人外と友達になる方法

コング“シルバーバック”

第26話 鬼の目にも涙 〜鬼篇〜

「黒鬼を式神にする!?」

「そう」

「いやいや特級だぞ!」

「それ言ったら狐々愛ちゃんも特級じゃん」

 忘れかけていたが、そういえば狐々愛も特級妖怪なのだ。

「でもなぁ……狐々愛も何か言ってやれよ」

 悠火は聞き分けのない奏鳴を説得するため、妖怪の専門家である狐々愛に助言を求めた。

「別にいいんじゃないか?」

「ほら、専門家の狐々愛がそう言って……今いいって言った?」

「別に人を傷つけたわけではないし、妾も出来ることなら同胞を封印などしたくないでの」

 狐々愛に裏切られた悠火は助けを求めるように光秀の方を見た。
 しかし、秀才光秀でもこの案件は手に負えないらしく、首を横に振るだけだった。

「まあ、狐々愛が言うならいいか……」

 悠火が自分と葛藤している間、奏鳴はというと。

「なぁ黒鬼、お前俺の式神にならないか? え、そんなこと言わずにさぁ……な? いいだろ? 何がダメなんだよ? は? 目つきが悪い? そんなのどうしようもねぇだろ!」

 黒鬼の説得に悪戦苦闘しているようだ。
 しかし、黒鬼の声がこちらに聞こえないため、かなりヤバい奴に見える。

「そういえば黒鬼よ、白鬼はどうしたのじゃ?」

「……なんか封印されてるんだってさ。で、その封印を解くために器を探してたんだって」

「そうか、白鬼はまだ封印されておるのか」

 置いてけぼりの三人はキョトンとした顔をしている。

「なあ、狐々愛。その白鬼ってなんだ?」

 まあ、黒鬼ときて白鬼ならあらかたの検討はつく。

「白鬼は黒鬼の妹じゃ」

「妹……か……」

 しばらく何かを考えていた光秀がニヤリと笑って言った。

「ねぇ、黒鬼さん。君はしろおにを助けたいんだよね?」

「その通りだ、だって」

「なら、僕たちがその封印の解除に手を貸す。そのかわり、君は奏の式神になってくれないか?」

 つまり、交換条件だ。しろおにを助けるために仲間になれと。

「その話は本当か? だってさ」

 光秀は狐々愛と目を合わせ頷く。

「ああ、本当だよ。僕たち三人と狐々愛さんが絶対に封印を解いてみせる」

 奏鳴が何も言わないということは、黒鬼が返答を考えているということだ。

「あ、もちろん離れ離れになるわけじゃない。なんなら君たち二人とも奏の式神になればいいんだから」

「え!? マジで?」

 今のは黒鬼ではなく奏鳴の感想だ。

「信じていいのだな? だって」

「もちろんだ」

「ならお前たちに妹の封印解除を依頼する、ってさ」

 こうして、悠火たち四人に黒鬼を加えた五人で白鬼の解放作戦が始まった。





「ただいま〜」

 返事はない。
 ただ奏鳴の声が暗い家に響く。

「ただいま、父さん」

 奏鳴は仏壇に置いてある父の遺影にただいまを告げた。
 奏鳴の父は奏鳴が7歳のときに死んでしまった。
 奏鳴の父は警察官だった。
 凶悪犯を追っている最中、ナイフで刺されて殉職した。
 聞いた話によると、後輩の警察官を身を呈して守ったらしい。
 それからは母との二人暮らしだ。
 しかし、シングルマザーの大変さと、心の拠り所を失ったショックで、母は精神病になってしまった。
 今ではベットに寝たきりだ。

「ただいま」

「おかえりなさい、あなた」

 母には奏鳴のことが死んだ父に見えているらしい。

「すぐに夕飯にするね」

 奏鳴は昨日の作り置きの肉じゃがと味噌汁、それにご飯とサラダを盛り付け、母のベットに運んだ。

「いつもごめんね、あなた」

「いいよ、これくらい。それじゃ、僕はリビングにいるから」

 奏鳴は母の部屋を出て、リビングで夕食をとる。
 家の中で奏鳴は父を演じるようにしている。
 一人称を俺から僕に変え、父のように穏やかで優しい口調にする。
 前に一度自分は父ではなく、奏鳴だと言ったとき、母はパニックを起こして救急車で運ばれる大騒ぎになった。
 それ以来、奏鳴は父を演じることにした。

『お前はそれでいいのか?』

 黒鬼が奏鳴に語りかける。

「ああ、母さんが幸せなら、俺は忘れられてもいい」

 何故だろうか、味のしっかり染みた肉じゃがなのにまったく味がしない。

『嘘だな……僕にはわかる。今僕はお前と文字通り一心同体だ。お前の本心くらいわかるさ』

 そうだ。
 今奏鳴の口から出た言葉は嘘で塗り固められたものだった。
 本当は奏鳴はわかって欲しかったのだ。
 今までこんなことを悠火にも、光秀にも相談できなかった。
 一人で抱えるしかないと思っていた。
 奏鳴はわかって欲しかったのだ。
 自分の苦しみを、誰かにわかって欲しかったのだ。

『自分の幸せを投げ打ってまで、家族の幸せを守りたいなんて考える人間に会ったのはこれが初めてだ。僕を封印した妖術師も、世の中のためだとか言いながら、結局は自分が死ぬのが怖いだけ。そこに自己犠牲の信念なんて微塵もなかった。だがお前は違う。流石は僕の選んだ器だ』

 黒鬼の言葉に奏鳴は救われた気がした。

「ありがとう、黒鬼。あーあ、何か疲れたなぁ……風呂入って寝よ」

『休養は大事だ。ゆっくりとは休むといい……ん? 風呂に入るって言ったか?』

「ああ、言ったけどなんで?」

『え、もしかしてお前まだ気付いてないのか?』

「ん? 何にだよ?」

黒鬼は深く息を吸い込んで言った。いや、叫んだ。

『僕は女だ!』

実際に声に出したわけではないので耳が痛くなったりはしないが。頭が内側から痛くなった。

「え? お前女なの?」

『そうだよ! だからその……風呂はちょっと』

「いいだろ別に? お前が裸になるわけでもないんだし」

『お前の裸を見たくないって言ってんだ!』

 その後も黒鬼が納得してくれなかったので、仕方なく結局その日は風呂は諦めて寝ることにした。



読んでいただきありがとうございます。コングです。

黒鬼は女の子です。今のところ、男女比が3:1だったので、これでようやく3:2です。この後白鬼が出てきてやっと1:1になります。
やっぱり現代アクションなので男子が多くなりがちですが、頑張って女の子を増やしていきたいと思います。

それではまた次回!



2020/5/5一部改稿

コメント

  • 白葉南瓜

    黒鬼が女の子なのは驚き桃の木でしたね…今後も頑張ってください!

    1
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