アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。

じゃくまる

メルヴェイユギルドでの出会い


 アルケニアオンラインは、闇に閉ざされ瘴気に汚染された滅亡寸前の世界を救うべく、世界の管理者たる女神が異世界から救世主となる者達を呼び集めたというグランドストーリーがある。
 呼び集められた冒険者達は『プレイヤー』または『異世界人』と呼ばれ、アルケニア世界の住人と協力して、世界を救うことを目標に旅をするというものだ。
 この時与えられた力こそ、『職業』と『種族進化』であり、アルケニアの住人達には存在しない特殊な力と言われている。
 この世界を巡り汚染された地域を解放し、新たな村や街、そして国などを作る手伝いをし世界を再生させるというのもテーマの一つらしい。
 今話題の自由度の高いオープンワールドタイプであり、人間と同様に行動するNPC、アルケニアの住人達との交流も期待されている。

 そして今、ボクは冒険者ギルドと呼ばれる施設に来ていた。
 冒険者ギルドの外観は大理石でできた役所のような雰囲気をしている。
 その理由は簡単で、昔メルトルテ神聖国と呼ばれていた時期に使われていた宗教施設だったとか。
 それを改装して現在に至るというわけだ。

「新人冒険者諸君! この汚染された世界、アルケニアへようこそだ!!」
 ギルドに入ると、突如大きな声が聞こえてきた。
 ボクは慌てて耳を塞ぐが、間に合うことはなかった。
 すでに耳が大ダメージを負っている。

「うぅ、なんなの?」
「あれは冒険者ギルドのマスターで『リカルド』さんだ。職業は拳闘士をしているらしいぞ?」
 大きな声で演説している男性は、リカルドさんというらしい。
 180センチはあろうかという高い身長と引き締まった体を持つ、初老の男性だ。
 白い髪の毛をオールバックにしているが、ひげは生やしてはいないようだ。

「君たちの登録でギルドや街は潤うことだろう。この世界は闇に閉ざされている。だが! 君達異世界からやってきた冒険者達はその闇を打ち払う力を持つと聞く! 私達はその力を頼りにしている。どうか未来のために、この街この国、そしてこの世界の為に諸君らの力を貸してほしい!!」
「「「おぉぉぉぉぉ――!!」」」
 力と熱のこもった演説に、ギルド内で大歓声が上がる。
 憧れの疑似的異世界生活、そして救世主という名誉、新たなる冒険が目の前に転がっているのだ。
 大半の人はその演説を聞いてテンションが上がるのも当然だと思う。

「リカルドさんは面白い人でね。その強さもさることながら、人格者でもあるんだ。だからファンも多いし部下もついていく。理想の上司ってやつらしいぞ?」
「理想の上司かぁ。お父さんは?」
「詠春父さんは別格かなぁ。リカルドさんとは違うタイプの人だけど、近しいものはあるかもしれないね」
 うちのお父さんである、八坂詠春(やさかえいしゅん)は穏やかで陽だまりのような優しさを持つ人だ。178センチという身長ではあるものの、すらりとした体躯は女性陣に人気があり、その上品な物腰や気の遣い方は多くの人を虜にしている。
 色白の肌、切れ長の黒い眼を持ち、黒い髪の毛は腰まで伸ばしているのが特徴だろうか。
 神職の資格も持っており、近々創建する神社の宮司もいずれ務めることになっている。
 しばらくは会社の方を優先するのかもしれないけど、お母さんの妹さんもいるため任せるのではないかと思う。

 そんな八坂詠春の正体は、ボクと同じく妖狐族の天狐種。
 陽天狐と呼ばれる男性の天狐だ。
 もしもボクが陽天狐になるなら、お父さんみたいな人を目指したいと思っている。

「アーク兄はお父さんに勝てないもんね」
「魔術師なのに剣も扱えるのは、詠春父さんのおかげだな。というか、あの人は強すぎるんだよ……」
 少しだけ暗い顔をしながら、アーク兄はそう言った。
 お父さんは書類上の年齢は三十五歳だけど、実際はもっと歳を取っている。
 おそらく四桁くらいなんじゃないだろうか?
 詳しくは聞いたことないのでわからないけど。


 そんなことを話すボク達は、リカルドさんの演説の後、新規受け付けの列に並んでいる。
 アーク兄はすでに登録しているので、ボクだけが登録することになるわけだけど、とにかく人が多い。
 大きな建物なので当然カウンター前も広いのだけど、人がたくさんいるのだ。
 数え切れていないけど、新規受け付けの列だけでもたぶん二十人近くいるのではないだろうか?

