【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

激戦! 海ほたる(6)




 食べようとした牛丼がスローモーションのように、牛野屋のテナント――、そのタイルの上に落ちて散らばった。
 それはまるで断末魔の叫びのように感じた。

 俺の牛丼が――、理不尽にも建物の揺れで落ちて殉職した。
 それはまるで2階級特進のようだ。
 いいや――、間違いなく牛丼特盛からメガ丼牛丼を超えてギガ盛り牛丼くらいまに殉職した感じだろう。

「山岸さん! 大丈夫ですか? 山岸さん!」

 誰かが俺の名前を呼んでくる。
 俺は、おぼつかない意識の中、俺の肩を揺すって声をかけてくる人物に視線を向けた。

「山岸さん! しっかりしてください!」
「もしかしたら、先ほどの地震でどこかに頭を打ったのかも……」

 語り掛けてくる江原を見ながら、藤堂が何か分析しているがそれは違う。
 俺の愛する牛丼が地震というどうにもならない自然現象に殺されたことに俺はショックを受けているのだ。

 さすがに自然災害相手にはどうしようもない。

 ――とりあえず立ち直るまで一ヵ月くらい放置しておいてほしいものだ。

「藤堂さん、落ち着いている場合じゃ――」

 俺の肩を掴みながら江原が藤堂に声をかける。

「仕方ないじゃない。山岸さんに何か起きたのかは分からないけど、意識不明な状態に陥っているということは何者か攻撃を仕掛けてきているということよ。だって彼は、魔法が使えるのでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「なら、何者かが攻撃を仕掛けてきたといっても過言ではないわ。一番可能性が高いのは自衛隊だけど……」

 自衛隊?
 どうして建物が揺れたことに自衛隊が関与しているんだ?
 これは、自然現象だろう? 違うのか?

「ま、まさか――。あれは……」

 藤堂が何やら下を見て呟いている。
 その声色は、どこか怯えを含んでいるようにも聞こえた。
 その様子に少しだけ視線を彼女――、藤堂に向ける。

 それと同時にレベル補正で引き上げられていた俺の動体視力が、上空から落ちてくるミサイルをしっかりととらえた。
 ミサイルは、屋上ではなく階下の駐車場に向けて落ちたようで遅れて爆発音が聞こえてくる。
 
 ………………
 …………
 ……

 ――どういうことだ?

 どうしてミサイルが落ちてくる?
 いまのは俺もテレビで見た事がある。

「ま、まさか……」

 俺は立ち上がりながらミサイルが落ちたとされる場所を見るために屋上の縁へと歩いていき下を見る。

「田中……、アイツ――、何をしているんだ?」

 呆然と呟く。
 それと同時に、どうして田中の周辺に無数の死体が転がっているのかと疑問に思い――。
 スキル「神眼」で田中のステータスを無意識の内に確認していた。



 名前 田中(たなか)一郎(いちろう)
 職業 軍人 レムリア帝国所属 四聖魔刃 クーシャン・ベルニカ
 年齢 42歳
 身長 181センチ
 体重 71キログラム
 
 レベル10000

 HP100000/HP100000
 MP98000/MP100000

 体力1192(+)
 敏捷1439(+)
 腕力1220(+)
 魔力1315(+)
 幸運  6(+)
 魅力  21(+) 

 所有ポイント0



 ……レ、レベル1万!?
 どういうことだ?

 俺が驚いている間にも、田中が詠唱らしきものを口づさむ。
 それを見たと同時に俺の視界内に、レッドアラートと共に赤いプレートが表示される。



 ――時の歪みの元凶を確認しました。
 ――敵対として判断。



 ログが、プレートに高速で流れる。
 無数の波形にグラフが俺の意識に反して流れ――。
  
「山岸さん!?」

 心配して手を指し伸ばした彼女――、江原の手を払う。

「――え!?」

 江原だけでなく藤堂も唖然とした表情で俺を見てくるが――。
 俺は、激痛の走る痛みに耐えかねながら、後ろへと後退する。



 ――道標たる幽閉中のスキル「大賢者」に代わりに特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」を起動します。



