黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

魔法のあれこれ

説明会です。

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 小休憩が挟まれ一息ついた一同はレオが指定したリビングへと集まっていた。
 最後に入ってきたアンナは全員の姿を認め、その前へと立ったと同時に口を開いた。
「じゃあ始めるわね。詠唱についてだけど、これは曖昧なところが多くて、これっていった確定要素はないわ。でも、ちゃんと規則は存在するの」
 こう前置きがされた話はここから詠唱について語られる。
 
 
 まずは魔法名。
 詠唱完成の最後に唱えることで魔法は発動する。
 これは創作魔法の場合使用者ごとに違い、名前については確たるものはない。
 分かりやすいものもあれば言いにくいものだってある。
 無詠唱の場合も魔法名を唱えると唱えないとでは大きく違う。唱えない場合、全ての過程を自身ただ一人で行う必要がある。詠唱で自動補完される魔法効果の付与などのことだ。
 速度、威力、効果、持続時間、これらが魔法名を唱えることで無詠唱でも緩和される。
 次に詠唱。
 詠唱には、『展開』『起点』『付与』『加速』『発動』の五種類がある。
 まずは『展開文』だ。
 これは魔法円の展開に関わる。
 魔法円とは、魔法を発動するための媒介であり変換装置である。
 体内のマナを魔力にして魔力により魔法を放つ。別に魔法円を展開しなくとも魔法は使えるが、より円滑に進めるためには必要になる。
 そしてその魔法円を展開する効果をもつのが『展開文』だ。
 『起点文』。
 魔法の威力や規模、その大まかな役割を分類する役割を持つ。主属性の設定(あくまでも複数属性魔力の場合のみ)の働きもある。
 『付与文』。
 これは第一、第二、第三と限りはない。
 魔法に効果を追加する働きを持つ。
 ただし詠唱文が追加されるごとに制御は難しくなり消費マナも増加する。大概の魔力爆発はこの『付与文』で起こり得る。
 魔力爆発とは、制御しきれない魔力が暴発することで術者と周囲諸々に被害をもたらす事故である。術者の未熟、詠唱・集中の妨害、マナ枯渇による詠唱中断、等々その原因は様々。
 この『付与文』で主に操作されるのは速度・威力・属性・持続時間・消費マナ軽減・魔力増強・規模・付属効果・付属効果上昇・強化・弱体化・発動時状態・発動中状態・発動後状態・経路・発動時形態・発動中形態・発動後形態。
 付属効果というものは術者が仲間と認識した者を避けるだとか攻撃魔法に回復属性を持たせるだとかそういった類いのものだ。
 『加速文』。
 これは魔法円を展開している場合のみ詠唱する必要がある。
 これまでに詠唱したものを連結させ、一つの魔法として組み上げる工程になる。
 そして最後に『発動文』。
 魔法名を唱えることと同意である。
 
 
「これで詠唱の説明は終わりよ」
 一時的に字を記す魔道具で壁に書いた文字を魔力を流して消しつつアンナがそう言った。
「ジャスミンが目を回してるんだけど…」
「ほっとけって、で理解できたか?」
 難しい話を延々とされた深緑の髪の少女は頭が沸騰し、それを指摘するカイトにレオが答えその理解度を問うた。
「まあまあかな」
「同じようなことはしてたかなー」
 元々頭の冴えがいいカイトはすんなりと吸収できたようで、アディンの方は魔力性からか詠唱の基本は既に押さえていた。
「ジャスミンにはまあその内わかってもらうわ、次は詠唱文に必要な『言の葉』についてよ」
 
 
 『言の葉』。
 詠唱文に含まれる属性や効果などを設定するための重要語句。
 設定できる項目は付与文と同様のものである。
 ■属性。
 選択したい属性の色、簡易名、現象名、別名、存在名と強力になる。
 火系統で例えてみると、赤、火、爆発、紅蓮、地獄となる。
 ■効果。
 これについてはそこまで具体的な文言はない。
 付与文で説明したものから選択でき、言葉の重みで能力が決定する。
 
