【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(9)第三者視点




 京葉道路を東京方面へ走り続けた富田が運転するリムジンは、松が丘インターチェンジで国道16号線に降りたあと東金街道へと乗り換える。
 そして東金街道から千城台方面へと向かったあと、メゾン杵柄に到着した。

「ようやく到着しました。長い一日でした……」

 車から降りた江原が感慨深く、ここ一週間暮らしているメゾン杵柄へと目を向ける。
 そんな彼女の後から降りてきたのは佐々木。

「とりあえず、先輩の部屋に向かいましょう」

 佐々木は、メゾン杵柄の階段を上がっていく。
 そのあとを江原が「待ってください!」と言いながら追いかけていく。

「まったく……」

 藤堂が溜息交じりに、車から降りると運転席の窓をノックする。

「富田さん、車の修理費につきましては私達というか――、佐々木が払いますので安心してください」
「――そ、そうですか……」

 ホッとした表情を見せる富田を見ながら、藤堂は佐々木の魔法がリムジンに致命的なダメージを与えたんですけどねと心の中で突っ込みを入れつつ、「山岸さんと繋がりがある会社なのだからケアは大事よね」と内心考えていた。

「それで、富田さん」
「何でしょうか?」
「実は車の手配をお願いしたいのですが――」
「…………わ、わかりました。――ですが、すぐにご用意できるのはクラウンになりますが――」
「それで構いません」
「それでは配車の用意をして参りますので――、社に戻ります」
「分かりました。江原にも、そのように伝えておきますので」

 大通りに向かって走っていく富田の車を見送ったあと、藤堂もメゾン杵柄の階段を上がっていき204号室へと向かう。
 部屋前に到着したところで部屋の鍵はすでに開いており、中には江原や佐々木が様々な物を物色していた。

「何か見つかった?」
「いいえ、何も見つかってないです」

 江原が、頭を左右に振りながら藤堂の問いかけに答える。

「そう、佐々木さんは?」
「こっちも何もないわね」

 佐々木は押し入れを見ていくが押し入れに置かれているのは、家電製品の空箱のみ。
 あとはスーツなどの衣類や下着ばかりで、何かの手がかりに繋がるような物は見当たらない。

「何もないですね」

 江原がポツリと呟く。
 それに佐々木も同意するかのように頷くが――。

「おかしいわね」

 室内を調べていた藤堂、唯一人だけが奇妙なことに気が付く。
 それは、元・内閣情報調査室所属だったからこそであったが――。

「何がおかしいんですか?」

 藤堂が漏らした言葉に反応したのは江原。

「よく考えてみて、そして佐々木さんは山岸さんの下着をポケットに入れないの」
「――は、はい」
「まず、人というのは生きている限り、必ず――、どこかしら繋がりがあるものなの」
「繋がり?」
「そう、故郷とかそういう所に繋がりがある証拠みたいなものね」
「それが、パソコンの中にも無いということは――、明らかにおかしいのよ」
「たしかに……」と江原が同意を示す。
「でも、先輩って――、自分のことをあまり話さなかったから……」
「そうよね……。私や江原さんは、そんなに山岸さんとはプライベートでは付き合ったことがないし……。佐々木さんも似たり寄ったりよね?」
「――う……。――そ、そういえば! 以前に、先輩が机の中を見てほしいとか言ってて」
「デスクの中は、もう見たわよね?」

 ――と言いつつ、藤堂がデスクの中を確認していくがデスクの中には特に目新しい物はない。

「あの……、これってお守りでしょうか?」
「そうね」

 デスクの一番上の引き出しに入っていた8寸の木札を江原は取り出す。
 
「えっと……、何て書いてあるか読めないですね」
「ちょっと見せてみて」

 江原から木札を預かると藤堂は文字を見ていく。
 文字自体は墨で草書体で書かれている。

「神堕神社?……、聞いたことがないわね。ちょっと調べてみるわね」

 先ほどまで調べていた山岸のパソコンで藤堂は、木札に書かれている文字を打ち込んでいく。

「上落ち村に存在していた神社みたいだけど……、これって――」
「どうかしたんですか?」

 横からモニターを覗き見た江原は、モニターに表示されている情報を見て固まる。

「これって……」
「上落ち村は、かなり昔に太陽光エネルギー開発を理由に、県会議員の西貝当夜が主導で開発を行っていた村みたいね」
「西貝当夜って、たしか……」
「ええ、政財界に強力なコネクションを持っていて嘗て存在した隣国にも配慮を繰り返していたスパイ疑惑もある大物政治家ね。その彼が、関わっていたのが上落ち村の開発――、そして記事を見る限り地盤整理が、為されて居らず大規模な地滑りが発生。上落ち村の村人300人が全員生き埋めになったみたい」
「――え? それじゃ先輩って……」
「あまり考えたくないけど……。生き残りは一人だったみたいね」
「生き残りって? 山岸さんのことですか?」と江原。

 そんな彼女の視線は、藤堂が動かすカーソルに合わせて下がっていく記事に向けられている。

「生き残りは……、山岸鏡花。唯一人の生存者みたいね」

 

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