チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 041 炎の迷宮攻略記録5

 


 『炎の迷宮』40層のボス部屋。
 そこには最強の種族と言われる竜種が陣取っていた。
 レッドドラゴン、その力は山を抉り、そのブレスは海を焼くと言われるほどの魔物である。
 しかしその最強種であるレッドドラゴンでさえシローからすれば物足りない相手である。


「とどめだっ!」


 シローが言葉を発した途端、ドラゴンの首は胴体を残し吹き飛ぶ。
 それはシローの【闘神武技とうしんぶぎ】によって練り上げられた気を拳に載せた一撃による破壊活動である。
 迷宮内であり相手がレッドドラゴンだから許されるが、地上で放てば大地を割り町を破壊するほどの威力の一撃である。
 そんな攻撃を受けては最強種であるレッドドラゴンもたまったものではなく、レッドドラゴンの頭部は綺麗さっぱりとこの世から消滅していた。


「うは~ご主人様、容赦ないです~」
「シロー殿の前では我ら2人の力は不要だったな」
「2人が奴の気を引いてくれたからだ」


 シロー1人でも余裕で倒せたが、アズハとジーナへの気遣いの言葉をかけることができるようになったのはシローの成長と言えるだろう。


「さて、41層に進むか」


 休憩をする必要もないほど疲弊をしなかった。
 40層の魔物、そして40層のボスである最強種のレッドドラゴンでもシローを疲弊させる存在ではなかったのだ。


 ボス部屋から41層に移動したシローたちの目の前には緑豊かな森林が広がっていた。
 ここは『炎の迷宮』内であり、これまでは武骨な岩肌やマグマ蠢く灼熱のエリアばかりだった。
 その『炎の迷宮』内でこのような緑豊かな光景が広がっているとは流石のシローたちも思ってはいなかったので驚きの目で森林を眺める3人だった。
 しかしそんな森林エリアにひとたび足を踏み入れるとシローたちは不快な感覚に身を包まれる。


「くっ!?」
「えっ?」
「……瘴気か?」


 不快感に兜の中で顔を歪めるジーナ、そしていつもはゆらゆらと揺れている尻尾を股の間に挟むアズハ。
 共にシローが瘴気と言った不快な力のようなものを感じたのだ。


「気持ち悪いです」
「ああ、これは流石にキツイな」


 ジーナはまだしも【超感覚】のあるアズハは酷い気分であった。
 【超感覚】は索敵能力や地形把握に優れたスキルだが、それだけにアズハの五感を研ぎ澄ますスキルでもあることから不快感にも敏感なのだ。


「ジーナは【闘気】で自身を包み込むようにしてみろ。アズハはこれでどうだ?」
「あ、気分が良くなりました!」
「む~、こうか……違うな……こうか……」


 瘴気への対策を直感的に考え付いたシローは【気】によって自分を包み込み瘴気から自分自身を隔離することに成功した。
 それにより同じような【闘気】を纏うことができるジーナには自分自身で対策をさせ、【気】や【闘気】を身に着けていないアズハにはシローが【複合魔法】によって結界を施したのだった。
 それなら3人を包む結界をと思うだろうが、この結界の維持MPが以外に多く、人外のMP量を誇るシローでもアズハの周囲に結界を施し自分自身は【気】でコーティングした方が楽なのだ。
 普通に結界を張るだけならここまでMPを必要としないが、アズハの動きに合わせて移動し、しかも瘴気が常に結界を侵食しようとすることでそのダメージの修復をするという状況下ではMPの消費量が半端なく多くなっているようだ。


 ジーナが覚えたての【闘気】を身に纏わせるのに暫しの時間を要したが、不慣れながら【闘気】を身に纏うことができた。
 その状態で3人は森林の中に分け入っていくと、木の陰から兎のような魔物が飛び出してきた。
 既にアズハによって警戒が促されていたので奇襲を受けることなくジーナが長剣をひと振りして斬り捨てる。


「ここは41層……か?」


 ジーナは兎の魔物があまりにも弱いことに違和感を感じたのだ。
 長剣から伝わってくる手応えがなさ過ぎて拍子抜けをしている感じだ。
 シローも【解析眼】で兎の魔物のステータスを見たが、その数字が明らかに低いのを確認していた。


「魔物が弱いのは納得いかないが、それでもここが41層なのは間違いない」
「そうか、ならば先に進むのみだな」
「ああ、その通りだ」


 結界に守られているアズハはその特徴であるスピードを生かした戦いができないことからしょんぼりしているが、この程度の魔物しか居ないのであれば問題ないだろうと少しホッとしている。
 そしてそれを感じ取ったシローに窘められる場面もあった。


 森林の中を進むと雑魚魔物ばかりしか出てこなかった。
 そして暫く森林を進むと草原が目の前に現れた。
 そして目を凝らすと分かるほどの距離にポツンと小屋が建っていた。


