【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

顕現! 草薙剣!




 高らかに叫ぶ――、魔法の発動と共に視界内に無数の無色透明なプレートが現れると同時に、中心部には緑色のプレートが開く。



 ――対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」展開……発動シーケンスに入ります。
 ――攻撃落下物体の解析を開始……、解析終了。
 ――攻撃落下物の本体を確認。
 ――地表36000キロメートル――、静止軌道上に存在する攻撃衛星【神の杖】からの攻撃と断定。
 ――現在、稼働中の攻撃衛星【神の杖】は一基。使用されているその数は4……。



 表示される数に、俺は思わず舌打ちをする。
 そんな物が――、自分たちが住んでいる世界の……、上空に無許可に存在していることに――。

「全部、破壊する!」



 ――了解しました。
 ――MPを全て消費します。ご許可を(y/n)



 迷わず全MPを魔法に投入する。



 ――入力値を確認しました。
 ――人々からの信仰心からの要請を受理。
 ――対象者の全MPを対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」に転移――、魔法術式を構築。
 ――発動魔法の威力に耐えられるよう全ステータスを9999まで引き上げ一時的に凍結します。



 膨大なデーターが、計算式が――、緑色のプレートの裏に存在している無色不透明なプレート内に高速で書き込まれていく。
 その速度は、特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」を使えていない俺には見ることは出来なかった。

 ――だが! 以前に発動した時と同じ感覚が体を無意識の内に動かしていく。



 ――空間座標を確認しました。
 ――対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」の顕界を開始します。



 緑色のプレートと同時に、先ほどまで開いていた無数の無色半透明なログが一斉に閉じる。
 ――それと同時に、周囲で吹き上がっていた炎――、建物を包んでいた炎が消え去り、無数の緑色の粒子と化し、右手に集合していく。

「……これは……」

 何が起きているのか推し量る事は出来ない。
 ――だが、緑色の光の粒子は、周囲だけでなく遠く離れた場所からも集まってくる。
 
 それらをスキル「神眼」で視ると、運動エネルギーとだけ表示された。

「まさか……、周囲のエネルギーを取り込んで力にしているのか?」

 俺の疑問に答えるかのように右手に集まっていく緑色の光は、一本の剣を形作っていく。
 それは貝塚ダンジョン内とは比較にならない程の強大な力を内包していることが直観で! 感覚で! 理解出来てしまう。

 柄から剣先までの長さは1メートル30センチ程。
 刀身の色は緑黄色であり、柄は精巧に編まれた金で装飾されているが、以前と違い――、刀身の周りには白金色の雷光が纏われている。

 全ての工程が終わるまで1秒足らずであったが、上空から物体が落下してくるまでの時間は十分であった。
 ステータス9999で固定された事で、常人を遥かに凌駕する人非ざる領域に足を踏み入れた視界が――、視力が――、感覚が――、静止軌道上の衛星【神の杖】から落ちてくる物体を認識する。

 それら――、落下してくる物資ごと――、衛星を斬り裂くため――。

 俺は、対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」の柄を両手で握りしめると同時に腰を落とし居合の構えを取ると同時に上空に向けて剣戟を放つ!

「草薙剣(くさなぎのつるぎ)!」

 裂破の気合と共に放った斬撃は、緑色の極光を纏い天空を貫く。
 地表に落下途中であった物質を素粒子レベルで分解し消滅させ雲を貫き遥か上空――、静止軌道上に鎮座していた全ての【神の杖】と、リンクしていた全ての衛星を一瞬で破壊し消滅。

 一瞬、遅れたあと――、何が起きたか分からない呆然としていた周りの人間は、一定の間隔で落ちてきていた【神の杖】からの攻撃が無い事に、少しずつだが――、確実に気が付き始め……。

「ピーナッツマンが?」
「ピーナッツマンが何とかしてくれたの……か?」

 次々と俺へと視線を向けてくる。
 もちろん右手に携えている対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」にも視線は向けられてくるし、携帯で撮ってくるものもいる。

 よく余裕があるものだ。
 


 ――入力MP、全ての消費を確認しました。
 ――草薙剣(くさなぎのつるぎ)の顕界を解除します。
 ――対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」の起動終了により固定していたステータスを解除します。 



 視界内のプレートにログが流れると同時に、対神格魔法「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」は緑色の光の粒子と化し消え去る。
 魔力を全て消費したことで体を支えきれなくなりふらつくが、何とか踏みとどまる。

「はぁはぁ……。あとは……、これだけの規模の攻撃を仕掛けてきたということは……」

 俺は静止軌道上から物体が落下した方角へと視線を向ける。
 何が起きているのか分からない。

 ――だが、これだけの事をしたのだ。

 必ず落下地点には何かがある。
 それだけは……、その事だけは確信が持てる。

 俺は、崩れ落ちそうになる体に力を入れ上落ち村の方へと向かう。




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