人外と友達になる方法
第42話 逆鱗触れるべからず 〜認定試験篇〜
悠火たち四人は菊の間でトランプをしていた。悠火の持参品だ。
「どうして断ったんですか? 五大家からの誘いなんて普通はありえないんですよ?」
「何で?」
「傘下に下るにはまず当主の許可、そして一定以上の階級の家臣の又は本家の推薦が必要です。今回の場合、誘ってきたのが舞姫様なので後者の条件はクリアですし、当主の娘ですから前者の条件も大丈夫なはずです」
竜夜は熱くなりながら説明してくれる。
悠火たち三人は妖術師についての知識はゼロに等しい。つまり五大家がどのくらい凄いのかとか、実はあまりよくわかっていないのだ。
「でも、傘下に入らなくても妖術師の仕事は出来るんだろ?」
「それは……そうですけど……」
「なら別に傘下に入る必要はないだろ。それに傘下に入ったら報酬金の一部を納めたり、仕事を押し付けられたりするんだろ?」
「た、確かにそうですが……」
竜夜は反論できない様子だ。悠火の指摘が的を得ていたのだろう。
「まあ、傘下の件とかは置いといて、あと一人隊員を集めないとだなぁ」
「そうだね……竜夜は誰か心当たりとか無いかな?」
「え、僕ですか? そうですね……いなくは無いですが、みんな下級ですし」
「この際もう下級でも良いんじゃね? 戦わせずに後方支援とかに回ってもらってさ」
確かにそれは悠火も考えた。
しかし今のところ前衛が悠火と奏鳴の二人、後衛が光秀と竜夜の二人なのだ。出来ればもう一人前衛を張れる奴が欲しい、というのが悠火の本音だ。
だが無い物ねだりは出来ない。仕方がないので明日にでも竜夜の心当たりとやらに入隊を打診してみることにする。
「あ、あがった」
「また悠火負けてやんの!」
ちょうどトランプの勝負も終わったので四人は風呂に向かうことにした。
階段を確認したがもう舞姫はいなかった。
竜夜が部屋に着替えを取りに行くのに付き合い、大浴場を目指す。
「ここ本当いい宿だな。しかもメチャクチャ安いし」
「だよな〜今度また来たいな」
「確かにいい宿だよね」
「僕も払えなくない宿代ですしね」
「そうでしょそうでしょ! うちの自慢なんだ!」
「へぇー自慢なのか……」
そこで悠火は気が付いた。会話に五人目がいることに。
「うわっ! またお前か!」
「うわって何よ! ここはうちが経営してる宿なの! そこに私がいて悪いわけ!?」
いつの間にか悠火の隣には舞姫がいた。
明らかにご機嫌斜めだ。
「悪くはねぇけど急に隣に来んなよびっくりするだろ」
「はぁ? あんたが私の横に来たんでしょ? 私があんたの隣に行くわけないでしょ! 本当そういう勘違い困るからやめてよね!」
「はいはい。で? 今度は何の用だよ」
「えっと……その……」
舞姫は急に黙りこくってしまった。
一体なんだというのだろう。
「早くしろよ。じゃねぇと風呂に着いちまうぞ」
などと言っている間に風呂に着いてしまう。
「はぁ……結局用は何なんだよ?」
「だからその……えっと……」
いくら聞いても埒があかない。
しかも何だかんだ今にも泣き出しそうだ。これでは悠火が虐めているみたいだ。
「風呂出たらゆっくり聞いてやるから! それでいいな!」
「あ、ちょっ!」
そう言って悠火は風呂の暖簾を潜り脱衣所へと入って行った。
(何で言えないのぉ!!!)
