英雄の妹、最強を目指す!

やま

15話 翌日

『俺に勝てないからって、妹に手を出そうとするとはな。ーーが泣くぜ?』


 私の目の前で、槍を持つ男の人が、紫色の肌をした男の人が向かい合っている。紫色の肌をした男の人の後ろには、同じ肌をした人たちが武器を持って立っていた。


『だまれ! 我々はあのお方の悲願を達成するのだ。邪魔はさせぬ!』


 私は、怒る男の人を見て、恐怖で体が震える。まだ小さい頃の私に初めて降りかかる殺気。耐性なんか勿論無く、否応に体を震え上げさせる。


 だけど、次の瞬間には、その殺気も一瞬で消えてしまった。目の前の銀髪の男の人が、私を庇うように立っただけで。そして、優しく私の頭を撫でてくれる。


『俺の後ろに隠れていろよ? 直ぐ終わらせるからな』


 男の人の言葉に、私は特に考える事も無く頷いていた。この人の言葉だけで、私は、助かった、と、子供ながらに感じたのだ。


 銀髪の男の人は、最後にくしゃっ、と、私の頭を強く撫でてから、紫色の人たちへと向きなおる。


『悪いが、俺の大切な家族に手を出したんだ。本気でお前たちを潰す。雷……』


 次の瞬間には、銀髪の男の人の体は、青白く輝き、紫色の人たちには、目に見えない何かが降り注いでいた。それは一瞬の出来事だった。


 私が眩しくて目を瞑っている間に、全て終わっており、次に目を開けた時には、先ほどみたいに優しく頭を撫でてくれる感触があった。


 この時が、この人の本気を初めて見た瞬間だった。


 ◇◇◇


「……そういえば、そんな事もあったわね」


 私は、ぼーっと天井を見ながら1人で呟く。私が初めてあの人に憧れた日。私が小さい頃は、殆ど出会う事が無かったもの。お母様に話は聞いていたけど。


「どうして、こんな懐かしい事を思い出したのかしら?」


 私が不思議に思っていると、私たちが現在止まっている宿屋の部屋の扉が開かれる。初めは、ロイさんが部屋を貸してくれるって言ってくれたのだけど、せっかく独り立ちしたのに、ここでもお世話になるのは、あれだったので、自分たちで宿屋で部屋を借りたのだ。


 そして、その扉から入って来たのは、既にいつもの服に着替えているシロナだった。どうやら朝早くから洗濯をしていたみたい。手には洗った後の服が入った籠を持っていたから。


「あっ、おはようございます、クリシア様。体の調子はどうですか?」


 私は自分の体を動かす。昨日の戦いで切られた脇腹も、体を動かしても痛くない。細かな切り傷とかも無くなっていた。


「うん、体は大丈夫よ。ありがとうシロナ」


 私がお礼を言うと、シロナを可愛らしくぺったんこな胸を張る。可愛いから頭をワシャワシャしてあげようかしら。


 シロナを愛でていると、隣にあるベッドがもぞもぞと動き出す。私とシロナの声で起こしてしまったかしら?


 私とシロナが見ていると、むくりと起き上がる人影。薄い生地のネグリジェの左肩の肩紐がずれており、羨ましいほどの谷間が、胸元から覗いている。


 私が寄せてもあそこまで深くはならない……羨ましい。私も別に小さいわけではないのだけど、もう少し大きくても良いと思う。


「……あ〜〜、おはようございます〜、クリシア〜、シロナ〜」


 隣のベッドに寝ていた私の親友、エリアは私たちの姿を見ると、ぺこりと頭を下げてくる。エリアは朝が弱い。初めの1時間くらいは、ずっとこんな感じだ。


 私とシロナは、多分聞こえてないと思うけど、挨拶を返して、ベッドから立ち上がる。もう少し激しく体を動かしても、体に異変は感じない。


 昨日の5層攻略から1日が経ったけど、やっぱり魔法は凄いわね。昨日、5階層毎にある転移陣を使って塔から降りて、ギルドにある治療院を使ったのだけど、みんな凄腕の魔法師ばかりで、私もエリアもデルスも、怪我を全て治してもらった。


 一応、翌日の朝に変なところはないか確認するように言われていたけど、全くない。完璧に治っている。それなりの治療費を持っていかれただけはあるわ。私もあれぐらいのレベルになれば、これから先の攻略も楽になるでしょうね。


「シロナ、悪いのだけどエリアを起こして頂戴。そろそろ朝食の時間だから、下でデルスが待っているでしょうからね」


「わかりました!」


 誰に習ったのかわからないけど、右手を上げてピシッと敬礼をするシロナ。私はそんなシロナの頭を撫でながら、洗面所に向かう。


 ふぅ、今日は塔はお休みだから少し化粧でもしようかしら。塔に登るのには必要無いからしてなかったけど、今日は街に出る予定だし。


 昨日の宝箱から手に入ったアレも見てもらわなきゃね!

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