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じゃくまる

前夜祭と少女たち


 大和との遭遇は覚悟していたものの、やっぱり嫌われるのは怖かった。
 だから……、覚悟してると言いつつも出来るだけ会わないことを祈っていた。

「大和君、いつの間にか許嫁出来たんだね?」
 大和のことはミナも知っている。
 ボクと美影と瑞樹が幼馴染なように、大和もボク達と幼馴染なのだ。
 そこには当然、ボクの妹であるミナも含まれている。

「今の、昴ちゃんのお友達?」
「あ、うん。なんか変なところ見せちゃってごめんね?」
「ううん。お姉ちゃん達も私も見守ることしかできなかったから大丈夫」
 大和が林へと消え去ってから少しして、このはちゃん達が集まってきた。
 真っ先に声を掛けてくれたのはこのはちゃんだけど、みんなそれぞれ心配そうな顔をしている。

「本当に大丈夫? 事情は分からないけど、大事なことなんでしょ?」
「いつも好奇心旺盛で元気な昴ちゃんが、滅多に見せないような戸惑った表情してたもんね~。よしよ~し」
 鈴さんに頭を撫でられながら、ボクは花蓮さんに頷いて見せた。

「幼馴染だし、大事な友達ですから」
「そう。でもあの感じなら大丈夫そうよね」

 大和との不意の遭遇は驚いたけど、大和自身の気持ちが聞けたから良かったのかもしれない。
 当の大和は無事かはわからないけどね?

「さ、気合い入れて楽しむよ!」
「昴ちゃん達、欲しいものあったらお姉ちゃんに言ってね? 奢っちゃうんだから」
「ありがとうございます、鈴お姉ちゃん!」
「お姉ちゃんさすが」
「あはは……。うん、ちょっと頼っちゃおうかな?」
「あたし達もいいの?」
「こら、美影。私達はまだ部外者よ?」
「こ~ら。妖種でも何でも、年下ならお姉ちゃんに頼るものだよ?」
「えっと、それじゃあ」
「うん」
「「ごちそうになります」」
「はい、よく出来ました」

 鈴さんが奢ってくれるというので、ボクはわずかながらにテンションが上がる。
 さてさて、何を食べるべきだろう?
 実のところ、友達とお祭りって初めてなんだよね。

「ねね、お姉ちゃん」
「ん? どうしたの? ミナ」
 祭りの会場に近づくにつれて増えていく屋台達。
 ボクはきょろきょろしながらその屋台を遠くから見ていた。
 そんな時、ミナが近寄ってきた。

「大和君、ゲームやりそう? もしいれば戦力大幅アップしそうじゃない?」
「ん~、どうだろ。でも、大和のことだからもう見つけてるかも」
「そうかな? だったらいいけど。もしかしたらお兄ちゃんが誘ってるかもしれないし」
「あぁ。賢人兄と大和、仲良いよね」
 賢人兄と大和はとても気が合うようで、遊びに来るとよく一緒に楽しんでいる光景を見かけた。
 もちろんボクも混ざるんだけど、まるで舎弟か何かのようにくっついて回るものだから面白くて仕方なかったのを覚えている。

「もしやるんだったら、仲間に入れないとね」
「うん!」
 うちのパーティーは男性陣がほとんどいないので、ちょっとだけ増やしても大丈夫だとは思う。
 まぁ、美影達が怒るかもしれないんだけどね?

「はい、チョコバナナ。美味しいよ?」
「ありがと!」
「ありがとうございます」
「可愛い子達とお祭りって最高だよねぇ。うんうん。幸せ」

 鈴さんがボク達にチョコバナナを持ってきてくれた。
 チョコバナナって先っぽを口に含んでから食べる?
 それとも反り返ってる部分から食べる?
 食べ方は人それぞれなんだろうけど、ボクはなんとなく先っぽから食べるのははしたない気がしたので、反り返ってる部分から少しずつ食べていくことにした。
 ちなみにバナナ自体を食べるときもそんな感じだ。

「お姉ちゃん周りからいくの? 私は先っぽからダイレクトに食していくよ?」
 ミナはそう言いながらもぐもぐと先っぽから食べ進めていく。
 う~ん、やっぱり口に突っ込んだままっていうのはなんとなくはしたないように思えるなぁ。

「何でそんなに食べ方悩んでるのよ?」
 こっちに近づいてきた花蓮さんの手にもチョコバナナ、瑞樹の手にもチョコバナナ、このはちゃんの手にもチョコバナナが握られている。
 美影だけはフランクフルトだったけど。

