ぷかぷか孤島になっちゃった?

睡蓮

第39話 ぷかぷか孤島と冒険者ギルド

 3人が部屋に入ってから数分後、全員が廊下に戻ってきた。


 「お待たせしました、ご主人様。それでは行きましょうか」


 「はーい」


 そうして俺達は宿の外に出て冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルドは宿のある通りの2つ右の通りにあるらしい。
 その通りはさっきの通りと比べて人通りが激しく、また客引きの声などでかなり騒がしくなっていた。


 「それにしてもこっちの通りはさっきと違ってかなり賑やかだな」


 「そうですね、こっちは露店などが沢山あるので比較的人通りも多いですからね」


 「ヤミ人混み嫌い」


 「拙者も落ち着いた場所の方が好みでござるな」


 「私もですね」


 「俺もー」


 そんな引きこもりみたいなことを話しているうちになんか剣がクロスした看板が飾ってある大きな建物の前に着いた。さっきの宿屋の倍ぐらいの大きさで扉もめちゃくちゃでかい。


 「ここが冒険者ギルドです。さぁ、入りましょうか」


 うわー、嫌だなぁ。だってあれでしょ? 受け付けのお姉さん達と会話しなきゃいけないんでしょ? ムリムリ! コミュ障の俺がそんなのできるわけないじゃん!


 あっ! そうだ! シャルルか半蔵にやらせれば


 「いけませんよご主人様。これも社会勉強の一環ですからここはご主人様が対応をお願いします」


 「無理! そんなんだったら俺はギルドに入らないからな!!」


 「はいはい、ごねてないで早く入りますよ」


 「いーやーだー!」


 シャルルはごねる俺の襟首を掴んでそのままギルドへと入っていく。ヤミと半蔵はそれを見て見ぬふりして着いてくる。 スーちゃんはまだ尻尾をフリフリしていた。スーちゃん?ご主人様が攫われてるんだよ? 助けてよ!


 シャルルが片手で扉を押すと思ったよりもすんなりと扉は開いた。扉が軽かったのかシャルルが馬鹿みたいな力を持っていたのかはたはた疑問である。


 ギルドの中へ入るとそこには十数人の冒険者らしき人が酒を煽りながらバカ騒ぎしていて、その奥の受け付けカウンターのような所にはぺちゃくちゃと談笑している綺麗なお姉さんたちの姿があった。


 受け付けカウンターの横には掲示板のようなものがあり、そこには数枚の紙が貼ってあるだけだった。


 俺達は受け付けカウンターの1番左の受付口で冒険者登録をすることにした。というかさせられた。


 「す、、、すすすす、すいません、、、ぼ、冒険、、者、ととと登録をしたいんでしゅけど!」


 俺がえげつないどもりを展開させながら、楽しそうに喋っている受付嬢に話しかける。


 「アハハハ! んっ? お嬢ちゃんどうしたの? なにか依頼かしら?」


 「あ、、、あの、、ぼ、冒険者登録を、、、」


 俺がそういうと受付嬢全員がゲラゲラと笑い始めた。いや、まぁそうなりますよね! こんな姿の俺が冒険者とかそんな反応になりますよね!!


 「えっ!? あなたが!? アハハハハハハッ!! やめといた方がいいわよ! 冒険者ってそんな簡単な仕事じゃないんだから! あなたはおうちでお裁縫でもしときなさいな!」


 大声で受け付け嬢がそんなふうに俺に助言してくれた。うんうん、おれもその方がいいと思うんですっ!
 すると後ろで飲んでた冒険者達にもその声は聞こえたらしく笑い声が聞こえてくる。


 ぞぞぞっ


 あっ、、、ヤバい。てかなんで? 後ろからものすごいオーラが飛び出てる。これ、スーちゃんかな? スーちゃんだよね? それ以外だと俺止められないよ?


 俺はゆっくりと首を後ろへと向けた。


 そこには目に見えるほど禍々しいオーラを発する3人。と毛繕いをする1匹がいた。


 シャルルからはいつもと変わらず微笑んでいたがその微笑みの奥に確かに感じられる怒りがあった。


 半蔵はいつも黄色く光っている目が今だけ赤く光っている。いや、そこで怒りを表すんかい!


 ヤミは無表情オブ無表情。いつもと同じだけどなんか怖い。


 なんでだろう。みんなから感じられる怒りのオーラは確かにあるのに姿や振る舞いからは全く怒りを感じ取ることは出来ない(半蔵はバレバレだけど)。これが隠密系のスキルの実力なのかっ!!


 そんな風なのでギルド内のメンバーでその様子に気づいている人はいないように思えた。が。


 ドタドタドタドタっ!! バァァァン!!!!


 「おいっ!!!! なんだこの殺気はっ!!! 何が起きたっ!!!」


 ギルドの奥の扉を思いっきりぶち開けて出てきたムッキムキの禿げたオッサンが怒鳴りながら駆けつけた。冒険者も受付嬢もその様子をみて笑うのをやめた。


 そのムキハゲは突然俺達の方を向いて土下座をした。


 「すまなかったっ!! 私のギルドのメンバーが何をしたかは知らんがこの通りだっ!! だから許してやってくれっ、、、頼むっ!!」


 えぇ、いや、許すもなにもこの人たち全く悪いことしてないよ? なんで?


 「い、、いや、あの、その、、、とりあえず顔上げてください、、、」


 俺は勇気を振り絞ってムキハゲに話しかける。シャルル達はこの状態をみてもさっきと同じ様子でいる。


 「すまない、、、 それでこいつらは何をしたんだ? 状況を説明してもらえると助かる」


 「いや、、、あの、、じ、自分が冒険者になりたいって言ったらなんか「お裁縫でもしたら?」って言われただけです、、、」


 「そうか、、、そんなことが、、、」


 そうなんです、そんなことでこの人たち怒ってるんですっ!! 沸点低すぎなんです! どうにか言ってやってくださいっ!!
 

