【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

首相官邸(1) 第三者視点




 昼を過ぎた辺りで、日本メディアだけでなく海外のメディアまでもが集まってきており、普段ならば、斑であったジャーナリストの数は、会見場を埋め尽くしていた。
 さらに、日本国内のあらゆるテレビ放送局、海外の放送局、ネットラジオから動画サイトまで、それらは多岐に及んでいる。

 それらの様子を、首相官邸――、南第二会議室のモニターで見ていた女性は体を震わせていた。
 ――そう、彼女自身が想像していた事よりとんでもない事になっていることに。

「佐々木さん」
「――は、はい!?」
「大丈夫ですか?」

 日本ダンジョン探索者協会の制服――、黒のセーラー服に身を包んでいた佐々木に声を掛けたのは、日本党所属の山村(やまむら) 一矢(いちや)財務大臣であった。
 彼はグレーのスーツを着こなしており、記者会見場を映しだしている場面を見ても表情一つ変えてはいない。

「わ、私……、こんな大事になるなんて知らなくて――」
「そのお気持ち――、お察し致します。――ですが、何かあった場合には、我々も居りますので堂々としていてください」
「そんな……」

 ほとんど涙目になっている佐々木。
 そして、そんな彼女――の様子を遠くから見ていた日本国第99代内閣総理大臣である夏目(なつめ)一元(かずもと)は、溜息をついたあと画面へと視線を向けた。

 

 ――首相官邸記者会見場。
 大勢のマスメディアが押しかけている場に、日本国の官房長官である時貞守が姿を現す。
 その様子を――、動きを逃すまいとカメラが向けられる。

 檀上に上がった時貞は、記者会見場に集まっているマスメディアを見渡す。
 そして一呼吸置いたところで、司会者から「お願いします」と声が掛けられる。

「閣議の概要について申し上げます。一般案件が決定されました。大臣発言として夏目総理大臣からダンジョン攻略者についての御発言がありました。私からは以上となります」

 時貞官房長官が語り終えると共に、記者の一人が手を上げる。

「はい」
「経産新聞の、金山と申します。昨日、貝塚ダンジョンが一人の人物によって攻略されたと全世界的に流れました。その事について日本国政府としての受け止めと対応をお聞かせください」
「まず貝塚ダンジョンでありますが、本件を含めて世界各地に点在する諸外国との関係性、そこからくるダンジョンの運用・あり方が関わってくるため、日本国政府としては慎重に考え検討していきたいと考えております」

 そこで時貞官房長官は、次に手を上げている記者へと視線を向け――。

「はい」
「ニチレイTVの中村です。今回、世界的に発生した多言語における攻略者の発表と、所有権に関してお伺いします。日本ダンジョン探索者協会から探索者資格を得た際に、探索者が受け取っております資料においてダンジョン内で取得した物については、危険な物ではない限り所有物になると明記されておりますが、リン鉱石という明らかに危険性が無い物についての取り扱いと所有者への取得物の対応について日本国政府の現状の方針というのは改めてどうなっておりますでしょうか?」
「今後の周辺諸国との経済の兼ね合いを踏まえまして現時点では、具体的には決まっていない――、という報告を受けております」
「はい」
「朝村新聞の半田です。昨日、夜天の空に表示されました無制限にリン鉱石が掘り出せるという何者かのメッセージでしたが、貝塚ダンジョンを含む全てのダンジョンは公共施設の扱いだったと、日本ダンジョン探索者協会が配布している資料には書かれています。――と、なると一人の人間がダンジョンを攻略したとしても、そこから得られる富を独り占めするということは、公共の場ということを含めて憲法違反を犯しているのではないでしょうか? そのことについて日本国政府の御意見をお伺いしたい」
「先ほども申し上げたとおり、日本国政府としては周辺諸国との経済連携、国内における個人の尊重、そして公共の施設だったことも踏まえる必要もありまして決まっていない――、そう報告を受けております」



 ――首相官邸3階、南第二会議室。

「……いつも通りの展開ですね。総理――」
「そうだな……。そのおかげと言っていいのか分からないが……」

 そこで、夏目総理は視線を山村財務大臣から佐々木へと向ける。
 視線の先には顔色を真っ青にしている女性が座っているだけで、見ているだけで哀れに見えてきてしまう。
 それが彼の――、夏目一元の思いであった。
 
 だが、今回はマスメディアも佐々木には興味を示していない。
 それが良い事か悪いことは別として――。

「佐々木さん、君がマスメディアの前に出る必要はなさそうだ」

 夏目総理の言葉に、佐々木の体から力が抜けていく。
 会見の場に行く可能性があるかも知れないと聞かされて、ずっと緊張していたからだ。

「それにしても、彼らが説明を求めているのはやはりリン鉱石の採掘権と利権か……。まったく攻略を行った者への労いの言葉が何一つ出てこないとはな……、浅ましいことだ」

 夏目総理の落胆の色を含んだ声が会議室内に静かに響いた。



コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品