アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。
ズィークさんへの薬の配達前編
マタンガの集落に行く前にやらなければいけないことが二つある。
一つはズィークさんへの薬の提供だけど、それにはフィルさんが製作を終えてないといけない。
まずは確認しよう。
「フィルさ~ん、薬できた~?」
ノルマの穢れの浄化を終えて報酬をもらい、マーサさんのお店に帰って来たボクは、さっそくフィルさんに声を掛けた。
「おかえり。うん、出来てる。持って行く?」
フィルさんは普段無表情なのに、今日はなんだか明るい表情をしている。
少しだけ足取りも軽いようだし、心なしか嬉しそうだった。
「スピカにゃん、同性落としてどうするのかにゃ? そういえば最近噂で聞いたんだけどにゃ、スピカにゃんってガード緩すぎなんじゃないかにゃ? ちょっと百合入ってるって聞こえてきてるのにゃ」
「百合? 花がどうしたの?」
急に真顔で音緒がそんなことを言いだし始めた。
花の話なんてしてないんだけどなぁ……。
「違うにゃ。女の子同士でイチャイチャしたりすることを百合というにゃ。まぁこの解釈は結構大まかにしか言ってないから、厳密には間違ってるのかもしれないけど、同性同士の友情も範疇に入るそうにゃ。まぁ、そういうのは専門家に任せるにゃ」
「えぇ!? ボクそんなことしてないけど!?」
とんだ濡れ衣である。
音緒はボクをどう見てるんだよ!?
「いいにゃいいにゃ。一線越えなければ問題ないにゃ。私もお触りは好きだからにゃ。一向に構わん! というやつだにゃ」
「いやいやいやいや」
ボクは首を激しく横に振って否定した。
でも、頭がくらくらするだけで何の効果もないようで、音緒のニヤニヤは止まらなかった。
「スピカ? 持ってきた。あと、猫、スピカいじめるのは禁止」
研究所を兼ねている部屋から薬を持ってきたフィルさんは、音緒にそっとくぎを刺した。
「いじめたりはしてないにゃ。愛ゆえにだにゃ」
「愛……。ライバル」
「どうやらフィルにゃんは本気のようだにゃ……」
「私はいつでも全力投球。性別反転薬も用意しているから同性でも問題ない。私の勝利は揺るがない」
「このエルフ、怖いにゃ……」
「うふふふふ」
「お~い、二人とも変な顔してどうしたの? 薬あるなら出掛けるからちょうだい」
「うん、あげる。今回は待ってるから、早めに帰ってきてほしい」
「は~い。ほら音緒、行くよ?」
変な顔をして見つめ合っている二人に声を掛け、ボクはさっそく薬を渡しに行くために出掛けることにした。
心なしか音緒の尻尾に元気がないような気がするんだけど、気のせいかな?
尻尾と耳の手入れは大事だからちゃんとするべきなんだけど。
****************
「愛というものは、時に重いものなんだにゃ」
「?」
ボクたちは現在、東門から出た先の森の中にいる。
ここから少し行くと、インスタンスダンジョンがあり、その最下層にズィークさんがいるのだ。
でもどうせだからショートカット出来ればいいのになぁ。
「とても大事なことなんだにゃ。私は初めて敗北しそうになったにゃ」
やや遠い眼をした音緒がそんな言葉を漏らす。
一体何があったんだろうか?
「もう、ほら、がんばろ? ボクも一緒だしさ!」
「うぅ、スピカにゃんは天使にゃ」
「ボクは狐だよ? 天使じゃないよ?」
「ものの例えにゃ。ところで、前来たときは一人だったのかにゃ?」
「ううん、神様の同行者がいたよ?」
音緒のよくわからない例えは置いといて、音緒の質問にはしっかり答えてあげた。
前は大禍津(おおまがつ)と一緒に来たわけだけど、今回は同行していない。
召喚すれば呼び出せるのだけど、音緒が一緒なので呼び出すことは止めている。
あの神様は結構癖が強いんだよねぇ……。
「陰陽師見習いなら神様とくらい契約していてもおかしくはないにゃ。大体は付喪神だと思うけどにゃ」
人間たちと違って、ボクたちには神様が珍しいという気持ちや驚くという感情は存在しない。
なぜなら、人間たちよりも神に近く、いつでもどこでも見かけたりすることができるからだ。
現実って、案外ローファンタジーなんだよ?
