競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~

柴田

第12話 その手で掴み取らなければ

自分自身を信じてみるだけでいい。きっと生きる道が見えてくる。

ドイツの文豪 ゲーテ

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何故、こんな事になったのだろうか?

もはやほぼ悟りを開きつつ考える。

俺はまるでプロレスラーにボディーブローされてるような危機感を覚えながら熱い抱擁をされている。

「ひゃ!!可愛い可愛い!!」

俺を抱き締めているのは見た目は若干、全盛期を過ぎた三十代の女性。

元の世界にいくらでもいた感じの普通の女性だ。

だが、この女性はどこが気配が違う。なんというか、出来る・・・感じの人だ。

だから、非常に威圧感が凄い。

だが、甘い顔をして一心不乱に俺を抱き締めて賛辞の言葉を並べてくる。

この調子でもはや小一時間が過ぎようとしている。

あらゆる意味で神経をすり減らす。

俺は汗を垂らしながらこの状況を打破する方法を模索する。

しかし、もはや全ての事がどうでも良くなってくる。

俺は考えることを放棄した。

こうなったのはそう……あの時から始まる。

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あの選択から三日が経った朝。

俺はおじいさんに話を持ちかけられた。

「ギルド養成所?」

「あぁ、私の知人に知り合いが居てね。君にはそこに行ってもらおうと思う」

「あの……それってどういう所なんですか?」

「それを話すには、まずこの国の成り立ちに付いて説明しないといけない。この国では権力の分散が行われている。遥か昔に一人の王が思いついた方法だ。犯罪者を捕まえ、取り調べる正義のギルド『ユスティ』、魔法学の研究と向上を行う知恵のギルド『ハイト』、国の法を決め、裁判を行う断罪のギルド『ギルティア』、国の政治を管理する秩序のギルド『オルド』。この四つのギルドによってこの国は成り立っている。そのギルドには魔術師が所属するが、その者を厳選して育成する施設。それがギルド養成所になっている。私の知り合いがそこに居てね。君にはそこに入ってもらおうかと思う」

権力の分散とは凄まじいほど現代に似て政治が発展している。生活レベルは中世だが政治レベルは現代と遜色ないだろう。元の世界はここまでくるのに大変な血が流れたのを考えるとこちらの世界の方が政治面では遥かに優秀だ。

「何故…そこに?」

「ギルドにはそれぞれ特有の権力がある。君がどういう道を進みたいか決めた時、自由に選ぶ事が出来る」

つまり、卒業したら好きなギルドに入ることができる。そしてギルドはそれぞれが役割を担っているため、自分の好きな道を選べるという事。

「私の進みたい道……」

でも無く世界世間からでも無く、俺が選べる道。

前の世界では貰えなかった選択肢。

自分のためだけの道。

「もうすぐ来ると思うんだけど……あの子はいつも遅いな」

出口を見ながらため息をつくおじいさん。

おじいさんの様子を見る限り問題人物なのだろうか?社交辞令ならある程度得意だが……。

「そう言えば、剣はどうだい?手に馴染んだかい?」

「はい!凄く軽いので振りやすいです」

あの日剣を貰った後、俺はまるで新しい玩具を貰った子供のように剣を振り続けた。

硝子細工のような見た目通り凄まじい軽さを持っていたが、しっかりとした強度を持っていた。

純白の刀身は息を呑むほど美しかった。

だが、あの剣に刃は付いていなかった。おじいさん曰く「殺すためではなく、守るために使って欲しい」との事だ。

確かにあれなら当たりどころが悪くなければ使っていて不慮の事故がない。

「それは良かった。実を言うと……」

バタン!!