「はーい、押さないでください! 新規受け付けはこちらでーす!」
「登録終了した新人さんは、講習を受けてくださーい!」
「現在新規依頼は受注を中止しています! 本日の納品関係のお仕事は全部受注済みになっております! 常時依頼として魔物の排除や周辺警備がありますので、そちらをご利用ください!」
「依頼の発注はこちらのカウンターまでお願いします! お仕事が足りなくて困っていますのでご協力をお願いします!」
「納品物の持ち込みカウンターはこちらです! 解体希望の方はその時おっしゃってくださーい!!」
 声を張り上げ冒険者達を導くのは、ギルドの華である受付嬢達だ。
 彼女達は人ごみに負けじと頑張って迷う冒険者たちを導いていた。

「押さない、駆けない、ナンパしない! ギルド三原則は守ってください!!」
「ギルド内での受付嬢のナンパは禁止です! お触りもいけません! 冒険者同士のナンパもグループ交際も禁止していますので他所でお願いします!」
 人が多いと何かしらの問題が起きるようで、ナンパの被害者もいたようだ。
 特に、可愛らしい受付嬢などに声を掛けるプレイヤーが多い。

「殺伐としてない? アーク兄」
「いやぁ、忙しそうだね。さすがにプレイヤーが多いから受付嬢達も休む暇がなさそうだよ」
 あっちにいきこっちにいき、注意をしたり説明をしたりと受付嬢達は実に忙しそうに飛び回っている。
 他のギルド職員はというと、納品物を運搬したり鑑定したり、書類を運んだりお金を支払ったりとやはり忙しそうにしていた。
 まさにギルド総出でフル稼働中という状態だ。

「うわぁ、この世界に生まれなくてよかった……」
 もしこのゲーム世界に生まれていたとしたら、ボクは同じようにプレイヤー達相手に大忙しで駆け回っていたことだろう。
 そう考えると、ボクにとってこれがゲームで良かったとすら思えてしまう。

「まぁそうだよなぁ。俺達の世界も誰かのゲームの中かもしれないって考えたことあるけど、もしそうだとしたらきっといつかこんな状況が起きるんだろうな」
 少しずつ進む列、その度に新しい人を案内するギルド職員や受付嬢、今ギルドは地獄だった。

「はい、お待たせいたしました! こちらへどうぞ~! あらかわいい。お名前伺ってもよろしいですか?」
「あっ、えっと、スピカです」
「はい、スピカちゃんですね。ふむふむ、実に可愛らしいですねぇ」
 ボクの順番がやってくると、一人の受付嬢に声を掛けられ、カウンターに案内された。
 ボクを見るなり可愛いと言い出したその受付嬢は、頭から猫耳を生やしていた。

「えっと、ねこみみ?」
「はい?」
 目の前にいたのは、茶色い髪の毛をミディアムボブヘアにした猫耳の女性だった。
 年齢は二十代前半くらいだろうか?
 身長は座っているのでわからないが、アーク兄よりは小さそうに感じる。
 大きめな黒い瞳はややたれ目がちで、愛らしい顔と言えるだろう。
 肌の色は黄色と白の中間くらいだろう。
 そんな可愛い声をした猫耳の女性が、きょとんと首をかしげていた。

「いっ、いえ。気にしないでください」
「もしかして、猫耳見たの初めてですか?」
 ボクの視線が頭部に言っていたのに感づいたのか、猫耳の女性はそう言ってきた。

「初めてといえば初めてですかね? 似たようなものは見たことあるんですけど」
 目の前の女性は人間に猫耳が生えた感じの人だった。
 ボクの知っている猫耳は猫の妖怪なので、人型の猫か猫耳を生やした猫っぽい女の子のどちらかだ。
 人型の猫は猫又の男性で、その奥さんは人間。
 その間に生まれた子が人型猫耳の女の子だった。
 もちろんその子も猫又である。