「君達、せっかくのお祭りなんだよ!? バナナなんかどうだっていいでしょ! まず食べるべきはお肉! これ一択でしょ」
 美影はこっちにフランクフルトと突きだしながらそう断言した。
 なるほど、一理ある。

「そ~いうわけで~、この後は豚串牛串、とにかくお肉を極めて行こうかと思っております!」
 美影は手に持ったフランクフルトを一気に食べきると、次なる肉を求めて人ごみに飛び込んでいった。
 その姿は狩猟に行くハンターのようだった。

「お肉かぁ」
 ボクもたまにはお肉食べようかな?

「そういえば、お稲荷さん売ってたわよ? 何であるのかしらね」
 花蓮さんがチョコバナナを食べながらぽつりとそう呟いた。

「ふぅん? そうなんだ」
 お稲荷さんか。
 まぁ、いつでも食べられるし?

「お姉ちゃん、お尻揺らしながら何考え込んでるの? さっさとお稲荷さん買ってきなよ。食べたいんでしょ?」
「はっ!? ボクは何を!?」
 ミナに指摘され、始めてボクは自分が無意識に尻尾を振る動作をしていたことに気が付く。
 感情が揺れると、お尻に力が入るんだよね。
 そうなると、繋がってる尻尾が敏感に揺れ始めるんだ。

「うぅ。そうだね。行ってくる」
「あっ、じゃあ私ジャガバター欲しい!」
「一緒に、行きます」
 ついでとばかりに、ミナが追加の注文をしてくる。
 仕方ないから行ってくるか。

「このはちゃん、待ってて良かったのに」
「ううん。一緒に行きたいから」
 このははちゃんそう言うと、ボクの服の裾をぎゅっとつかんだ。

「わかった、じゃあ行こう」
「はい!」

 ボク達はお稲荷さんとジャガバターを求めて人ごみをさ迷い歩く。
 このお祭りの時期って、まるで異世界のように感じることがある。
 どこまでも続く屋台、ずっと続く夜の闇。
 そして通り過ぎても気が付かない人々を見ていると、ボク達だけが彼らから見えないんじゃないかと錯覚してしまう。
 その間も、このはちゃんは裾を掴んでいるので、はぐれないように手を握ってあげた。

「……!」
 一瞬驚くものの、すぐにぎゅっと握り返してくるこのはちゃん。
 ボク達は歩いてる間、ずっと無言だった。
 でもこのはちゃんをちらっと見てみると、わずかながらに嬉しそうに微笑んでいるのが見えてボクは安堵した。
 よくは分からないけど、嬉しそうなこのはちゃんを見ているとほっこりした気分になれた。

「すみません、ジャガバターを二つください」
「あいよ! 別嬪さんなお嬢ちゃんが二人も来てくれるなんて嬉しいね! サービスで半分だけ追加しとくから食べてくんな! 八百円だよ。バターとマヨネーズはセルフだよ」
 ボクは屋台のおじさんに八百円を渡すと、二つと半分の蒸かしたジャガイモにバターとマヨネーズを塗っていく。
 ミナの分は脇に添えるようにしておこう。

「はい、このはちゃんの」
「? いいの?」
 ミナに一つ、このはちゃんに一つ、そしてボクが半分のを食べることにした。

「うん、もちろん。後で一緒に食べようよ」
「!! うん!」
 嬉しそうにニコニコするこのはちゃんを見つつ、ボクはお稲荷さんを売っている屋台を探すため、あたりを見まわす。
 すると――。

「あっ」
「? お稲荷さんの屋台、隣だよ」
 ジャガバターの屋台を探すことに夢中になりすぎて、本来の目的であるお稲荷さんを売っている屋台を見逃していたのだ。
 しかも、すぐ隣だということに気が付かないまま……。

「昴ちゃん、結構おっちょこちょい」
 このはちゃんは柔らかく微笑みながらそう言った。

「すいませ~ん、お稲荷さん一つください」
「あいよ!」

 田舎風お稲荷さんと題されたそれは、お揚げの色がきつね色ではなく茶色だった。
 味のとことん染み込んだ、濃いそのお稲荷さんはとてもおいしかった。

「すいません、もう一つください!」
 思わず追加注文をしてしまうほどに、おいしかったのだ。
 誰かとお祭りに行くことが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。
 家族以外と行く初めてのお祭りをボクは仲間達と堪能したのだった。

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