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じゃくまる

第2章 第2話 メルヴェイユフェスティバル準備2


 喫茶店を出た後、ボクはあることを思い出した。
 そういえば、ミナに合わせてないということをだ。

「アーク兄、ちょっとまってて」
 前を歩くアーク兄にボクはちょっとだけ声を掛ける。

「あぁ、いいぞ?」
「うふふ、それじゃあ少しアークちゃんと話してるわね?」
 さっそく二人が今日これからのことを話始めたので、ボクはさっさと連絡することにした。

(お婆ちゃん聞こえる?)
 ボクは念話を通してお婆ちゃんに話しかける。
 召喚して以降、念話が行えるようになったのだ。
 これはミアの時と同じだと思う。

(おぉ、聞こえるのじゃ。どうした? そっちへ行くなら呼び出しても構わぬぞ?)
 普段何かと忙しそうなお婆ちゃんだけど、今日は問題ないようだった。

(いつも忙しいのに大丈夫?)
(あれは雑事を片付けていただけじゃ。まとめて片付けてしまえば、いつでも応じられるようになるからのぅ)
 どうやらお婆ちゃんは、ボク達の為に時間を作る努力をしてくれていたようだった。

「『召喚符:九尾天狐ココノツ』」
 他からは見えないようにこっそりとお婆ちゃんの召喚を行う。
 お婆ちゃんはこの世界に肉体を持たないため、呼び出すには召喚契約を通して仮初の身体を与える必要があるのだ。
 これは実は現実世界でも同じで、そのための依代が今準備している社なのだ。

「久々じゃのぅ。何やら賑わいを感じるが、何かあるのかのぅ?」
 光から出てきたお婆ちゃんは、いつもの大人の女性の姿をしている。

「うん、これからフェスティバルなんだけど、ボク達は屋台を出すことになって。それでこれから見に行くんだ。あとでミナも来るから、一緒にいかない?」

 フェティバルは二日間行われる。
 今日は初日であり、プレイヤー達のほとんどが今日のフェスティバルを楽しんでいる。
 ちなみに、プレイヤー達が出店などを出すのは、二日目のみとなっている。
 これは、プレイヤー達の歓迎の意味も含めたフェスティバルだからだ。
 とはいえ、お祭り好きのプレイヤー達がただじっとして楽しんでいるなんてあるわけもなく、すぐさま屋台やバザーの準備を行う者達が出始めたのだ。

「良い雰囲気じゃのぅ。他世界の者達が会すると争いが起きるものじゃが、随分とみな大人しい。まぁ、良からぬ企てをするものも今後出るじゃろうし、今だけなのかもしれぬがのぅ」
 お婆ちゃんは周りを見回すと、やや不穏な言葉を口にする。
 そんなことにはなってほしくないものだ。
 
「あらぁん? ずいぶんな美女がいるわねぇ。何やら近寄りがたい力を感じるわ。どなた?」
 周囲の異変に真っ先に気が付いたレインさんがこっちにやってきて、問いかける。

「げげ、お婆ちゃん」
 その姿を見たアーク兄がすぐさま顔を青くした。

「なんじゃ? アークや。妾に会えてそんなにうれしいのかのぅ?」
 お婆ちゃんは嬉しそうにそう言うと、アーク兄に近づいていく。

「ちょっ、まっ」
「待たぬ。妾から逃げられるとは思わぬことじゃな」
 逃げようとするアーク兄は、お婆ちゃんに捕まると逃げられないように腕を胸に埋められてしまった。
 完全がっちりホールドだこれ!

「ぬぐぐ……。動かせば問題があり、動かさなくても問題があるだと!? 逃げられない!!」
「どんまい」
 アーク兄よ、がんばれ。
 ボクはその光景を見守ることしかできないよ。

「薄情者め……」
「セクハラになるよりマシでしょ?」
「お姉ちゃん達、何してるのよ」
 ボクとアーク兄がそんなやり取りをしていると、不意に声を掛けられる。

「あれ? マイア?」
 振り向くとそこには、黒銀色の髪の少女、マイアがいたのだ。

「まったく。二人して騒いじゃって……」
「おぉ? ミナか。久しいのぅ」
 マイアが呆れた顔をしながらそう言うと、嬉しそうなお婆ちゃんの声が聞こえてきた。

「あっ、お婆ちゃん」
「まさか、覚えておるのか? あんなに小さかったのに」
 自分のことを覚えていたマイアに、びっくりするお婆ちゃん。
 マイアは慌てて取り繕うに話す。

「えっと、写真では見たことあります。ずっと小さい時に少しだけ会ったような気はしてます」
 マイアがまだ三歳ごろの時なので、ほとんど覚えてないはずだ。
 それでも、おぼろげな記憶と気配を頼りにそう話すマイア。

「それは嬉しいのぅ。すまぬ。もうしばらくはまともに会えそうにもないのじゃ。社が完成したらそちらに向かうでの」
 お婆ちゃんはそう言うと、マイアの頭を優しく撫でる。

「お婆ちゃん、私、ここでは『マイア』です。あっちではミナでいいですけど」
 やんわりと自分の名称を訂正するマイア。
 結構こんがらがるよね。

「そうかそうか。にしても、そなたは本当にあやつ譲りじゃのぅ」
 今なお優しく頭を撫で続けるお婆ちゃんと甘えるマイア。
 見ててほんわか癒される。

「お婆ちゃんはどうやってここに? お姉ちゃんの術とは聞いてますけど……」
 マイアは不思議そうに質問をする。
 まぁそうだよね。

「お婆ちゃんはここでは実体がないから、幻獣や精霊のように契約召喚する形で呼び出せるようになってるんだ。依代は貰ってるしね。こうなるようにデータが用意されてるってことは、たぶんお母さんだよ」
 本来ゲーム世界なので、いくら精神体とはいえお婆ちゃんを呼び出すことは不可能だろう。
 じゃあなぜ呼び出せたのか。
 答えは召喚時のデータにあった。

「お婆ちゃんを呼び出す術は『神霊召喚』という道士・陰陽師系統のスキルに登録されてたんだ。契約方法はたった一つ。認められて召喚の依代を受け取ること」
 つまり、『神霊召喚』という形で無理矢理呼び出せるように仕組まれていたのだ。
 なんというごり押し……。

「あやつのことじゃ、どうせ自分で解決できないなら巻き込んでしまえとでも思っておるのじゃろう。本当に要領の良い泥棒猫よのぅ」
 お婆ちゃんはどことなく怖い笑顔でそう言い切った。
 女の戦いは怖い……。

「お姉ちゃん、お婆ちゃんとお母さんって仲悪いの?」
 そっと近寄ってきて、小声で話しかけてくるマイア。
 ボクはそれに簡単に答える。

「仲は良いと思うよ。ただ、大事な息子を奪われたからそう言ってるだけ」
「そ、そうなんだ……。お婆ちゃん子離れ出来ないのかな?」
「う~ん……」
 数少ない同族だからこそ、余計に大事なのかもしれないけど、ボクにもよくわからない。
 けど――。

「それでも、家族のことは大事にしてるんだから、ボクはいいと思うけどね。なんだかんだ言いながら、こうしてここに来てくれてるんだし」
 きっとお婆ちゃんもお母さんも素直じゃないだけなんだろうな。

「おーい、そろそろ屋台の準備するぞ」
 レインさんと何かを打ち合わせていたアーク兄が、ボク達を呼び集める。
 どうやらそろそろ設営からはじめるようだ。
 ちょっとだけ楽しみだな。

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