「なるほどなるほど。あたしのことに興味があると。ふむふむ」
 何かを納得したようにしきりに頷く女性。
 未だに名前を知らないので、どう呼べばいいか困る。

「とりあえずお仕事しちゃいますね。メルヴェイユへようこそ、新規登録は簡単最速! この水晶球に手を当てれば冒険者カードの出来上がりです! 手数料は最初の依頼から引かれるので今お金がなくても大丈夫ですよ? さぁ、その可愛らしいお手を触れてください」
 言われるがままに、水晶球に手を触れる。
 うっすらと光った水晶球は何かの文字列を表示すると、ちょっと下にある金属のカードに文字を刻み込んでいった。

「はい、あっという間でしょう? 新規登録は案外簡単なんです。犯罪歴とか色々な診断も勝手にしてくれる優れものなんですよ。あっ、あたしは『アニス』と言います。猫獣人族で、親は両方ともあたしみたいな感じです。似た種族に猫人というのがいますけど、あっちはもっと人型の猫といった感じです。間違えないでくださいね?」
 猫耳の女性はアニスさんというらしい。
 猫獣人族という種族なのか、興味深い。

「はい、それでは簡単な説明です。ここでは依頼=クエストを色々と受けられます。世界門から来ている冒険者の方はお手持ちの端末に依頼情報が載るので、そちらを選んだりしてください。カウンターでも現地冒険者と同じように受けることができるので、分からない時は聞いてくださいね?」
 一気に説明するアニスさん。
 しかしその顔は楽しそうにニコニコしている。

「続いてランクですが、FーSまであり、最初はFから始まります。昇格試験はDからなので、FからEまでは資格があれば簡単に上がります。それと依頼の受注制限ですが、一人五つまでです。受けられるランクは自分のランクから1前後までですので、FならEまで、EならFからDまでの依頼が受けられます。あとこれはプレゼントなのであとで開けてくださいね!」
 アニスさんは説明し終えると、何かの袋をくれた。
 何なのか気になるけど、確認は後にしよう。

「それにしても、妖狐族ですかぁ。あたし達猫獣人族と違って、人間族に変身できるなんてすごいですねぇ。もしよかったら、本来のお姿も見てみたいな~なんて?」
 アニスさんはボクに出来上がったカードを手渡しながらそんなことを言ってくる。
 当然ボクの答えは決まっている。

「お断りします~」
 にっこり微笑み、若干語尾を伸ばしながら丁重に即お断りする。
 ボクの本来の姿は簡単に見せるわけにはいかないからね。

「うぅ~。そんな~」
 よよよと泣き崩れるようにしながら机に突っ伏すアニスさん。
 そんなこと言っても、ボクの決意は変わらないからね!

「ね、アーク兄。もう行こう?」
「えっ? これいいの?」
「いいよ、ほっとこうよ」
 初対面でいきなり正体見せてとかちょっと失礼だと思うので、ボクなりの仕返しだったりもする。
 ボクはアーク兄の手を引き、解体講習を受けるために再び列へと並ぶことにした。

「あぁ~、スピカちゃあああああん……。うぅ。見せてとか言わないからまた来てくださいよ~」
 本気でへこんだらしく、涙目でそう言うアニスさん。
 さすがにちょっと可愛そうなので、今日の所は許してあげようと思う。

「わかりました。でも、初対面でいきなりそういうのはナシだと思います」
「うん……。ごめん」
 どうやらアニスさんは本気で反省しているようだ。
 ちょっと言い過ぎたかな?

「あ~あ~。アニスのやつ嫌われてやんの。アニス可愛い子大好きだからな」
「あぁ、それであんなことを。で、拒否されてダメージ受けたと」
「自業自得だって。まぁアニス自体可愛いからへこんでる姿も気に入ってるんだけどな」
「わかるわかる。にしても、スピカちゃんも子供だけどなかなか可愛いな。将来が楽しみだ」
「でも、異世界人だぜ? 絶対強くなるって」
「いいかお前たち。絶対手を出すなよ。下手したら死ぬぞ……」
 アニスさんのいるカウンター付近から、そんな声が聞こえてくる。
 どうやら現地のベテラン冒険者さん達のようだ。
 揶揄われながらも撫でられ、アニスさんは少しだけ慰められたようだった。

「ねぇ、アーク兄。アニスさんって人気なの?」
「ん? あんだけ可愛らしくて仕事も出来る。その上元Aランク冒険者だってんだから人気ないわけがない」
「へぇ~」
 ボクに対してはダメな感じだったけど、本当のアニスさんはすごく出来る女性のようだった。
 正直、少しだけ見直したかな。

「ほら、解体講習受けるぞ?」
「うんっ!」

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