「はぁ〜いい湯だった……」
悠火は他の三人より少し早く風呂を上がった。もともと長湯が苦手なのだ。
そして脱衣所を出た悠火の目に風呂に入る前と同じ景色が飛び込んできた。
「早かったわね」
舞姫が仁王立ちしていたのだ。
一応男性用脱衣所の前なのだが。
「お前もしかしてずっとそこにいたの?」
「何? 悪い?」
「迷惑だろ……まあいいけど」
悠火は自販機の横に常設してあるベンチに座る。
すると舞姫が悠火の前に立つ。
「で? 何の用だったんだよ」
舞姫はゆっくりと深呼吸し、意を決して言った。
「私があなたの隊に入ってあげる」
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。傘下に入れと言った矢先、今度は隊に入ると言う。
ゲリラ豪雨の如くコロコロと言い分の変わる奴だ。
「何でまた……」
「あなたの隊、五人いないんでしょ? だから私が入ってあげるって言ってるの」
「でもお前次期当主何だろ? いいのか?」
「パ……お父様に許可は取ったわ」
思い立ったが吉日というやつだろうか。行動が早い。
「ならいいけど……他の三人にも聞いてからだぞ?」
「三人? まさかあの三下も隊員なの? あの頭の切れるメガネ君と単細胞っぽい短髪の彼はいいけど、あの三下はダメよ。下級じゃない」
舞姫は吐き捨てるように言った。それが悠火の逆鱗に触れたとも知らずに。
「才能は無いし、全然冴えないし……あんな奴さっさと切り捨るのが懸命よ。代わりにうちの従者にいいのがいるからそれを……」
「れ……」
「え……何? よく聞こえな……」
「黙れって言っんだ!」
悠火は立ち上がり、舞姫に近づく。
舞姫はじりじりと後退する。そしてそのまま壁まで追い詰められてしまう。
「何怒ってるのよ。本当のことじゃない」
「お前にあいつの竜夜の何がわかる! あいつがどんな思いで妖術師になろうとしてるのか! あいつの覚悟を知らない奴があいつを悪く言うな!」
悠火は拳を握り、それで壁を殴る。
舞姫の顔の横ギリギリに打ち付けた拳に鈍い嫌な痛みが走る。
舞姫の目には少し涙が浮かんでいた。
「……悪い……少し言い過ぎた……さっきの入隊の話無かったことにさせてくれ」
「待っ……!」
悠火はそう言うと部屋へと帰って行った。
立ち去る悠火の背中を舞姫は見ていることしかできなかった。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
女の子を泣かせてしまった…
罪悪感が半端無いです。これメンタル的にキツイですね。
慣れねば…
「勘違いしないでよねっ」はツンデレのテンプレですね。
これさえ言っとけばツンデレになる気がする。
先生「この単語とこの単語、綴りが似てるから気をつけるように! こっちはrでこっちはlだぞ! 勘違いしないでよねっ!」
うん。ツンデレだな。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
「どうして断ったんですか? 五大家からの誘いなんて普通はありえないんですよ?」
「何で?」
「傘下に下るにはまず当主の許可、そして一定以上の階級の家臣の又は本家の推薦が必要です。今回の場合、誘ってきたのが舞姫様なので後者の条件はクリアですし、当主の娘ですから前者の条件も大丈夫なはずです」
竜夜は熱くなりながら説明してくれる。
悠火たち三人は妖術師についての知識はゼロに等しい。つまり五大家がどのくらい凄いのかとか、実はあまりよくわかっていないのだ。
「でも、傘下に入らなくても妖術師の仕事は出来るんだろ?」
「それは……そうですけど……」
「なら別に傘下に入る必要はないだろ。それに傘下に入ったら報酬金の一部を納めたり、仕事を押し付けられたりするんだろ?」
「た、確かにそうですが……」
竜夜は反論できない様子だ。悠火の指摘が的を得ていたのだろう。
「まあ、傘下の件とかは置いといて、あと一人隊員を集めないとだなぁ」
「そうだね……竜夜は誰か心当たりとか無いかな?」
「え、僕ですか? そうですね……いなくは無いですが、みんな下級ですし」
「この際もう下級でも良いんじゃね? 戦わせずに後方支援とかに回ってもらってさ」
確かにそれは悠火も考えた。
しかし今のところ前衛が悠火と奏鳴の二人、後衛が光秀と竜夜の二人なのだ。出来ればもう一人前衛を張れる奴が欲しい、というのが悠火の本音だ。
だが無い物ねだりは出来ない。仕方がないので明日にでも竜夜の心当たりとやらに入隊を打診してみることにする。
「あ、あがった」
「また悠火負けてやんの!」
ちょうどトランプの勝負も終わったので四人は風呂に向かうことにした。
