T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Chapter 4-10

10
~1937年5月15日PM4:10
カタルーニャ共和国 バルセロナ~

 やりきれない夢を見た。
 啼泣するような爆発音が世界に響き渡る。

《源!起きて!》

 全てを壊し、憎しみで埋め尽くしていく。

《源起きて!貴方の出番なの!》

 悪い夢に苛まれた少女は、涙に塗れて己を責める。

《起きて!貴方にしか出来ないの!》

 赦してしまった。贖いを反故にしてしまった。断ずべき罪を忖度してしまった。そう、自らを責める少女がいた。

「起きろこのインポ野郎」
「ドゥォホ!!」

 脇腹に鋭い痛みを感じて、源は跳び起きた。
 目を白黒させながら確認すると、紗琥耶の爪先が脇腹に食い込んでいる。

「起きろ。絵美たんがヤってほしいプレイがあんだと」

 意味が呑み込めずに顔を顰める源の耳に、絵美の叫びが響いた。

《源!起きて!起き……起きなさい!》
「お前らそんなに俺が憎いか」

 蹴りで叩き起こされ、荒々しい語気で歓迎されるとは、一体どれだけ不徳を致してきたのか。さすがの源も自省と懺悔をしようか考えてしまった。

《あ、いや、そういうことじゃないの。ごめん疲れてるのに》
「別にいいでしょ。勃たなきゃ勃たせりゃいいだけなんだし」

「テメェは黙ってろ糞ビッチ。絵美、何すりゃいぃんだ?」

 絵美に呼び出されたなら、源は立ち上がらなければならない。武器は持ち主の呼び掛けに応じるものなのだから。
 気怠い身体を懸命に持ち上げ、源は起き上がる。よろめきは、幸美と紫姫音が支えてくれた。

《行方不明だった皇議員たちの居場所が分かったの。それと、ロサたちを苦しめてる武器の所在もね。だから両方とも何とかして欲しい》
「待て待て待て、色々よくわかんねぇけど……ロサ?アイツ今、どこにいんだ?」

現在こっちのそこ。グエル公園よ》
「なんでんなことになってんだ?」

《色々あったの……それでね、RUIDORUEDAはどうやらグエル公園を本拠地にしているみたいなの》
RUIDORUEDA?」

薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスの派生組織みたいな感じで認識してくれる?詳しくは後で説明するけど、悪党がよくやる横展開の組織ってやつ》
「なるほどな」

1937年そっちに出た違法時間跳躍者クロック・スミス現在こっちで皇議員たちを攫ったのもRUIDORUEDAのメンバー》
「なるほど、TLJ-4300SHタイムマシンが計画の中心に組み込まれてるってわけだな」

《話が早くて助かるわ。でも皇議員たちが見つかってない。ロサたちが探しても紗琥耶が探しても出てこなかったの》

 源は紗琥耶に目を向けると、彼女は肩を竦めた。
 紗琥耶は下品だが、嘘は吐かない。

「で、その見当がついたと」
《ええ。でもとてつもなく特別な場所なの》

「へぇ、スパルタか?アルカトラズか?それともアムステルダムのデ・ウォーレンか?」
亜実体物質空間・・・・・・・

 しばし、間があった。

「何だって?」

 源の言葉は、紗琥耶も感じていることだ。

「亜実体物質って吽號のことじゃないの?」
《私もその辺りのことがよく分からないから青洲さんに訊いたわ》

「そりゃおじいちゃんも大喜びだったでしょうね」
「そんで?」

 紗琥耶のからかいを無視して、源は先を促す。

《亜実体物質は時間跳躍のための仮想空間構築因子だそうよ。それで仮初の現実レイヤーとしての空間を作成して跳躍先の空間と重ね、一時的に空間を上書きする。それが時間跳躍する際にTLJ-4300SH吽號の果たす役割なんですって》

 色々な原理や法則を省略したダイジェストな解説だったが、それでも雲を掴むような不明瞭さは拭い去れなかった。

「まぁなんだ。その亜実体物質空間とやらに行きゃいぃんだろ?なんで俺なんだ?」
「確かにそうね」

 本題はここからだ。
 なぜ紗琥耶ではなく満身創痍の源なのか。

《亜実体物質空間っていうのは、質量を司るヒッグス粒子のない世界なんですって。これってつまり、貴方の腕と同じってことでしょ?》

 言い逃れは出来そうもない。
 自然と源の表情かおは歪んだ。

「あぁ、そぉいぅことかよクソッたれ」

 どうやら、今日という日が源の厄日らしい。

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