 
「じゃあ今から適当に分かりやすく作ってみるわね、魔力は込めないから安心すればいいわ。使いたい魔法は水、散弾系で着弾時爆発効果をもたせる。『集結せよ水の力、降り注ぐ雨嵐、爆ぜし狭間に炸裂せよ、『フラリーファイア』』、って感じね。因みに今のはちゃんとある魔法よ」
「どの『言の葉』を選ぶかは魔法を使う奴で違うからな」
「でも一回詠唱して成功したものなら誰でも使えるようになるわ、その魔法を完全に把握していたらの話だけど」
「これで終わりか、アンナ?」
「ええ、じゃあ今日はこれくらいにして自由にしていいわ。鍛練でも魔法でも寛ぐでも好きにすればいいわ」
 ひらひらと手を振って未だ座る四人を置き去りにリビングから出ていった。
 やりたい放題だな、と苦笑いを浮かべる一同もそれぞれ部屋へと向かう。
「詠唱って難しいねー」
「そうかな、俺はそこまでだと思うけど」
「まあ、アディンはそうだろうけど、僕たち素人にはさっぱりだったよ」
 先の講義の感想をそれぞれに述べる三人、やはりジャスミンは理解が追い付いていなかったようだ。
 アディンはその点、以前から魔法を使っていたようでなかなかの理解を得られていた。
 カイトは理解はできたものの、いざ実践するとなると厳しいと感じていた。
 
「レオ、俺はまだ稽古がしたい、教えて欲しい」
 
 皆がだらけだしたところに、そんな声が響いた。
 アディンだ。
 その意気にレオは少し目を見開く。
「さっきから気になってたけど、アディンは人称を変えたのか?」
「うん」
「じゃあ俺もそうしよっーと」
 一人称の変化にようやく気づいたカイトは、その変化に合わせた。
「私は?」
「いや、ジャスミンは違うよ…」
 そこに加わるジャスミンだったが、俺と言うのはあまりにも違うためアディンがジトっとした視線を彼女へ向けた。
「何よ…」
「いやなんでもないよ」
「何よっ!」
「~~~~っ、ふぅ、お前ら面白ぇーな。でアディン、稽古だったな、いいぞ」
「ありがとう、レオ」
 アディンからの願いを聞き入れたレオは嬉しそうに相好を崩す彼を連れてリビングから消えていった。
「変わった」
「そうだね」
 二人が出ていった戸を二人して見据える。
 彼らが思い浮かべるのは昨日とは明らかに違ったアディンの姿勢だった。
 貪欲に強さを求めているように見受けられたのだ。
 あの迷子の間に何かあったと考えさせるほどに。
 どこか置いていかれたような感情になるジャスミンは固く口を結び、カイトは隣の悔しげな表情に眉を下げていた。
「何変な顔してるのよ」
「「うわぁっ!?」」
 背後から突然掛けられた声にジャスミンとカイトは二人して声を上げた。
「何で驚くのかしら?」
「いきなり後ろから現れるからだよ…」
 首を傾げる女に少年は苦笑い。
「ねえ、アディンは何で?」
「そうね、あの子にも来たのね」
 的を得ない問い、常人では分からないであろうそれに彼女は難なく答えた。そしてその口端は少しばかり吊り上がっている。
「何が?」
 曖昧な答えのため、カイトが詳細を求めた。
「強くなりたいって思える瞬間のことよ」
「強くなりたい?」
「ええ、迷子の間に何があったのかは知らないわ、でもあったんでしょう、自分の弱さが悔しかったことが」
 弱さ、という言葉に二人は黙った。
 どちらも思うところがあるらしい。
「気になるなら聞けばいいじゃない」
「でも…」
「じゃあ、二人とも私と今からやる?」
 歯切れの悪い様子に少し苛立ちを覚え始めたアンナは鍛練をした方が手っ取り早いと持ちかけた。
「うん、やる。アディンの気持ちわかってみたいの」
「そうだね、俺もやるよ」
 やはり気概がある、そう感じたアンナは今度こそ快活に笑った。
「じゃあさっさと行くわよ!」
 颯爽と歩み始める。
 行動が早すぎる彼女に慌てた二人はそれぞれに準備を済ませその後を追いかけていった。
 一足先に先へ進んでしまった仲間に追いつくために、幼い彼らは走り出す。
 
 
 よもや世界を変えることになるとは誰も知らずに………
 
 
 

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