階段を確認したがもう舞姫はいなかった。
竜夜が部屋に着替えを取りに行くのに付き合い、大浴場を目指す。
「ここ本当いい宿だな。しかもメチャクチャ安いし」
「だよな〜今度また来たいな」
「確かにいい宿だよね」
「僕も払えなくない宿代ですしね」
「そうでしょそうでしょ! うちの自慢なんだ!」
「へぇー自慢なのか……」
そこで悠火は気が付いた。会話に五人目がいることに。
「うわっ! またお前か!」
「うわって何よ! ここはうちが経営してる宿なの! そこに私がいて悪いわけ!?」
いつの間にか悠火の隣には舞姫がいた。
明らかにご機嫌斜めだ。
「悪くはねぇけど急に隣に来んなよびっくりするだろ」
「はぁ? あんたが私の横に来たんでしょ? 私があんたの隣に行くわけないでしょ! 本当そういう勘違い困るからやめてよね!」
「はいはい。で? 今度は何の用だよ」
「えっと……その……」
舞姫は急に黙りこくってしまった。
一体なんだというのだろう。
「早くしろよ。じゃねぇと風呂に着いちまうぞ」
などと言っている間に風呂に着いてしまう。
「はぁ……結局用は何なんだよ?」
「だからその……えっと……」
いくら聞いても埒があかない。
しかも何だかんだ今にも泣き出しそうだ。これでは悠火が虐めているみたいだ。
「風呂出たらゆっくり聞いてやるから! それでいいな!」
「あ、ちょっ!」
そう言って悠火は風呂の暖簾を潜り脱衣所へと入って行った。
(何で言えないのぉ!!!)
「はぁ〜いい湯だった……」
悠火は他の三人より少し早く風呂を上がった。もともと長湯が苦手なのだ。
そして脱衣所を出た悠火の目に風呂に入る前と同じ景色が飛び込んできた。
「早かったわね」
舞姫が仁王立ちしていたのだ。
一応男性用脱衣所の前なのだが。
「お前もしかしてずっとそこにいたの?」
「何? 悪い?」
「迷惑だろ……まあいいけど」
悠火は自販機の横に常設してあるベンチに座る。
すると舞姫が悠火の前に立つ。
「で? 何の用だったんだよ」
舞姫はゆっくりと深呼吸し、意を決して言った。
「私があなたの隊に入ってあげる」
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。傘下に入れと言った矢先、今度は隊に入ると言う。
ゲリラ豪雨の如くコロコロと言い分の変わる奴だ。
「何でまた……」
「あなたの隊、五人いないんでしょ? だから私が入ってあげるって言ってるの」
「でもお前次期当主何だろ? いいのか?」
「パ……お父様に許可は取ったわ」
思い立ったが吉日というやつだろうか。行動が早い。
「ならいいけど……他の三人にも聞いてからだぞ?」
「三人? まさかあの三下も隊員なの? あの頭の切れるメガネ君と単細胞っぽい短髪の彼はいいけど、あの三下はダメよ。下級じゃない」
舞姫は吐き捨てるように言った。それが悠火の逆鱗に触れたとも知らずに。
「才能は無いし、全然冴えないし……あんな奴さっさと切り捨るのが懸命よ。代わりにうちの従者にいいのがいるからそれを……」
「れ……」
「え……何? よく聞こえな……」
「黙れって言っんだ!」
悠火は立ち上がり、舞姫に近づく。
舞姫はじりじりと後退する。そしてそのまま壁まで追い詰められてしまう。
「何怒ってるのよ。本当のことじゃない」
「お前にあいつの竜夜の何がわかる! あいつがどんな思いで妖術師になろうとしてるのか! あいつの覚悟を知らない奴があいつを悪く言うな!」
悠火は拳を握り、それで壁を殴る。
舞姫の顔の横ギリギリに打ち付けた拳に鈍い嫌な痛みが走る。
舞姫の目には少し涙が浮かんでいた。
「……悪い……少し言い過ぎた……さっきの入隊の話無かったことにさせてくれ」
「待っ……!」
悠火はそう言うと部屋へと帰って行った。
立ち去る悠火の背中を舞姫は見ていることしかできなかった。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
女の子を泣かせてしまった…
罪悪感が半端無いです。これメンタル的にキツイですね。
慣れねば…
「勘違いしないでよねっ」はツンデレのテンプレですね。
これさえ言っとけばツンデレになる気がする。
先生「この単語とこの単語、綴りが似てるから気をつけるように! こっちはrでこっちはlだぞ! 勘違いしないでよねっ!」
うん。ツンデレだな。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
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