【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
はふりの器(8)第三者視点
立て続けに、鈍い音が――、高速道路を走る車内に響き渡る。
富田が運転するリムジンは、速度を上げると木更津ジャンクションで東京方面へと路線変更する。
その際に、速度が出ていたこともあり周囲にスキール音が鳴り響く。
当然、車は一瞬バランスを崩し側面を見せる。
「タイヤを打て」
リムジンを追いかけていた黒塗りの車――、その先頭を走っていた車を運転していた男が拳銃を撃っていた男に命じる。
「ラドゥナ 」
男が射線をタイヤに向けると同時にトリガーを引く。
炸裂音と同時に銃弾は、リムジンのタイヤ側面に直撃するが、そのまま富田が運転するリムジンは東京方面――、京葉道路本線へと乗り換える。
「ちっ! ランフラットタイヤだ」
「なんだと!? 民間人のはずだろう? ロシア大使館からは、そんな情報は降りてきていないぞ?」
「そんなの知らん! こうなれば至近距離から撃つだけだ! 車を横付けしろ」
「わかった」
男が相槌を打つと同時にアクセルを踏み込む。
車は急加速し富田が運転手を務めているリムジンを追従する。
「こちら、オメガ。分隊に告げる。暗殺対象である佐々木望が乗車している車は、タイヤにランフラットが使われている。そのため、車体も防弾の可能性が非常に高い。やむを得ない場合にはRPGの使用を許可する。繰り返す、やむを得ない場合にはRPGの使用を許可する」
男は無線で、10台からなるロシア工作員達が乗る車に命令を飛ばすが、それを聞いていたのはロシア工作員だけではなかった。
「佐々木さん、相手の話し声とか聞こえました?」
【聴覚強化Ⅲ】【身体強化Ⅶ】の魔法で身体能力の底上げをし、後方の車の中に乗っている人間たちの話を聞いていた佐々木に、藤堂が語り掛けるが――。
「良く分からなかったけど……、たぶん英語じゃないと思う」
「そうですか? なら、今回の問題に米軍は関わっては居ないという事ですね」
「そうだけど……、あの人たちって一体なのかしら?」
藤堂と佐々木は答えが出ないまま、車は京葉道路を東京方面に向け爆走する。
「江原様」
「富田さん、どうかしましたか?」
「先ほど、タイヤを撃たれた時に拳銃を見ましたが、少ししか確認は出来ませんでしたが、彼らが所持していたのは恐らくですがマカロフだと思います」
「マカロフ? それは本当なんですか?」
藤堂が、慌てた様子で富田に語りかけるが――。
「はい、これでもミリタリー物を集める趣味ですので間違いはないかと」
「そう……」
富田の返答を聞き藤堂が考え込む。
「たぶんだけど、今のロシアってダンジョンから産出されるモンスターコアが次世代エネルギーになっていて石油が売れていないの。だから、今では外貨の獲得手段は、リン鉱石で賄っていたんだけど……」
そこまで、藤堂が憶測を呟いたところで――。
「それって、望さんが貝塚ダンジョンを攻略したから!?」
「たぶん。無制限にリン鉱石が取れる状態の貝塚ダンジョンが稼働するようになれば、ロシアは外貨を獲得する方法を減らすわ。つまり、ダンジョンの所有権を佐々木さんから奪おうとしているのかもしれない。狂乱の神霊樹さん、所有権を奪うことは可能なの?」
「うむ、可能じゃ」
佐々木の髪の中に隠れている狂乱の神霊樹が、藤堂の問いかけに答える。
「望さんも……、命を狙われる立場になったのね……」
ポツリと呟く江原。
それとは対照的に佐々木は深く溜息を吐く。
「狂乱の神霊樹、あなたが私に色々とスキルを取らせたのは……」
「うむ。こういうことは先史文明時代にもあったのじゃ」
「そういうことは早く言ってよね」
佐々木は額に手を当てると同時に、リムジンの防弾ガラスに罅が入る。
「特注のリムジンがあああああ」
アクセルペダルを踏み込んだまま富田の絶叫の声が車内に響き渡る。
「さて――、マスターよ。敵は、こちらを殺そうとしてきているようじゃ。ここは迎撃がもっとも望ましいと思うがどうじゃな?」
「分かっているわ」
佐々木は立ち上がると同時に、【風魔法Ⅲ】を発動。
風の刃でリムジンの天井を人一人が抜け出られる幅にカットし、上半身だけを車の外へと出す。
そして、【思考加速Ⅲ】【聴覚強化Ⅲ】【身体強化Ⅶ】【嗅覚強化Ⅳ】【視覚強化Ⅹ】の魔法を発動。
「追手の車は11台。構成人数は30人――」
五感をフルに強化したことで敵対する追手の拍動までも感じ取ることが出来る佐々木は、自らに言い聞かせるように敵対する人数を呟くと。
「ファイアーボール!」
頭上に――、5メートルを超える炎の玉を作り出す。
その数は実に20個。
それらを一斉に、追手の車に放つ。
ファイアーボールは、直進してきていた車8台に直撃――、そして車は爆散する。
「残りは3台!」
リムジンを追ってきていた車3台から男達が上半身を乗り出したかと思うと、その手にはRPGと呼ばれるグレネードランチャーが握られていた。
「佐々木さん! あれを撃たれる前に、何とかしてください!」
車内のリアガラスから後方を見ていた藤堂の声が佐々木に届くと同時に――。
「イラプション!」
佐々木の魔法が発動する。
それと同時に、地面から硬化された岩の槍が迫り出す。
岩の槍は、佐々木達を追っていた車のエンジンルームを貫く。
車は爆発炎上し、車内に積まれていたであろう火薬にも引火――、さらなる爆発を引き起こす。
「何とかなったわね」
佐々木の言葉に、富田以外が頷いていた。
そんな彼女たちに富田の「納車されたばかりなのに……、特注の車が……」という声は、風通しのよくなった天井からの風の音にかき消されたのだった。
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