「あの小屋はあからさま過ぎて怪しいな」


 ジーナの言う通り、視界の先にある小屋は怪しいと思うシローだった。


「む~小屋の中の状況は分からないです」


 アズハの【超感覚】は索敵範囲が広いことも自慢だったが、そんなアズハでも視界の先にギリギリ見える程度の小屋の中の状況を把握することはかなわなかった。


「行ってみれば分かるだろうさ」


 シローの言葉で3人は草原に足を踏み入れるのだった。
 その瞬間と言えば良いだろう、まるでシローたち3人が罠を踏み抜いたかのように魔物が空から現れる。
 その魔物は鷲の上半身とライオンの下半身を持つグリフォンである。
 しかもこのグリフォンは40層のボスであるレッドドラゴンよりも能力が高いのだった。


「グリフォンだ。レッドドラゴンより強いぞ」
「私が行きます!」


 アズハが一歩前に出てグリフォンを迎え撃とうと短剣を両手に構える。
 シローは自分が結界を張っていることをアズハは忘れているようだ、と思うのだった。
 しかし丁度良いのでアズハの高速戦闘に自分の結界が追随できるか試したくもなった。


「危なくなったら介入するからな」
「はい!」


 アズハはシローのその言葉に弓から放たれた矢のように地を蹴ってトップスピードにまで加速する。
 シローはそのアズハの動きに追随させるように結界を張り移動させる。
 アズハの動きは正にスピードスターと言うべき速さを誇っているので、その速さに結界を追随させるだけでもMPがガシガシ削られていく。
 普通に歩いている時でも結構な消費量だったが、戦闘速度のアズハの動きをカバーするのはシローの能力をもってしても簡単ではないことからMPが急速に減っていく。


「シロー殿、大丈夫か?」
「正直、かなりつらいな。しかしアズハの動きに付いて行ければ俺の自信にもなるからな」


 シローは自力でスキルを成長させられない体質なのだが、唯一【闘神武技】だけは努力の結果でレベルが上がるスキルだ。
 その【闘神武技】の能力である【気】を使いつつアズハに魔力で結界を張るのはMP消費だけではなく、【気】の練度を上げるのに適しているのではと考えている。
 本当は魔法も自力でレベルを上げたかったが、体質が邪魔をし現在は難しいことに歯噛みするシローだった。


 アズハはグリフォンを捉えようと【立体機動】を駆使して空を駆ける。
 グリフォンもまさか人間が空を駆けてくるとは思ってもいなかったのか、やや困惑気味の表情を見せる。
 しかし困惑は直ぐに収まる。グリフォンは空の王者であり、空ではドラゴンとさえ互角以上に戦える存在なのだ。
 その自負が人間の如き脆弱な存在に気おされることを許さなかったのだ。


「その程度のスピードでっ!?」


 アズハが更に加速するとグリフォンは視界からアズハが消えたように見えた。
 そして次の瞬間、グリフォンの自慢の翼が綺麗に根元から斬り飛ばされていたのだ。


「キュルゥーーーーーっ!?」


 片翼を失ったグリフォンは錐揉み状態で落下し地面に叩き付けられる。
 何とか死を免れたが最大の特徴である空での機動力をあっという間に奪われたグリフォンは驚愕していた。
 まさか空の王者である自分が人間如きに後れを取った。しかも人間は自分よりも早く空を駆けていたのだ。
 王者の自信、矜持を傷つけられたグリフォンは逆上よりも恐怖を感じてしまった。
 足がすくみ体が動かない。翼を切り飛ばされ地面に激突したダメージもあるが、今のグリフォンはアズハに対する恐怖で体が動かないのだ。


「トドメです!」
「キュリュゥゥゥ……」


 縋るような情けない視線を向けられたアズハは躊躇する。
 一方的な暴力を振るわれる記憶はアズハにもある。
 奴隷となってからは優しい主人に恵まれたが、奴隷になる前は一族から疎まれ謂れのない暴力を振るわれることはざらであった。
 止めてほしくても誰も止めてはくれない、庇ってもくれない、そんな地獄のような日々を生きていた自分と今のグリフォンを重ねるのだった。


「どうした?怪我はしていないだろ?」


 近付いてきたジーナがアズハを気遣う。
 動きを止めるのは戦闘が終わってから、これは戦闘中に気を抜き怪我をしてほしくないとシローが皆に常々言い聞かせていたことだ。


「私には……この子にトドメをさせません」


 シローとジーナは顔を見合わせ、そして消え入りそうな声で鳴くグリフォンを見る。
 そしてアズハの信条を理解したのだった。


「トドメを刺さないのならテイムするしかないな」
「え?……でも……」
「このまま放置はできないだろう」
「ひゃっ!」


 シローは徐にアズハの尻尾を掴むとアズハがビックリするのを無視して【ステータスマイスター】を発動させ【モンスターテイム】を付与するのだった。


「え?あ、有難う御座います!」


 シロー的には尻尾を堪能できて全然OK!的な感じだったが、ジーナはそんなシローをジト目で見ていた。


 

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