チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

第五話 兄妹

 領主の街に着いた、辺境だといっても領主にまでなった人が住んでいる街なので、僕達が住んでいる村と違って、いろいろ進んでいる。

 城壁と言われるような物もあり、魔物の侵入を拒んでいる。城塞都市と呼ばれているのもうなずける。

 数年に一度魔物が、大量発生して襲ってくる時でも、町を守ることが出来るとの事だ。

 村や城砦がない場所が、襲われたときには、”奇跡の力”を使う”アウラ・パラティア”のマルクトが近隣にいてくれればいいが、そうでない場合には、街一つが魔物に寄って滅ぼされてしまう。

 領主の城下町は、城壁のおかげで過去何度か発生していた、魔物の氾濫にも対応が出来たらしい。

 魔物がどこで生まれているのか解っていない。少なくても友誼を結べるような存在では無いらしい。ただ、物語では、魔物と友誼を結んだ勇者の話がある。妖精ニンフと契約を結び、幾多の魔物たちを率いて、魔王を討伐した英雄の話だ。子供の時に、寝られないマヤが、この物語をせがんでいたのでよく覚えている。

 魔物と”ひとくくり”にしているが、いろいろ種別がある。マヤが父親のニノサにせがんで話せているのを、隣で聞いていた。

 ニノサ自身も魔物全部を知っているわけでは無いが、ニノサのスキルで魔物を見る事が、出来るので普通の探索者よりは魔物に詳しくなっているらしい。

 そのスキルを使って魔物の種別名を知る事が出来るとのことだ。魔物も人間と同じように真命を持っている場合があり、真命を持つ魔物は、意思疎通が出来るだけではなく力も知恵も持っている。戦うのは、得策ではなく、即刻、撤退を考えるほうがいい。

 ニノサが言うには、”逃げろ”という事だ。

 魔物の中でも、”真命”を持っている者は、進化している可能性もあり注意が必要だと言うことだ。僕に、鑑定や、スキルを見る力があるかわからないが、見る事が出来れば、戦いもすごく楽に出来るようになるだろう。

 魔物以外では、妖精ニンフと呼ばれる存在が、いるとの事だが、神と同列の存在で、存在自体は人が奇跡を使える事からも、信じられているが、実際に姿を確認出来たものは、ほとんど居ない。奇跡の力を使う時でも、殆どの場合が、妖精ニンフの眷属が現れて力を貸す程度になっている。

 ただ、眷属といえども力は人を大きく上回って、それこそ勇者や英雄を大きく上回る力を持っていると考えられている。眷属を使役出来るだけで、その属性の魔法や奇跡を、自由に扱う事が出来るようになるとの話だ。そんな話を、マヤとニノサがしていたのを思い出していた。

 城壁を見ながら、魔物の事を考えていたら、城内に入るための審査の順番になった。審査は、門の前20メル位の所にある建物に入って行われる。審査と言っても身分証を提示すれば、ほとんどの場合は問題なく入れる。身分証が無い場合には、実力者や知人に城壁まで来てもらって、本人確認を行って、承認書を提出する必要がある。亜人と言われる人たちも比較的自由に出入りできるようにはなっている。

 僕とマヤは村長からもらった身分証明書を提示する事で、城内に入る事が出来た。

 商人についていた護衛の人たちは、そのまま領主様の所に、向かうとの事だ。領主様の所まで、一緒に行く事になった。館の前には、50人位の子供が集まっていた。僕達の他にも近隣の村から集まってきた子どもたちだと言う事が解る。何人かは街で見かけたことがある。

「リン。どうしたの?」
「ううん。他の村から集まったにしては護衛の人たちが少ないと思ってね」
「本当だね?もう、本来の場所に戻ったんじゃないの?」
「そうだろうな」

 暫く辺りを見回したけど、子供以外では自分達についてきた護衛の4人しか居ないように見えた。
 マヤは、僕のそばを離れて、他の村落の子どもたちと話をし始めた。何もすることが、無くなった僕は人の流れを見ているしかなかった。

「リン」
「マヤどうした?」
「ううん。他の村の子に聞いたんだけどね。護衛の人たちは、一緒に来て領主に挨拶して帰っちゃったみたいだよ」
「そうか、そうなると・・・」

 ちょっとまずいことになりそうだな。周りの子供も感じているのか、一様に不安な表情を浮かべて友達と話をしている。

「領主様に取次をお願いしたい」

 門の所で護衛がそんなやり取りをしている。門番と言葉を交わしている。

 領主の話が伝わってきた。さっき、門番と話をしていた護衛が皆に伝えてくれた。

 領主は、護衛を4人つけてドムフライホーフに向かわせる事にしたらしい、50人の護衛に4人では絶対的に少ない。

 何でもバカ息子が、先頭に立って護衛を行う事になっている。

 明日の朝出発をする事になる。それまで、各々街の中で休む事になる。宿に泊まれない者は、城壁近くで野宿になるが、城壁の内側だから魔物に襲われる事はない。僕とマヤは、早々に領主の館を離れて、城壁近くに移動した。途中、露天で売っていた串焼きを数本買って、マヤと二人で食べて、明日に備えて早く寝ることにした。

 同じように野宿をしなければならない事があるだろう。マヤと交代で睡眠を取る事にした、他愛もない話をしながら、ご飯を食べて、寝床を用意していたら、同じ村の子も集まってきて、全員で話し合い順番を決めて、交代で寝る事にした。