「そういえば、付喪神ってここでは見てないなぁ」
「現実ならそこかしこにいるけどにゃ。ここだと人間の方が見つけやすいかもしれないにゃ」
実は付喪神というものは、妖種が扱うものにはそうそう宿ることがない。
人間が扱うものに宿ることが多いのだ。
低級神や精霊といったものではあるんだけど、人間とのほうが相性が良いらしいんだ。
代わりにボクたちは、上級神や最高神との縁が深い。
力の関係や寿命の関係もあるため、人間たちよりも相性が良いのだ。
「そういえば、陰陽術? というのはどんなことができるのかにゃ?」
音緒はボクに新しく加わった陰陽術に興味があるようだ。
実のところ、まだ駆け出しなのでほとんどのことができない。
でも、浄化と一部の式神を使うことはできるのだ。
「まってね。洞窟着いたから中に入ってから見せるよ」
「楽しみにゃ」
プレイヤーたちは結構いるのだけど、不思議とこの辺りにはいなかった。
マップ自体広いから簡単に遭遇したりはしないと思うけど、それはそれで寂しいかもしれない。
****************
「ギャギャ」
「にゃっはー、滅ぶがいいにゃ~! 【疾風刃】」
洞窟の中に入るとさっそくゴブリンが出迎えてくれた。
音緒は嬉々として盗賊の短剣技スキルを使ってゴブリンを切り刻み始めた。
「にゃはは、楽しいにゃ~。ゴブリンいっぱいでお金もいっぱいにゃ。私の特技の一つにドロップ率アップと幸運があるにゃ。見てほしいにゃ、鉄の剣ゲットにゃ~」
音緒は大はしゃぎだ。
この現金な猫はお金に目がないようで、盗賊スキルをフル活用してアイテムとお金を巻き上げている。
というか、ボクが戦ってる時よりも手に入るもの多くない!?
「私が盗賊やってる理由はこれにゃ! 猫又だからって妖術系にはならないのにゃ」
胸を張ってそう言う音緒は本当に楽しそうだった。
うらやまし……くない!
「にゃっはっはっはっはっ、そんな顔しなくても分けてあげるにゃ」
「大好き!」
音緒の言葉に思わずそう言ってしまうボク。
ごめん、ボクもお金は大好きです。
「さぁ、どんどんいくにゃー!!」
音緒は元気よくゴブリンたちを倒しながら奥へと進んでいく。
「ちょっとまってよ、ボクも行くってば」
そんな音緒の後ろをボクは慌てて付いていくのだった。
「スピカにゃんの新しい術も見せてほしいにゃ」
「いいけど、ちょっとまってね」
音緒のお願いにボクは式神の使役準備をする。
準備といっても簡単で、人形(ひとがた)の形代(かたしろ)を持って対象の式神を呼び出すだけ。
強い式神ほど契約するために戦ったりする必要があるけど、ボクの使える式神は誰でも呼び出せる最低級のものだけだ。
今ボクに扱えるのは式神は三種類。
衛士、薬師、そして鍛冶師だ。
人型の式神で、面符をかぶっているのが特徴だ。
「行くよ! 【式神招来・獄門衛士】」
指の間に挟んだ形代を前方の空間に投げつける。
すると空中で静止し、五芒星を描いて人形の形代が人の形を取り始める。
「うにゃ!? 紙が膨れ上がったにゃ!?」
音緒がびっくりして飛び退く。
その間に形代は、狩衣と烏帽子、直垂を着用して腰に刀を差した衛士の姿に変化する。
その不思議な人間の姿は、平安時代の武士のような姿だった。
面符をつけた衛士はボクの前に跪くと、頭を垂れる。
「どうなってるのにゃ? これはなんなのかにゃ?」
「これは最下級の式神で、獄門衛士って言うんだ。地獄門の警備を担当する最下級の神様みたいなものだね。最下級だけあってかなり弱いけど、普通の人間よりは強いよ」
呼び出したのは獄門衛士(ごくもんえいし)だ。
簡単に言うと街の門番みたいなもので、戦闘力はそこそこといった感じだ。
それでも、ゴブリンなんかよりはよっぽど強いんだけどね。
「よし、獄門衛士、戦うよ!」
ボクの言葉を聞いてそっと立ち上がった獄門衛士は、ゴブリンたちに向き直ると、腰の刀を抜き放った。
さぁ、戦闘開始だ!!
