英雄の妹、最強を目指す!

やま

34話 秘めた力

「何をするんだ、お前たち!」


「あぁ? 悪いがお前らと話し合っている暇は無えんだよ。早くしねえと他の奴に取られちまうからな!」


 男はそう言うと一斉に向かって来た。やっぱりさっき横切ったのはゴールドクイーンローチだったのね! 


 それなら何としても追いかけたいけど、襲いかかってくる彼らを無視出来ない。既にデルスが短剣を持った背の低い男と、リリーナが斧を持った男と対峙している。


「おらっ!」


「危ないっ!」


 そして2人の魔法師の男たちの魔法を1人で受けているエリアに向かって、先ほど声を上げた男が剣を振り下ろして来た。私は直ぐに立ち上がって黒賢杖で防ぐけど、ぐぅっ、この人たちかなり上の階層の人たちだわ。力で押し切られる!


 私は後ろへと弾かれると、男は直ぐに左下から切り上げて来た。再び黒賢杖で受け止めるけど、更に弾き飛ばされる。そこに魔法師の男たちの魔法が放たれた。


「くっ! ファイアウォール!」


 エリアは火の壁で相手の魔法を防ごうとするけど、火の壁を貫いてくる魔法。相手に多いのは風と闇魔法が多いわね。


 私は直ぐに立ち上がって魔法を避けるけど、全ては避けきれない。風の刃が掠って切り傷が、闇の弾が当たって痣ができる。エリアの魔法のおかげで威力は落ちているけど痛いものは痛い。


「くらえ! ヴォルカニックアロー!」


 まずい! 火属性の中級魔法だわ! こんな森の中で撃って来て!


「アイスウォール!」


 私はエリアの側に行って直ぐに防御魔法を発動。この魔法でもそんなに持たないだろうけど少しぐらいなら、そう思ったのだけど、持ったのはほんの一瞬、氷の壁は矢が触れた箇所が溶けて貫いて来た。


 私はエリアを抱き締めてその場から飛び退いた。私たちの上を飛んでいく矢は後ろにあった木々にぶつかり爆発。私とエリアは爆発に巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。


「……ゲホッ、ゲホッ……だ、大丈夫、エリア?」


「は、はい、何とか無事です」


 そうは言っても前衛をする私より元々体力も防御も低いエリアはかなり辛そうね。まだ、魔法の支援は出来るでしょうけど。


 このままだと全滅は免れないわね。デルスは短剣を持った男に、リリーナは斧を持った男に押されている。私たちも魔法師の男2人、剣を持った男に敵わない。


 不味いわね。このままだと全滅するだけ。どうにかしないと。


「お前らなかなかやるじゃねえか。こんな低階層にいるにしては。何なら俺たちのパーティーに入れよ。手取り足取り何でも教えてやるぜ?」


「……誰が入るもんですか。気味の悪い笑みを浮かべてんじゃ無いわよ!」


 私は黒賢杖に氷魔法を付与、杖の先端を槍のように尖らせて下から振り上げる。男は後ろに下がって避けるけど、少し顔を掠らせる事は出来た。


「エリア! あなたはゴールドクイーンローチを探しに行きなさい! ここは私たちが抑えるから!」


 私はそう叫んだ瞬間、エリアと私たちの間に氷の壁を作る。男は魔法を放って壊そうとするけど、間合いを詰めて黒賢杖を突く。


 男は舌打ちをしながらも的確に黒賢杖を弾いて後ろへと下がる。そして、両手に集まる魔力。やばっ!


「調子に乗るんじゃねえよ! ヴォルカニックフレア!」


 男は先ほど以上の威力を持つ火魔法を私に向かって放って来た。私は咄嗟に氷の壁を作るけど、さっきの魔法でも耐えられなかったのに、それ以上の魔法に耐えられるわけもなく


「きゃぁぁああ!」


 私は吹き飛ばされてしまった。何度も地面を転がりようやく止まる私。うぅっ、レディに放つ威力じゃ無いわよ、全く。


 直撃は免れたけど、あちこち火傷をして痛む。土煙が舞う中、何とか立ち上がろうとすると、突然お腹に走る激痛。胃液を吐きながら吹き飛ばされてようやく男に蹴り飛ばされたのに気が付いた。


 私は背を木にぶつけてようやく止まる。蹴られたお腹を押さえて咳き込む私のところへと男は歩いて来た。


「ちっ、お前のせいで女魔法師を見失ったじゃねえか。今すぐに追いかけてぶちのめしてえところだが、まずはお前を動けなくしてやる」


 男はそう言って手に持つ剣を振り上げる。やばっ、痛みで体が動かないし。私は男を睨むだけ。そして振り下ろされる剣。


 しかし、男の剣が私に振り下ろされる事は無かった。男の剣が振り下ろされた瞬間、男に向かって魔法が飛んで来たからだ。魔法の飛んで来た方を見るとそこには


「……なんでいるのよ……エリア!」


 先にゴールドクイーンローチを探しに行かせたはずのエリアが杖を男に向けて立っていたのだ。


「みんなを放って行けるわけないじゃないですか!」


 エリアはそれだけ言うと、男に向かって何発も火の球を放つ。男はそれを煩わしそうに払うと一気にエリアに向かって駆け出す。


「まずはお前からだ」


「エリアッ!」


 エリアは杖を盾にして男の剣を防ごうとするけど、魔力を帯びた男の剣を防ぐ事は出来ず、杖は切り落とし、そのままエリアは肩から斜めに切られた。


「エリアァァァァァ!」


 私は手を伸ばすけど当然届くわけもなく。エリアは切られた杖を落としてその場に崩れ落ちる。


 ……どうしていつもこうなのかしら。いざという時はいつも何も出来ない。前のデュラハンの時だってそう、あの時だってお兄様が助けに来てくれなければ、私たちは全滅していた。


「次はお前だ」


 目の前で再び剣を振り上げる男。こんな時は何度も思う。力が欲しいと。みんなを守れる力を。理不尽な暴力を打倒する力を。そう思いながら振り下ろされる剣を見ていると


『私が力を貸してあげるわよ?』


 と、突然声が聞こえて来た。そして周りは空間が止まり、目の前には銀色の髪をしており、肌は魔族特有の紫色の肌をしていた。


「あ、あなたは?」


『私はあなたの中に眠っている力……を封じている者よ。あなたが付けている指輪ね』


 私は右手の中指に付けている指輪を見る。これのことかしら? 


『そうそれ。あなたのお兄さんが作ったその指輪に私の魂の核が入っているわ。ああっ、別にあなたのお兄さんがしたってわけじゃないから。私が自ら入っただけだからそこは勘違いしないでね』


「で、でも、どうしてそんな事を? 私には一体……」


『まあ、論より証拠よ。今のあなたなら持って3分ってところだけどね』


 魔族の女性がそれだけ言うと再び動き出す景色。目の前には先ほどと同じ様に剣を振り下ろしてくる男の姿が。


 そして、時が動き出すと同時に私の体の奥底から溢れる魔力。途轍もなく巨大な、そして禍々しい黒い魔力が体内から溢れ出し、男を襲う。


 男は咄嗟に跳び退き避けた。そして溢れ出した魔力はそのまま私へと集まって来た。


 この森の中ではかなり不釣り合いな黒のロングドレスへと変わり、いつの間にか手に持っていた黒賢杖は禍々しい魔力を帯びた大鎌へと変わっていた。そして私は、体の奥底から溢れる力に、三日月の様に歯をむき出して笑っていた。

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