 最初は、男子が見張りを行い。その次に、僕とマヤが見張りをして、最後に女子が見張りをする事にした。

 リンは交代の時間に起こされた。
 マヤを起こして、見張りをしていた二人と軽く言葉を交わして交代した。

「ねぇリン」
「何?」
「大丈夫だよね?」
「どうかな」
「やっぱり。リンだね。少し気が効いた子なら、"俺が守るから大丈夫だよ"くらいは言うよ」
「”出来ない事”を、言ってもしょうがないし、”自分が信じていない事”を言っても、なんにもならないだろう」
「そうだけど、少しは安心したいよ」
「無理だね。安心出来る要素が一つもないからな」

 そうは言っても、マヤだけは無事に帰さなければならない。父さんと母さんとの約束でもある。

 二人だけの時間が流れていく、何も話さなくても、一緒に居るだけで安心感を得られる。僕にとっては、何者にも代えがたい時間だ。

「そういえば、ママが困った事が有ったら、アロイの三月兎亭マーチラビットに行けって言っていたけど、何か知っている?」
「あぁマーチラビットの店長だろ?ちょっと変わった人だけど、腕は確かで、”イスラ”や”マガラ”の入り口で魔物や、変異した動物を、狩っているらしいよ。父さんの昔の知り合いとか言っていたな」
「へぇそうなんだね。リンは会った事があるの?」
「え?!マヤ。お前も会っているよ?」
「うそ。そんな、ごつそうな人に会っていたら覚えているよ」
「いやいや。アスタさんは、ごつくないぞ」
「え!?そうなの?でも覚えてないな」
「ほら、この前、親父とお袋が出かける前に、昔の仲間って紹介されただろう?」
「・・・・ん?えぇぇぇ」
「おまえ。声でかいよ。起きちゃうだろう?」
「だって、だって、この前、家に来た人だよね?」
「そうだよ。三月兎亭マーチラビットのアスタさんだろ?」
「女性だったの?あんなに綺麗で細い人が、魔物や動物を狩っているの?」
「ん?違うよ。アスタさんは男性だぞ?」
「・・・・????。リン。この前紹介されたのは、すごく可愛い感じの女性だったよね?」
「マヤ。あぁそうか、マヤは、途中からアスタさんに連れられて、料理をしていたんだったな」
「そうそう、胡桃パンを教えてもらったよ。すごく美味しかった。だから、男性なんて居なかったよ。パパと同じくらいの男性でしょ?流石にいたら気がつくよ」
「はぁ...。だから、そのマヤと胡桃パンを焼いた人が、アスタさんで男性だって言っているのだよ」
「嘘ついてもダメだよ。リン。またぁ、私を騙そうとして!!。そのくらいの嘘はわかるからね」
「はぁ・・・。そう思うよな。俺も最初聞いた時にはそう思ったからな、父さんに騙されているって思ったからな。でも、本当だよ。母さんもそう言っていたからな」
「へぇパパとリンは兎も角、ママが言ったのなら本当だね。まだ信じられないけど」
「おい。マヤ。俺を、父さんと一緒にするなよ。でも、そうだよな。アロイにも一泊する予定らしいから、アロイに着いた時にでも確認しに行けばいいよな」
「そうだね。少し楽しみが出来たね」

 宿場町アロイは、マガラ渓谷を超える為に、準備と休息を取るために形成された街で、渓谷を抜けるために、護衛を雇ったり、商隊に潜り込んだりする街である。マガラ渓谷を超えた場所には、アロイと同じように形成された、メルナが存在する。アロイとメルナを、行き来する事で生計を立てている護衛も多くいる。メルナの近くには、スネーク山から流れる川の水が溜まった湖があり、ニグラの貴族や領主は、この湖の辺りに別荘を持つ事がステータスになっている。

 転移の魔法も存在するらしいが、パシリカの時に転移魔法が使える可能性がある”白魔法”の特性が顕現したら、王家や大貴族やマルクトに、すぐにスカウトされてしまうようだ。ここ数十年は、白魔法が使える子供が顕現していない事もあり、転移魔法を使えるのは、王家に使える宮廷魔道士長だけになっている。そのために、転移でマガラ渓谷を超えるような事は出来ない。

「ねぇリン」
「どうした?」
「リン。ずっと一緒だよ」
「?当たり前だろ。俺は、マヤの兄貴で、おまえは妹なんだからな」
「うん(違うんだけどな.)」

 そう言って、マヤはリンに抱きついてきた。
「ねぇお兄ちゃん。今日は一緒に寝よ。昔みたいにね」
「マヤ!?。急にどうした?」
「ううん。いろいろ考えていたら、リンと一緒に居たいなって思っただけだよ。これからもね」
「そうだな。マヤと一緒に居たいな。もちろん、親父とお袋も一緒に4人で過ごしたいよな」
「うん」

「マヤ。そろそろ交代時間になるんじゃないか?」
「あ!そうだった。起こしてくるね」

 少しだけ照れくさくなってしまって、マナを動かした。マヤがどんなつもりなのかわからないけど、マヤは僕の妹だ。

 マヤは、交代の女子を連れて戻ってきた。マヤは、交代の女の子と簡単な挨拶を交わしてから、情報を伝えた。。マヤは女子が寝ていた場所ではなく、僕が休む為に用意した寝床に入ってきた

「マヤ。本当にここで寝るのか?」
「うん。そのつもりだよ」
「狭いよ」
「大丈夫だよ。リンのベッドよりは広そうだからね」
「おまえな」


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