英雄の妹、最強を目指す!
40話 武姫
「早く器を出しやがれ!」
魔落ちした男は、スライムのようにドロドロになった腕を大きく振ってきた。
ロイさんは俺を後ろへと押してから、迫るスライムの腕を雷の纏った剣で切り裂く。ジュッとスライムが焼ける音がするけど、切られたスライムの腕は直ぐに戻る。
「はっはっは! 何度切っても無駄だぜぇ。核を壊さねえ限り俺は死なねえ!」
男はそう言いながら、体からスライムを飛ばして来た。ロイさんは最低限の動きでスライムを避けるが、地面に落ちたスライムはじゅと溶ける。酸性のスライムか!
男は酸性のスライムを無差別に放つ。弾数が多いため、ロイさんも攻めあぐねていた。
「ちっ、そんな危ないものを適当に放ちやがって。ライトニングボルテックス、身体付与!」
しかし、次の瞬間、ロイさんは体に雷を纏わせて、男へと突っ込んで行った。は、速い! 気が付けばロイさんは男へと接近しており、瞬く間に男は細切れになった。
す、凄え。これがロイさんの本気か。俺はそんな風にロイさんの動きを観察しているけど、ロイさんの顔は優れない。その理由は直ぐに現れた。
「くくっ、残念だったなぁ。まだ核は壊せてないぞぉ? オラオラ!」
男はニヤニヤとしながらスライムの両腕を振る。ロイさんは酸のスライムの上を掻い潜り男を切るが、核がどこにあるのかわからないからか、致命傷を与える事が出来ない。
余裕な表情を崩そうとしない男。それとは反対に、1発1発かなり重たい一撃を放ち、当たると危険な酸のも避けているロイさんは、少しずつではあるが疲労が溜まって行っている。
「オラオラオラッ! どうしたどうしたどうした!!? さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ!?」
「……」
「あぁん? だんまりかよ!? もっと楽しませてくれよ!!」
少しずつ押されていくロイさんを見て、更に勢いを増す男。その顔はロイさんをいたぶるのを楽しんでいた。くそっ、俺に何かできる事は無いのか? 何か!?
そう思いロイさんを見ると、ロイさんがチラッと俺を見て来た。まるで、そこから動くな、と言うかのように力強く。
俺は一歩踏み出そうとした足を元の位置に戻す。ロイさんがチラッと視線を向けて来たのは一瞬で、今は迫る酸性のスライムを剣で叩き落としながら、男の様子を伺っていた。
……何かをしようとしている? はっきりとはわからないけど、それだけはわかった。
「ちっ、ちょこまかちょこまかと鬱陶しい! 刺し殺せ!」
スライムを避けるロイさんを見て、男は怒りにスライムの両腕を地面へと叩きつける。すると、あたりに散っていたスライムが全てロイさんを刺すかのように伸びて行った。
「ロイさんっ!!!」
四方八方から伸びるスライムを見て思わず叫んでしまった。しかし、ロイさんは慌てる事なく剣を構えた。そして次の瞬間、伸びていたスライムが弾け飛んだ。えっ? 一体何が? そう思った時には既にロイさんの姿は無く、離れたところでバシャッ! と、音がした。
音のする方を見ると、そこには体に大きな穴が空いたスライムの男の姿と、その穴の中心に突きを放つロイさんの姿があった。
「天雷撃・突。そして天雷撃・翔!」
ロイさんの腕が消えたように見えると、男の顔が左右に割れた。気が付いたら腕が振り上げられている。速すぎる……。
ロイさんが、男から距離を取ると、男の体が限界を保てなくなり崩れていった。もしかして、倒したのか?
