T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Last Chapter-1
1
~2176年9月30日AM11:07
廃国独自自治区バルセロナ~
グエル公園の市場は、ガウディとグエルが思い描いた都市構想が実ったような喧噪の中にあった。
ただ、そこで飛び交うのは人の声でも生活物資でもなく、人を殺す武器だ。
加えて、爆発音とともに巻き上がるチャフが視界を塞ぎ、地面や柱から現れるニコラエのガントレットの攻撃も加わり、市場スペースは一瞬も気の抜けない空間と化している。
自動投擲と視界遮断、アットランダムな強打の中、それでも源は笑っていた。
「殺し合いってのはこぉじゃねぇとなぁ!」
「まったくだ。色々と奸計を巡らせるより、俺にはこちらが向いている」
ニコラエの言葉に、源は答えを見出した。予想の的中が生む独特の快感に、思わず口元が緩む。
「なるほど。テメェやっぱワザとだな」
銀色の砂嵐の中から襲い来る真っ黒なミスリルの拳が答えた。
「俺に協力を求めた連中のミスさ!」
「だろぉな!」
同じミスリルの凶運の掴み手で拳を受け止めた源は、ニコラエの拳を握り絞める。
「だからT.T.S.に負けんだ、RUIDORUEDAは!」
そのまま、源は握った手を真上へ振るう。
地中に潜んでいたニコラエの身体は、空中に放り投げられた。
『どぉにも他人って感じがしねぇよ、ニコラエ』
絵美から送られてきた経歴を見た時から、源は彼に親近感を抱いていた。
ネオナチの秘密組織から逃げ出し、父親を捜しに出た自らの経験が、国を追われたニコラエの姿にダブる。
能動受動の差こそあれ、所属を失えば一度は味わう厭世的な疎外感。誰にも必要とされず、誰も必要としない時間が与える孤独。
それが彼にどんな変化を与えたのかはわからないが、信念を折られ、人を殺めること以外なにも出来ない男には、応えたことだろう。
彼の暗躍ぶりからは、その復讐に全力で己が力を行使したことが窺えた。
では、もしニコラエがその復習をすべて達成し終えたなら、次に望むものはなんだろうか。
答えは、死だ。
それも、出来るだけ人々の記憶に残るような、鮮烈な死だ。
『もしかしたら、俺もテメェみてぇになってたかもしんねぇな』
強すぎる破滅願望は、時に英雄的行動を生む。
だが、英雄的行動とは勝者側にのみ下される判断であり、賊軍と銘打たれた敗者には決して与えられない。
それでも、鮮烈な死を迎えれば、それはメッセージとなって、誰かになにかを送ることが出来る。
ならばせめて、似た者同士、終わり方だけでも華々しくしてやりたい。
最後の抵抗だろう。チャフの銀の嵐が巻き上がり、全方位から武器が射出された。
「しゃらくせぇ!」
掴んでいた片手剣を思い切り振り回す。
光速に近い速度の回転運動に巻き込まれ、投擲武器は四散。空気との摩擦熱で片手剣は溶け落ち、チャフも焼け落ち、撒き散らされた。
合切の攻め手を無効化され、瞠目するニコラエを前に、源は弔いの一言を吐く。
「じゃぁな、串刺し公」
凶運の掴み手の表面を走る血管のような赤い筋がくすみ、黒いグローブは煌いた。
衝撃放出を抑制していた枷が外れ、ミスリルが溜めに溜めた衝撃を放つ準備を終える。
源の拳は、正確にニコラエの正中を捉えた。
真っ黒な輝きが一直線に突き抜ける。
腹腔に大穴をこさえた串刺し公は内蔵をばら撒きながら吹き飛び、やがて園内にあるゴルゴダの丘の十字架に突き刺さった。
十字架に架かったニコラエに源は中指を突き立てる。
「お似合いだぜ、串刺し公ニコラエ・ツェペシュ」
