【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

避難誘導




「――さて……と」

 あとは、原爆とやらがどこにあるのか見つけないとな。
 スキル「神眼」を常時発動しながら、【海ほたる】の建物の中に入る。
 出来れば、原爆を基軸とした作戦が遂行されていないことが一番望ましいんだが……。
 田中の力と、アメリカの第7艦隊を壊滅させたことが本当なら原爆を使った作戦を展開している可能性はゼロとは言えない。

「まったく、やっかいだな」

 建物の1階に入る。
 すると江原が俺の姿を見て大きく口を開く。

「(……あ、――え、えっと……、や、山岸さんですか?)」
「(よく俺だと分かったな?)」
「(――え? だ、だって……、そんな恰好するのはって山岸さんくらいな……)」

 俺は普段、江原からどういう目で見られているんだ?
 ここは弁明しておく必要があるな。

「(江原、勘違いするなよ? この格好は、俺の身バレを防ぐために変装をしている)」
「(そ、そうなんですか? で、でも……、そんな物……、いったい、いつの間に……、それも魔法ですか?)」
「(まあ、そんなところだ)」
「(なんだか、山岸さんの魔法って普通の人の魔法とは根本的に違いますよね……、特別っぽいというか……)」
「(まあな。特別――、つまりオンリーワンって意味だからな)」
「(あ、はい……)」
「(それより避難の誘導を急いでくれ。俺は、原爆を探してみる)」
「(――え? 山岸さん、一緒に退避した方がいいですよ)」
「(まぁ、それはそうなんだが……)」

 何となく嫌な予感がするんだよな。

「(とにかく、江原は日本ダンジョン探索者協会のキャンペーンガールとして登録はまだ残っているんだろう?)」
「(はい。サイトでは、まだ登録がありましたので……)」
「(そうか、それなら早く人々を誘導してくれ。さすがに他の人がいたら身バレは避けられないからな)」
「(わかりました)」

 江原が、無言で頷く。

「皆さん! 駐車場は安全になりましたので避難してください! お年寄りの方や怪我をされていらっしゃる方がいたら――」
「誰かに手を差し伸べる余裕なんて――、そんな余裕はない!」
「そんなの無理よ!」

 江原の言葉を遮るかのように口々に否定の言葉が出る。

「そんな……」

 ショックを受ける江原の肩に手を置いたあと。

「俺は千葉県の平和を守るピーナッツマン! 怪我をしている人間もすぐに直すことが可能だ!」

 叫びながらアイテムボックスからミドルポーションの無限精製樽を選択。
 アイテムボックスに入れていた、牛丼の弁当が入っている袋だけを指定して袋だけを分離。
 そして袋の中に、ミドルポーションの液体を入れた後、怪我人が集まっている頭上に出現させるように場所を指定。

 数十袋にも及ぶ白のビニール袋が、怪我人たちの頭上に現れると同時に、その全てを――。

「ピーナッツマンヒール!」

 マッハを超える拳を繰り出すことで拳圧により全ての袋を破壊。
 袋の中に入っていた何十リットルものミドルポーションの液体(骨折までの怪我を瞬時に回復させる)を怪我人達の上に降り注がせる。

「痛みが……」
「擦り傷が……」
「骨折していたのに、足が動く……」
「大丈夫? 足とかもう痛くないの?」
「お母さん、痛くない!」

 次々と驚きの声が上がったあと、彼らの視線は俺に集中する。

「「「「「「あのへんな着ぐるみを着ている人は一体!?」」」」」」

 全員の表情が、そう言っているようであった。
 
「俺は正義の味方! ピーナッツマン! 千葉県の平和と農作物を守るヒーローだ!」
「ピーナッツマン? 聞いたことが無いぞ?」
「俺もだ!」
「だが、さっき日本ダンジョン探索者協会に所属しているキャンペーンガールの江原さんと話をしていたぞ」
「つまり、日本ダンジョン探索者協会公認のヒーローってことか?」
「そんなヒーロー聞いたことないぞ?」

 俺の言葉に色々と憶測が飛び交う。
 まぁ、いまは日本ダンジョン探索者協会の名前を借りておこう。

「ふっ、俺の名前はピーナッツマン! 危機に陥った人々を救うために参上した! 日本ダンジョン探索者協会の秘密のヒーローだからネットには載っていない!」

 全員が! 俺の言葉に「なん……だと……」という表情を返してくる。
 もちろん江原に至っては、苦笑いしか浮かべていない。
 まぁアイツらには散々迷惑を掛けられたのだ。
 たまには役に立ってもらわねばな。

「そこの男ども! お年寄りや女性に子供を守り救うのは男の役目だろう! こういう時こそ男を見せずに何とする!」
「男女平等だ……「馬鹿もの!」――ヒッ!?」

 男の言い訳を俺は一括する。

「いいか? よく聞け! 若者よ! 力のある者が弱者を守る! それが男というものだ! そして――」

 俺の言葉に誰もがゴクリとつばを鳴らす。

「その方がカッコいい! そうだろう?」
「……た、たしかに……、俺が間違っていた」

 ガクッと項垂れるサラリーマン風の男。
 俺は、その男に歩み寄る。

「分かればいい。時間がない、君もヒーローにいつかなれる。早く、子供やか弱き女性やお年寄りを助けて退避するんだ」
「はい! ピーナッツマンさん!」

 先ほどとはうって変わって避難がスムーズに進み始める。

「(さすが、山岸さんですね)」
「(まあな)」

 魅力が極端に上がっている影響もあるだろうが、スキル「演武」もアクティブにしてあるからな。
 完全に思考誘導だが、今は仕方ない。
 さて――、原爆をスキル「神眼」を使い探すとしよう。

 

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