勢いよく扉が開かれる音でおじいさんの声はかき消された。

現れたのは服の上からでも分かる筋肉隆々としたマッチョなスキンヘッドのロシア人似のおっちゃん。ここで刺青いれずみなんかしてたら映画に出てくる中堅悪役ぐらいで出演出来そうな貫禄である。

「ギルド養成所から来た者だ!!ここにアーコブはいるか!!」

見た目の貫禄に負けず劣らずのでかい声が家中に響き渡る。すっごく耳が痛い。

(ギルド養成所って事はあの人がおじいさんの知り合い?なんちゅうもん呼んでくれたんだ……)

「やあ、レクス。五年ぶりかな?」

おじいさんは男の姿を見るとソファーから立ち上がり出口へと歩み寄る。あの感じを見るにやはりおじいさんの知り合いなのだろう。

というかおじいさんの名前ってアーコブって言うのか。ここ一年で初めて知った。

お互い名前を呼ばないから仕方ないかもしれないが。というかまず俺にはこの世界で名前が無い。

「ふん、山奥に隠居してとうの昔に死んだかと思ったわこのジジイが。」

(ごめんなさい。この前俺のせいで怪我させちゃいました)とさっきとは別の意味で耳が痛くなり心の中で平謝りをした。

「残念ながらまだ死ぬ訳にはいかないんでね」

おじいさんが微笑むと、レクスと呼ばれた男も微笑みながら話を続ける。

お互いに憎まれ口を言っているがこれでお互いがそれほど仲が悪くない事は分かった。

「口の減らねジジイだ、この様子だと後十年はくたばらねな。それよりあんたが手紙で送ってきた試験を受けさせたいと言うガキは何処だ?」

「ああ、あの子だよ」

おじいさんがこちらを向くとつられて男もこちらに視線を向ける。

俺が軽く会釈をすると男は盛大なため息をついて額に手を当てて話を続ける。

「おいおい、勘弁してくれよアルベルのじーさんよ。うちは託児所じゃないんだ。あんなやっと乳離れしたような小動物がきじゃ一日ももたないぞ」

(俺は二十〇歳だぞ。ハゲ野郎……)

「まぁまぁ、そう言わずに。彼女の剣術はそこら辺の騎士を凌駕してるよ。何しろ抜刀の型をあの歳で習得しているんだ」

突然、男の目つきが変わった。

真顔になりこちらを吟味するような視線を送ってくる。

抜刀術なんて(元の世界では)そうそう珍しいものでは無いのだが……。

「ほぅ……、だがなじーさん。ギルドっていうのは魔術師の集まりなんだ、養成所でも同じだ。うちは魔術師を扱っているのであって剣士を集めているわけじゃない。あのガキがいかに剣が達者だとしても魔法が凡並じゃ話にならん、あのガキは魔術も使えるのか?」

前言撤回しよう。やはり、この世界では魔術を使えるものが優遇されるようだ。権力の根幹に関わる者の条件が全員魔術師に長けたものと言う事では民主性などあまり無い。

「残念ながら私は使えるところを見たことがない」

「話にならん。俺は帰らせてもらう」

もう話は充分とばかりに男は回れ右をして扉から出ていこうとした。だが、その一歩を踏み出そうとした際に何かを思い出したかのように足を止め、後ろ向きで話を続ける。

「そう言えば……ここへ来る時通った村で小耳に挟んだんだが、三日前、丁度ここら辺で夜中に白い光……村人は始祖魔術の光って言ってたんだが、それを見たって言ってた奴がいた。心当たりはあるか?」

「……」

それは……多分俺がした事だろう。

俺の知らない何か。この世界の体が持つ魔法。俺の知らないこの世界の人格体の持ち主

だが、決して俺の力ではない。だから例え本当だったとしてもその力は自慢できる物じゃない。

何も言えなくなり目線を下に向ける。

おじいさんも黙り、俺も黙る。

その様子を見て男も勘づいたのだろう。何かあると。

「じーさんが確認していないならしょうがない。おい、そこのガキ、面へ出な。俺が直接確認してやる」

そう言うと男は外へ出ていった。

シーンとした部屋の中で数秒が経過する。

「行っておいで」

おじいさんの一言、その声で俺はおじいさんの方を向く。

いつもと変わらない笑顔。

そうだ。これは俺が決めた道だ。

「はい!!」

俺は立ち上がり、勢いよくおじいさんの横を駆け抜けて外へ走り出した。

太陽光が眩しい外へと。

木々が照らされて緑色の乱反射がする世界へと。

古の龍の剣を腰にぶら下げて。

自分が望む道を切り開くために。

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