 「よし、分かった! おい、リタ。明日からお前は来なくていい」


 ムキハゲは俺が話しかけた受付嬢を指さしてそう言った。


 「そ、そんなっ!!」


 いやっ! おかしいだろっ! リタさんは俺に正しい道を勧めてくれただけだぞ! ムキハゲ! 責めるならシャルル達を責めろ! 俺は責めれないけどっ!


 ここでようやくシャルルが口を開く。


 「ご主人様、あなた馬鹿にされてたんですよ?」


 「えっ?」


 えっ?そうなの? 
 あー、でも確かに「お前なんか冒険者なんて無理だよ! 帰ってママのお乳吸ってな!」って言われたと言っても過言ではないのか? それで笑われた。確かに馬鹿にされてるかもしれんな。


 いや、それにしても、それにしてもだよ? あなた達過保護すぎません? そんだけでそんなオーラ出します?


 「それであなたは何者なのですか?」


 シャルルがムキハゲに向かって問う。そう! それが1番知りたかったんだ!! おめぇ誰だよ!


 「おぉ、すまない。私は冒険者ギルドのギルドマスターをやっているステインというものだ。よろしく頼む」


 ステインはそういうと俺たちに頭を下げた。


 「そうですか。私はシャルルと申します。そして、ここに居る子は私たちのご主人様であります。名はハルと申します。これは半蔵。もう1人はヤミと申します。そしてこの魔物はスフィア。契約魔獣です」


 「これとはなんでござるか!これとは!」


 「黙ってなさい」


 「はい」


 いや、半蔵が可哀想すぎて何も言えねぇ。そんなことよりもだ


 「あ、、あのぉ、、、流石にクビって厳しすぎませんか? 自分はそんなに気にしてないんですけど、、、」


 だって、かわいそすぎるんだもん。リタさんが俯いて涙流してんの耐えられないよ。リタさんめちゃくちゃ美人だし!おっぱい大きいし! やっぱり美人の涙って武器になるんだね。


 「なんとっ、、、なるほど。流石これだけの手練を護衛に付けるだけはある人望だ。自分が馬鹿にされてもなお、人のことを案ずるなんて、、、」


 いや! そんなんじゃないですって! まじで!! 美女の涙に負けただけですって!!


 「ご主人様がそういうのなら私達もなにも言いませんが」


 「わふわふ!」


 シャルルはしぶしぶといったふうに引いて、スーちゃんは退屈なのか俺に飛びついてきている。


 「そうか、、、! ならリタ! お前の解雇はまだ当分先になりそうだ。ハルさんに感謝するんだな!」


 「はいっ!! ハルさん、いえハル様!本当にありがとうございますっ!!!」
 

 「あっ、、、いや、、、そのっ、、、」


 リタさんはものっすごい勢いで頭を下げた。いや、襟がゆるゆるの服きてるから見えそう。やめて、、、俺の理性のタガをはずそうとしないで。


 「な、なんて良い奴なんだ!」


 「あぁ、人に馬鹿にされたのにそいつを救っちまったぜ、、、」


 「うわぁぁぁぁっ! おれはなんてことをっ! なんてことをしてしまったんだァ! こんな聖女を笑うだなんてっ!」


 「「「聖女だっ!ギルドの聖女様だっ!!」」」


 おーい、冒険者達ー。帰ってきなさーい。


 「こうなったらこのこと、広めるしかないよな!」


 「おうっ! みんなに聖女が冒険者になったって言いふらそう!!」


 や、やめてっ!! ほんとに、、、ほんっとっーーーにやめて!!!


 「うふふ、ご主人様から聖女様へとグレードアップですね」


 「流石主殿でござる!」


 「カッコイイ」


 「わんわん!」


 なんでみんな喜んでるの? もう厄介事の匂いしかしないんだけど、、、


 「では早速ギルドカードの作成に移りましょうか、まずは皆さんこれに1滴血をたらしてください」


 そういってリタさんが金属板4枚と針4本を俺に手渡した。俺達はそれぞれ自分の手に針をさし、金属板に擦り付け、それをリタさんに渡す。


 「ありがとうございます。ではここに名前のご記入をお願いします」


 あっ、文字はちゃんと日本語になってる。わかりやすいね!


 「ありがとうございます。これでギルドへの登録は完了です。料金は合計2000シルバになります」


 えっ? お金いるの?俺持ってないよ!


 「これでお願いします」


 シャルルが銀貨を4枚テーブルの上に並べた。


 「ありがとうございます。ではギルドカードをどうぞ! そこに載ってる内容は職業と名前以外は他人に見えないようになっております! 
 あとハル様はスフィアちゃんの契約魔獣としての登録が必要となります。登録はスフィアちゃんのおでこにギルドカードをかざすだけで結構です」


 リタさんの言う通り俺はスーちゃんにギルドカードをかざす。するとギルドカードが青く発光した。


 「登録完了です! ところでスフィアちゃんはなんていう魔物なんですか?」


 いきなりのキラーパス! 神狼だなんて言えるわけねぇだろ!


 「ホワイトウルフです。その子供を保護したところご主人様に懐いてしまったので契約に至ったという訳です」


 「あー、ホワイトウルフですか! 下級の魔物ですがテイマーが育てるとちゃんと強くなるので頑張って育てて上げてくださいね!」


 シャルルの起点のきいた回答でなんとかスーちゃんの正体はバレなかったようだ。


 マジでこれ以上の厄介事は勘弁だからな。
 

 




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