一つはズィークさんへの薬の提供だけど、それにはフィルさんが製作を終えてないといけない。
まずは確認しよう。
「フィルさ~ん、薬できた~?」
ノルマの穢れの浄化を終えて報酬をもらい、マーサさんのお店に帰って来たボクは、さっそくフィルさんに声を掛けた。
「おかえり。うん、出来てる。持って行く?」
フィルさんは普段無表情なのに、今日はなんだか明るい表情をしている。
少しだけ足取りも軽いようだし、心なしか嬉しそうだった。
「スピカにゃん、同性落としてどうするのかにゃ? そういえば最近噂で聞いたんだけどにゃ、スピカにゃんってガード緩すぎなんじゃないかにゃ? ちょっと百合入ってるって聞こえてきてるのにゃ」
「百合? 花がどうしたの?」
急に真顔で音緒がそんなことを言いだし始めた。
花の話なんてしてないんだけどなぁ……。
「違うにゃ。女の子同士でイチャイチャしたりすることを百合というにゃ。まぁこの解釈は結構大まかにしか言ってないから、厳密には間違ってるのかもしれないけど、同性同士の友情も範疇に入るそうにゃ。まぁ、そういうのは専門家に任せるにゃ」
「えぇ!? ボクそんなことしてないけど!?」
とんだ濡れ衣である。
音緒はボクをどう見てるんだよ!?
「いいにゃいいにゃ。一線越えなければ問題ないにゃ。私もお触りは好きだからにゃ。一向に構わん! というやつだにゃ」
「いやいやいやいや」
ボクは首を激しく横に振って否定した。
でも、頭がくらくらするだけで何の効果もないようで、音緒のニヤニヤは止まらなかった。
「スピカ? 持ってきた。あと、猫、スピカいじめるのは禁止」
研究所を兼ねている部屋から薬を持ってきたフィルさんは、音緒にそっとくぎを刺した。
「いじめたりはしてないにゃ。愛ゆえにだにゃ」
「愛……。ライバル」
「どうやらフィルにゃんは本気のようだにゃ……」
「私はいつでも全力投球。性別反転薬も用意しているから同性でも問題ない。私の勝利は揺るがない」
「このエルフ、怖いにゃ……」
「うふふふふ」
「お~い、二人とも変な顔してどうしたの? 薬あるなら出掛けるからちょうだい」
「うん、あげる。今回は待ってるから、早めに帰ってきてほしい」
「は~い。ほら音緒、行くよ?」
変な顔をして見つめ合っている二人に声を掛け、ボクはさっそく薬を渡しに行くために出掛けることにした。
心なしか音緒の尻尾に元気がないような気がするんだけど、気のせいかな?
尻尾と耳の手入れは大事だからちゃんとするべきなんだけど。
****************
「愛というものは、時に重いものなんだにゃ」
「?」
ボクたちは現在、東門から出た先の森の中にいる。
ここから少し行くと、インスタンスダンジョンがあり、その最下層にズィークさんがいるのだ。
でもどうせだからショートカット出来ればいいのになぁ。
「とても大事なことなんだにゃ。私は初めて敗北しそうになったにゃ」
やや遠い眼をした音緒がそんな言葉を漏らす。
一体何があったんだろうか?
「もう、ほら、がんばろ? ボクも一緒だしさ!」
「うぅ、スピカにゃんは天使にゃ」
「ボクは狐だよ? 天使じゃないよ?」
「ものの例えにゃ。ところで、前来たときは一人だったのかにゃ?」
「ううん、神様の同行者がいたよ?」
音緒のよくわからない例えは置いといて、音緒の質問にはしっかり答えてあげた。
前は大禍津(おおまがつ)と一緒に来たわけだけど、今回は同行していない。
召喚すれば呼び出せるのだけど、音緒が一緒なので呼び出すことは止めている。
あの神様は結構癖が強いんだよねぇ……。
「陰陽師見習いなら神様とくらい契約していてもおかしくはないにゃ。大体は付喪神だと思うけどにゃ」
人間たちと違って、ボクたちには神様が珍しいという気持ちや驚くという感情は存在しない。
なぜなら、人間たちよりも神に近く、いつでもどこでも見かけたりすることができるからだ。
現実って、案外ローファンタジーなんだよ?