~2176年9月30日AM11:07
廃国独自自治区バルセロナ~
グエル公園の市場は、ガウディとグエルが思い描いた都市構想が実ったような喧噪の中にあった。
ただ、そこで飛び交うのは人の声でも生活物資でもなく、人を殺す武器だ。
加えて、爆発音とともに巻き上がるチャフが視界を塞ぎ、地面や柱から現れるニコラエのガントレットの攻撃も加わり、市場スペースは一瞬も気の抜けない空間と化している。
自動投擲と視界遮断、アットランダムな強打の中、それでも源は笑っていた。
「殺し合いってのはこぉじゃねぇとなぁ!」
「まったくだ。色々と奸計を巡らせるより、俺にはこちらが向いている」
ニコラエの言葉に、源は答えを見出した。予想の的中が生む独特の快感に、思わず口元が緩む。
「なるほど。テメェやっぱワザとだな」
銀色の砂嵐の中から襲い来る真っ黒なミスリルの拳が答えた。
「俺に協力を求めた連中のミスさ!」
「だろぉな!」
同じミスリルの凶運の掴み手で拳を受け止めた源は、ニコラエの拳を握り絞める。
「だからT.T.S.に負けんだ、RUIDORUEDAは!」
そのまま、源は握った手を真上へ振るう。
地中に潜んでいたニコラエの身体は、空中に放り投げられた。
『どぉにも他人って感じがしねぇよ、ニコラエ』
絵美から送られてきた経歴を見た時から、源は彼に親近感を抱いていた。
ネオナチの秘密組織から逃げ出し、父親を捜しに出た自らの経験が、国を追われたニコラエの姿にダブる。
能動受動の差こそあれ、所属を失えば一度は味わう厭世的な疎外感。誰にも必要とされず、誰も必要としない時間が与える孤独。
それが彼にどんな変化を与えたのかはわからないが、信念を折られ、人を殺めること以外なにも出来ない男には、応えたことだろう。
彼の暗躍ぶりからは、その復讐に全力で己が力を行使したことが窺えた。
では、もしニコラエがその復習をすべて達成し終えたなら、次に望むものはなんだろうか。
答えは、死だ。
それも、出来るだけ人々の記憶に残るような、鮮烈な死だ。
『もしかしたら、俺もテメェみてぇになってたかもしんねぇな』
強すぎる破滅願望は、時に英雄的行動を生む。
だが、英雄的行動とは勝者側にのみ下される判断であり、賊軍と銘打たれた敗者には決して与えられない。
それでも、鮮烈な死を迎えれば、それはメッセージとなって、誰かになにかを送ることが出来る。
ならばせめて、似た者同士、終わり方だけでも華々しくしてやりたい。
最後の抵抗だろう。チャフの銀の嵐が巻き上がり、全方位から武器が射出された。
「しゃらくせぇ!」
掴んでいた片手剣を思い切り振り回す。
光速に近い速度の回転運動に巻き込まれ、投擲武器は四散。空気との摩擦熱で片手剣は溶け落ち、チャフも焼け落ち、撒き散らされた。
合切の攻め手を無効化され、瞠目するニコラエを前に、源は弔いの一言を吐く。
「じゃぁな、串刺し公」
凶運の掴み手の表面を走る血管のような赤い筋がくすみ、黒いグローブは煌いた。
衝撃放出を抑制していた枷が外れ、ミスリルが溜めに溜めた衝撃を放つ準備を終える。
源の拳は、正確にニコラエの正中を捉えた。
真っ黒な輝きが一直線に突き抜ける。
腹腔に大穴をこさえた串刺し公は内蔵をばら撒きながら吹き飛び、やがて園内にあるゴルゴダの丘の十字架に突き刺さった。
十字架に架かったニコラエに源は中指を突き立てる。
「お似合いだぜ、串刺し公ニコラエ・ツェペシュ」
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