俺は周りを警戒しながらロイさんに近づこうとした時、ロイさんが俺の方を見て、一気に駆け出して来た。そして、背筋が冷える感覚。振り向かなくてもわかる後ろには
「まずはお前を殺してやるぜ!」
スライムの男が現れていた。くそっ、こんな時まで俺は足を引っ張るのかよ。剣に触れることも、避けるために動く事も間に合わずに俺は背に迫る死の感覚を待つしかなかった……ついさっきまでは。
「何、ぼーっとしてんのよ、アンタ」
その声が聞こえると同時に、べちゃべちゃと溢れるような音がする。慌てて振り返るとそこには、燃え盛るような赤い髪の少女が肩に剣を乗せながら立っていた。
「ロイ兄さん。この気持ちの悪い奴。倒しても良いのよね?」
「……まあ、程々に頼むよ。エレネちゃんが暴れると、ボロボロになっちゃうからね」
男を見ながらロイさんに尋ねる少女。その言葉にロイさんは苦笑いを浮かべていた。それに、エレネって……この国で赤髪の少女でエレネと言えば1人しかいない。
シロナとは姉妹にあたり、この国の第1王女。どのような武器も持つだけで使い方がわかることから『武姫』と呼ばれる少女。エレネ・ランウォーカー。
「それじゃあ、許可も貰ったし、行くわよ?」
エレネ様がそういった瞬間、男の両腕は細切れになっていた。男は慌てて酸のスライムを放つけど、いつの間にか持ち替えていた槍の穂先で全て突き落としていた。
男はエレネ様の事を危険だと思ったのか距離を取ろうとするが、またいつ出したのかわからない弓矢を構えていた。
矢には魔法付与がされており、矢を放って男の身体に刺さった瞬間、大爆発。男のスライムの身体は辺りに飛び散ってしまった。
男は飛び散ったスライムを集めようとするが、小さくなった男の元へエレネ様が迫る。そして、どこからともなく武器を取り出しては男へと突き刺して行く。
男は逃げようと動くが、少しずつ削られて行くスライム。その分、男の動きが鈍くなっていき、そして、バリッと音がした。
音が鳴った瞬間、男のスライムが崩れ落ちていった。残ったのはスライムの身体に刺さっていた武器だけ。
「何よ、呆気ないわね」
……これが、英雄の子供の実力なのかよ。俺は自分よりも年下の天才に戦慄を覚えるのだった。
魔落ちした男は、スライムのようにドロドロになった腕を大きく振ってきた。
ロイさんは俺を後ろへと押してから、迫るスライムの腕を雷の纏った剣で切り裂く。ジュッとスライムが焼ける音がするけど、切られたスライムの腕は直ぐに戻る。
「はっはっは! 何度切っても無駄だぜぇ。核を壊さねえ限り俺は死なねえ!」
男はそう言いながら、体からスライムを飛ばして来た。ロイさんは最低限の動きでスライムを避けるが、地面に落ちたスライムはじゅと溶ける。酸性のスライムか!
男は酸性のスライムを無差別に放つ。弾数が多いため、ロイさんも攻めあぐねていた。
「ちっ、そんな危ないものを適当に放ちやがって。ライトニングボルテックス、身体付与!」
しかし、次の瞬間、ロイさんは体に雷を纏わせて、男へと突っ込んで行った。は、速い! 気が付けばロイさんは男へと接近しており、瞬く間に男は細切れになった。
す、凄え。これがロイさんの本気か。俺はそんな風にロイさんの動きを観察しているけど、ロイさんの顔は優れない。その理由は直ぐに現れた。
「くくっ、残念だったなぁ。まだ核は壊せてないぞぉ? オラオラ!」
男はニヤニヤとしながらスライムの両腕を振る。ロイさんは酸のスライムの上を掻い潜り男を切るが、核がどこにあるのかわからないからか、致命傷を与える事が出来ない。
余裕な表情を崩そうとしない男。それとは反対に、1発1発かなり重たい一撃を放ち、当たると危険な酸のも避けているロイさんは、少しずつではあるが疲労が溜まって行っている。
「オラオラオラッ! どうしたどうしたどうした!!? さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ!?」
「……」
「あぁん? だんまりかよ!? もっと楽しませてくれよ!!」
少しずつ押されていくロイさんを見て、更に勢いを増す男。その顔はロイさんをいたぶるのを楽しんでいた。くそっ、俺に何かできる事は無いのか? 何か!?
