T.T.S.
FileNo.2 In Ideal Purpose On A Far Day Last Chapter-2
2
中天に差し掛かった日差しが強烈な光を注ぐ中、皇幸美は手を額にかざし、市場を睨んでいた。
どんどん熱せられていく身体とは裏腹に、彼女の頭は冷たく静かに回転する。
『私は、なにを成せると思ってたんだろう』
轟音のラリーが終わり、吹き飛んだニコラエの遺体を見た時、彼女の心臓は押し潰されそうだった。
十字架に架かった亡骸を崇拝する者が、今の幸美には信じられない。罰された人の姿を象ってありがたがるなんて、狂気の沙汰でしかなかった。
罪への懲罰を象徴するなんて、どれだけ烏滸がましいのだろう。罪を自覚し、悔悟する今の幸美には、軽くて薄いものにしか映らない。
誰かに縋りたくて、無意識に彼女の脚は動き出した。
『私が殺した……私が殺したんだ……あの人も、グレゴリーも、私が……』
重くなる心臓の鼓動に、立ち止まりそうになる。
フラフラと引きずる足がどこに向かって歩を進めているのか、もはや幸美自身にも分からなかった。
それでも、暗がりの中にい源の姿を見つけて、少女は足を止める。
「よぉ……今、テメェの親父、引きずり出してやっ……から、もぉちょい、待ってろ」
全身にキズを負った源の身体は、もはや血に染まっていない部分の方が少なく、震える手脚は今にも脱力し、崩れ落ちそうだ。
だが、それでも男は強い眼差しで地面を睨み、その先へ、光の手を伸ばした。
『あぁ……やっぱりこの人は……』
目に涙が浮かぶ。
これが、自分のワガママと身勝手な行動の結果だ。
源はキズなど恐れてはいなかったろう。グレゴリーもニコラエも、最初から死ぬつもりだったのだろう。
それでも、源にキズを負わせたのは、グレゴリーとニコラエに死ぬキッカケを与えてしまったのは、まぎれもなく自分だと、幸美は痛感した。
『私は、結局なにも出来てないんだ』
今だってそうだ。
死に体の源を止めたいのに、なにも出来ない。
甘えていたのだ。
向き合わなければいけない罪から目を背け、安直に現実逃避していた。
『底なしのバカだ。私は』
「……まだ間に合うのかな……」
呟いた自覚はなかった。
だが、言葉は漏れ、届いていた。
源は虹色の渦から手を引き出しながら、鼻で笑う。
「お前次第だろぉな……っし、これでいぃだろ。雪美、即行で覚悟決めろ」
「……え?」
「行ってこい。お前の親父はあそこから出て来る。悪ぃが俺はそろそろ限界だ」
源は管理小屋を指示すると、その場にヘタレ混んだ。
幸美は源と彼の指し示す方向とを交互に見比べて、大きく一つ、深呼吸する。
彼女の罪も、彼女の父の罪も、決して許されるべきではない。
しかしながら、その罪を自覚出来たなら、悔悟出来たなら、罰してもらうことは出来る。
『そうだ……私も、戦わなきゃ』
少女は顔を上げた。
涙を拭く権利はない、目を逸らす資格もない。
「私、もう逃げないよ。戦う。貴方みたいに」
皇幸美は彼女の戦場に向かう。
一度は逃げ出した、自分と決着を着け、自分を裏切った父親に立ち向かうために。
中天に差し掛かった日差しが強烈な光を注ぐ中、皇幸美は手を額にかざし、市場を睨んでいた。
どんどん熱せられていく身体とは裏腹に、彼女の頭は冷たく静かに回転する。
『私は、なにを成せると思ってたんだろう』
轟音のラリーが終わり、吹き飛んだニコラエの遺体を見た時、彼女の心臓は押し潰されそうだった。
十字架に架かった亡骸を崇拝する者が、今の幸美には信じられない。罰された人の姿を象ってありがたがるなんて、狂気の沙汰でしかなかった。
罪への懲罰を象徴するなんて、どれだけ烏滸がましいのだろう。罪を自覚し、悔悟する今の幸美には、軽くて薄いものにしか映らない。
誰かに縋りたくて、無意識に彼女の脚は動き出した。
『私が殺した……私が殺したんだ……あの人も、グレゴリーも、私が……』
重くなる心臓の鼓動に、立ち止まりそうになる。
フラフラと引きずる足がどこに向かって歩を進めているのか、もはや幸美自身にも分からなかった。
それでも、暗がりの中にい源の姿を見つけて、少女は足を止める。
「よぉ……今、テメェの親父、引きずり出してやっ……から、もぉちょい、待ってろ」
全身にキズを負った源の身体は、もはや血に染まっていない部分の方が少なく、震える手脚は今にも脱力し、崩れ落ちそうだ。
だが、それでも男は強い眼差しで地面を睨み、その先へ、光の手を伸ばした。
『あぁ……やっぱりこの人は……』
目に涙が浮かぶ。
これが、自分のワガママと身勝手な行動の結果だ。
源はキズなど恐れてはいなかったろう。グレゴリーもニコラエも、最初から死ぬつもりだったのだろう。
それでも、源にキズを負わせたのは、グレゴリーとニコラエに死ぬキッカケを与えてしまったのは、まぎれもなく自分だと、幸美は痛感した。
『私は、結局なにも出来てないんだ』
今だってそうだ。
死に体の源を止めたいのに、なにも出来ない。
甘えていたのだ。
向き合わなければいけない罪から目を背け、安直に現実逃避していた。
『底なしのバカだ。私は』
「……まだ間に合うのかな……」
呟いた自覚はなかった。
だが、言葉は漏れ、届いていた。
源は虹色の渦から手を引き出しながら、鼻で笑う。
「お前次第だろぉな……っし、これでいぃだろ。雪美、即行で覚悟決めろ」
「……え?」
「行ってこい。お前の親父はあそこから出て来る。悪ぃが俺はそろそろ限界だ」
源は管理小屋を指示すると、その場にヘタレ混んだ。
幸美は源と彼の指し示す方向とを交互に見比べて、大きく一つ、深呼吸する。
彼女の罪も、彼女の父の罪も、決して許されるべきではない。
しかしながら、その罪を自覚出来たなら、悔悟出来たなら、罰してもらうことは出来る。
『そうだ……私も、戦わなきゃ』
少女は顔を上げた。
涙を拭く権利はない、目を逸らす資格もない。
「私、もう逃げないよ。戦う。貴方みたいに」
皇幸美は彼女の戦場に向かう。
一度は逃げ出した、自分と決着を着け、自分を裏切った父親に立ち向かうために。
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