから安心しな」

 大軍相手にも楽しんだのか、何倍も血色の良くなった紗琥耶は、幸美を連れて来ると同時に、神資質Heiligeの乱用でぐったりした源を見て爆笑した。

「うわだっせ!EDのチンコかよ!あはははは!」
「大丈夫?ケガしてない?水持って来たよ、飲む?」

 一方の幸美は、源を見つけるなり駆け寄って、その身を抱き起す。ついさっき知り合ったとは思えない距離感と、厚かましいほどの甲斐甲斐しさで彼の口に水筒を突っ込んだ。
 源からすれば、飴と鞭を同時に喰らわされたようで、胸焼けのような鬱陶しさだ。

「セットになってうるせぇなお前ら」

 だが、折角の幸美の補助を無下にも出来ない。背中を掻くことすら億劫に感じる倦怠感と疲労感の中、彼はなんとか身体を起こす。
 しかし、ゆっくりもしていられない。

「おぃ、現代あっちはどぉなった?」
「インポ野郎がいきってんじゃねえよ。アタシらイク時間調整出来んだろうが」

「そうだよ。そんなにボロボロなんだから無理しないで」

 フラフラの身体を抱き抱える幸美が、源の顔を覗き込む。
 首を少し傾げれば唇が触れる至近距離っぷりに、もう一つの厄介者が動いた。

「ちかすぎ!はなれて!」

 突如実体化した紫姫音に顔を引きはがされ、幸美は瞠目する。

「な、何すんのよ!このAI!」
「そっちこそなにしてんの⁉源にそんなことしていいの紫姫音と亜金だけなんだから!」

 先ほどとは温度の違う喧しさの第2ラウンド開幕に、いよいよ源の疲労感は頂点に達した。
 心底嫌だが、後は任せるしかなさそうだ。
 源は紗琥耶に視線を投げる。

「おぃ……ちょい寝る……コイツら……頼」

 言い終わりもしないうちに、源は眠りに落ちた。
 それを視界の隅で確認し、幸美と紫姫音の争いに目を転じた紗琥耶の脳内に、鈴蝶の声が響く。

《ジョーンちゃん、そろそろ源ちゃんも寝た頃だろうからお知らせしておくね。幸美ちゃんが近くにいるなら距離を取って》
『いいよ』

 話題の中心人物の変化に気づきもせず、言い争いから取っ組み合いへと変化した女児2人から少し距離を取って、紗琥耶は続けた。

「聞いてあげる」
《先ほどアグネスちゃんがP.T.T.S.と共に敵本拠地に乗り込みました。が、依然として皇議員と粟生田外相の行方は不明。でも一つだけ手がかりが。保護されたロサちゃんが係留されていた拘束箱バードケージでどこかにいる大臣たちと接触。その時設定されていた場所は、どこかの倉庫か・・・・・・・下水道のような・・・・・・・暗闇と冷たい床・・・・・・・だった・・・、そうだ》

「ふーん。なら、アタシの方が先にイケるかもね」
《私もそう見てる。頼めるかい?》

「いーよ。今日はもう充分ヤレたし」

 舌なめずりしながら紗琥耶は笑った。

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