「そういえば、付喪神ってここでは見てないなぁ」
「現実ならそこかしこにいるけどにゃ。ここだと人間の方が見つけやすいかもしれないにゃ」
実は付喪神というものは、妖種が扱うものにはそうそう宿ることがない。
人間が扱うものに宿ることが多いのだ。
低級神や精霊といったものではあるんだけど、人間とのほうが相性が良いらしいんだ。
代わりにボクたちは、上級神や最高神との縁が深い。
力の関係や寿命の関係もあるため、人間たちよりも相性が良いのだ。
「そういえば、陰陽術? というのはどんなことができるのかにゃ?」
音緒はボクに新しく加わった陰陽術に興味があるようだ。
実のところ、まだ駆け出しなのでほとんどのことができない。
でも、浄化と一部の式神を使うことはできるのだ。
「まってね。洞窟着いたから中に入ってから見せるよ」
「楽しみにゃ」
プレイヤーたちは結構いるのだけど、不思議とこの辺りにはいなかった。
マップ自体広いから簡単に遭遇したりはしないと思うけど、それはそれで寂しいかもしれない。
****************
「ギャギャ」
「にゃっはー、滅ぶがいいにゃ~! 【疾風刃】」
洞窟の中に入るとさっそくゴブリンが出迎えてくれた。
音緒は嬉々として盗賊の短剣技スキルを使ってゴブリンを切り刻み始めた。
「にゃはは、楽しいにゃ~。ゴブリンいっぱいでお金もいっぱいにゃ。私の特技の一つにドロップ率アップと幸運があるにゃ。見てほしいにゃ、鉄の剣ゲットにゃ~」
音緒は大はしゃぎだ。
この現金な猫はお金に目がないようで、盗賊スキルをフル活用してアイテムとお金を巻き上げている。
というか、ボクが戦ってる時よりも手に入るもの多くない!?
「私が盗賊やってる理由はこれにゃ! 猫又だからって妖術系にはならないのにゃ」
胸を張ってそう言う音緒は本当に楽しそうだった。
うらやまし……くない!
「にゃっはっはっはっはっ、そんな顔しなくても分けてあげるにゃ」
「大好き!」
音緒の言葉に思わずそう言ってしまうボク。
ごめん、ボクもお金は大好きです。
「さぁ、どんどんいくにゃー!!」
音緒は元気よくゴブリンたちを倒しながら奥へと進んでいく。
「ちょっとまってよ、ボクも行くってば」
そんな音緒の後ろをボクは慌てて付いていくのだった。
「スピカにゃんの新しい術も見せてほしいにゃ」
「いいけど、ちょっとまってね」
音緒のお願いにボクは式神の使役準備をする。
準備といっても簡単で、人形(ひとがた)の形代(かたしろ)を持って対象の式神を呼び出すだけ。
強い式神ほど契約するために戦ったりする必要があるけど、ボクの使える式神は誰でも呼び出せる最低級のものだけだ。
今ボクに扱えるのは式神は三種類。
衛士、薬師、そして鍛冶師だ。
人型の式神で、面符をかぶっているのが特徴だ。
「行くよ! 【式神招来・獄門衛士】」
指の間に挟んだ形代を前方の空間に投げつける。
すると空中で静止し、五芒星を描いて人形の形代が人の形を取り始める。
「うにゃ!? 紙が膨れ上がったにゃ!?」
音緒がびっくりして飛び退く。
その間に形代は、狩衣と烏帽子、直垂を着用して腰に刀を差した衛士の姿に変化する。
その不思議な人間の姿は、平安時代の武士のような姿だった。
面符をつけた衛士はボクの前に跪くと、頭を垂れる。
「どうなってるのにゃ? これはなんなのかにゃ?」
「これは最下級の式神で、獄門衛士って言うんだ。地獄門の警備を担当する最下級の神様みたいなものだね。最下級だけあってかなり弱いけど、普通の人間よりは強いよ」
呼び出したのは獄門衛士(ごくもんえいし)だ。
簡単に言うと街の門番みたいなもので、戦闘力はそこそこといった感じだ。
それでも、ゴブリンなんかよりはよっぽど強いんだけどね。
「よし、獄門衛士、戦うよ!」
ボクの言葉を聞いてそっと立ち上がった獄門衛士は、ゴブリンたちに向き直ると、腰の刀を抜き放った。
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