そう思いロイさんを見ると、ロイさんがチラッと俺を見て来た。まるで、そこから動くな、と言うかのように力強く。
俺は一歩踏み出そうとした足を元の位置に戻す。ロイさんがチラッと視線を向けて来たのは一瞬で、今は迫る酸性のスライムを剣で叩き落としながら、男の様子を伺っていた。
……何かをしようとしている? はっきりとはわからないけど、それだけはわかった。
「ちっ、ちょこまかちょこまかと鬱陶しい! 刺し殺せ!」
スライムを避けるロイさんを見て、男は怒りにスライムの両腕を地面へと叩きつける。すると、あたりに散っていたスライムが全てロイさんを刺すかのように伸びて行った。
「ロイさんっ!!!」
四方八方から伸びるスライムを見て思わず叫んでしまった。しかし、ロイさんは慌てる事なく剣を構えた。そして次の瞬間、伸びていたスライムが弾け飛んだ。えっ? 一体何が? そう思った時には既にロイさんの姿は無く、離れたところでバシャッ! と、音がした。
音のする方を見ると、そこには体に大きな穴が空いたスライムの男の姿と、その穴の中心に突きを放つロイさんの姿があった。
「天雷撃・突。そして天雷撃・翔!」
ロイさんの腕が消えたように見えると、男の顔が左右に割れた。気が付いたら腕が振り上げられている。速すぎる……。
ロイさんが、男から距離を取ると、男の体が限界を保てなくなり崩れていった。もしかして、倒したのか?
俺は周りを警戒しながらロイさんに近づこうとした時、ロイさんが俺の方を見て、一気に駆け出して来た。そして、背筋が冷える感覚。振り向かなくてもわかる後ろには
「まずはお前を殺してやるぜ!」
スライムの男が現れていた。くそっ、こんな時まで俺は足を引っ張るのかよ。剣に触れることも、避けるために動く事も間に合わずに俺は背に迫る死の感覚を待つしかなかった……ついさっきまでは。
「何、ぼーっとしてんのよ、アンタ」
その声が聞こえると同時に、べちゃべちゃと溢れるような音がする。慌てて振り返るとそこには、燃え盛るような赤い髪の少女が肩に剣を乗せながら立っていた。
「ロイ兄さん。この気持ちの悪い奴。倒しても良いのよね?」
「……まあ、程々に頼むよ。エレネちゃんが暴れると、ボロボロになっちゃうからね」
男を見ながらロイさんに尋ねる少女。その言葉にロイさんは苦笑いを浮かべていた。それに、エレネって……この国で赤髪の少女でエレネと言えば1人しかいない。
シロナとは姉妹にあたり、この国の第1王女。どのような武器も持つだけで使い方がわかることから『武姫』と呼ばれる少女。エレネ・ランウォーカー。
「それじゃあ、許可も貰ったし、行くわよ?」
エレネ様がそういった瞬間、男の両腕は細切れになっていた。男は慌てて酸のスライムを放つけど、いつの間にか持ち替えていた槍の穂先で全て突き落としていた。
男はエレネ様の事を危険だと思ったのか距離を取ろうとするが、またいつ出したのかわからない弓矢を構えていた。
矢には魔法付与がされており、矢を放って男の身体に刺さった瞬間、大爆発。男のスライムの身体は辺りに飛び散ってしまった。
男は飛び散ったスライムを集めようとするが、小さくなった男の元へエレネ様が迫る。そして、どこからともなく武器を取り出しては男へと突き刺して行く。
男は逃げようと動くが、少しずつ削られて行くスライム。その分、男の動きが鈍くなっていき、そして、バリッと音がした。
音が鳴った瞬間、男のスライムが崩れ落ちていった。残ったのはスライムの身体に刺さっていた武器だけ。
「何よ、呆気ないわね」
……これが、英雄の子供の実力なのかよ。俺は自分よりも年下の天才に戦慄を覚えるのだった。
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