 声が――、声が天から降ってくる。
 それは頭に響き――、俺の意識を押しつぶそうとしてくる。

 以前、起動した時とは明らかに違う。
 周囲の全てを破壊する為だけの怒りの衝動が体の内側で暴れまわる。

「ぐあああああああ」

 辛うじて意識を保っているだけで、いまの俺には彼女たちを気遣う余裕がない。

「山岸さん、一体どうしたんですか?」
「にげろ……」

 意識が呑まれていくのを――、駐車場で青白い炎を纏った禍津日神を見ながら俺は必至に意識を繋ぎとめる。

「はやくしろ!」
「山岸さん!」

 意識が光に呑まれる瞬間、藤堂が俺を押し倒し抱きしめてくる。
 それと同時に偶然かどうか分からないが唇が触れ合う。

「よく分かりません! だけど……、何となく分かります! その体から立ち上っている黒い炎は! それは! きっとよくないものです!」

 藤堂が何を言っているのか俺には理解できなかったが、何かが割れる音がすると同時に、先ほどまで激痛を感じていた痛みが嘘のように薄らいでいく。

「か、体が……、体が動く……」

 先ほどまで、視界内に表示されていたレッドプレートも今は視界内から消えている。
 何度も指を動かす。
 だが――、さきほどまで違和感――、頭に感じる激痛をまったく感じない。

「藤堂、助かった」

 一瞬だったが良くわからなかった。

 ――だが。

 スキル「大賢者」が幽閉されているということ。 
 そして俺の体を誰かが無理矢理使おうとしたことだけは理解出来た。
 
 立ち上がり田中を見るが、さきほどのようにおかしな表示やログは出てこない。

「山岸さん、大丈夫ですか?」

 江原が泣きそうな表情で俺に話かけてくる。

「ああ、大丈夫だ。それより一体何が起きたんだ?」
「どうやら攻めてきたのはアメリカ軍のようです。それとおそらくあの能力、レムリア帝国の四聖魔刃の一人であるクーシャン・ベルニカに間違いないです。建物が揺れたのも、ミサイルが降って来たのも煮え湯を飲まされ続けていたクーシャン・ベルニカをアメリカ軍が殺そうとしているからだと思います」
「煮え湯?」
「はい。アメリカの第7艦隊はたった一人の人間――、クーシャン・ベルニカにより壊滅しましたから」
「そうか……」

 つまり、最強を自負していた艦隊が一人に壊滅させられたからどんな手段をとってでもというわけか。
 藤堂の話を聞きながら遠くを見る。
 視線の先には袖ケ浦へと通じるアクアラインが見えるが途中がから橋が消えている。
 
 ――となると、橋を落としたのも何等かの意図があると考えた方が合理的だな。 

「藤堂。袖ケ浦に向かうアクアラインの橋が途中から破壊されているが、それも田中を逃さずに殺すためか?」
「――橋をですか?」
「ああ」

 俺の肯定に藤堂が怪訝な表情になる。
 
「これと同じことを戦略戦を見たことがあります」
「戦略戦?」
「はい。中東でダンジョンの支配権を巡って起きた内戦で使われた手口ですが――」

 彼女は口を閉じる。
 言うほど躊躇う問題なのか?

「いい。言ってくれ」
「はい。中東で起きた事件ですが――、独裁者が自分の意図に従わない部族の町に繋がる幹線道路や橋を全て破壊したあと敵対していた者を一斉に処理するため中性子の威力を高めた原爆を使用したそうです。陸上自衛隊の諜報部に所属していた時、資料を見た事がありましたが……、まさか――そんなことをするはずが……、だってここには一般人も大勢いるのに……」
「いや、だからだろうな」

 おそらく口封じ。
 何か起きても情報が洩れなければ、何とでもなるとアメリカは思ったのだろう。
 
 だが理由は分からなくない。
 田中のレベルは1万――、そして青白い炎で遥か彼方からミサイルを打ったイージス艦を一刀の元に撃滅した。
 それだけの力が田中にあるのなら、藤堂が話した作戦が進行している可能性は十分にありうる。

「藤堂、その中性子を利用した原爆の威力はどのくらいなんだ?」
「たしか……有効範囲は低いはずですけど……直径1キロメートル以内の生物は死滅するはずです」
「分かった」

 まったく俺の体を勝手に使おうとした奴もそうだが――。
 俺の牛丼フェアを無茶苦茶にした借りは返させてもらわないとな!




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