【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

幕間8 四聖魔刃の企み




 ――アメリカ合衆国国防総省の入口付近には、アメリカ合衆国が誇る特殊部隊だけでなく、アメリカ合衆国内のダンジョンで活躍をしているSランク冒険者達が、今か今かと突入の時期を見計らっていた。

「こちら、アーネストだ。これより、建物内に突入を開始する」
「了解しました。クルーガー大佐率いる先遣隊が、レムリア帝国の四聖魔刃のランハルド・ブライドにより全滅しています。くれぐれも細心の注意を払ってとのことです。それと、内部には、四聖魔刃のユーシス・ジェネシスが潜伏している可能性も高いとのことです」
「分かっている」

 特殊部隊グリーンベレーに所属している部隊長のアーネストは短く答えると無線を切る。

「冒険者の諸君、大統領命令だ。建物内部の全ての人間の捕縛をしてもらいたい。それと――、抵抗するようならば射殺をしても構わない――、以上だ!」

 アーネストの命令に、入口前に集まっていたアメリカ合衆国の冒険者たちの間に緊迫した空気が流れる。
 彼ら、冒険者は基本的にダンジョン内の魔物を倒し迷宮を探索し手に入れたアイテムなどをオークションで売って生計を立てている。
 中には数十億もする宝が手に入ることがあり、一攫千金を手にすることが出来る夢のある職業とアメリカ合衆国内では認知されていたが……、実際のところ――、彼ら冒険者は対人戦闘経験があるのかと言えば殆ど無い者ばかりであった。
 
 それでも、高ランク冒険者にもなれば魔法を使える者が出てくる。
 ダンジョン内でしかステータスの恩恵を受けることが出来ない冒険者であったとしても、魔法で身体強化をすれば常人を遥かに凌駕する力を持っているからだ。

 そして、四聖魔刃の二人を相手にするために集められたのはアメリカ合衆国の冒険者の中でも最強の一角を担う者達。

 レッド・ファルコン・ギルドに所属している冒険者たちであった。
 所属している24人のギルドメンバー全員が、レベル600を超えておりギルドマスターに至ってはレベル800を超えている全米でも5本の指に入る実力者揃い。

 そんな彼らは、無言で頷くと、開け放たれた扉から内部へと音を立てずに入っていく。
 
「あの連携にして動き……、我々よりも淀みがない……。さすが、USを代表する最強のギルドの一つ――、R・Fだけはあるな。全員が、魔法を使えるという規格外――、否――、人外と言ってもいい……、彼らなら四聖魔刃を倒すことも容易だろうな」

 アメリカでも、人気の高いレッド・ファルコン・ギルドの動きに、特殊部隊隊長であるアーネストは、感嘆の呟きをしたあと、彼もペンタゴン内を制圧する為に、部隊を指揮しながら建物の中に入っていく。

 そんな男達の様子を、アメリカ国防総省の遥か上空から見下ろしていた男達が二人いた。
 二人は、ランハルドが上空に展開した結界を足場にして立っていた。

「あれが、アメリカ合衆国最強の軍隊と、冒険者か……」

 ポツリと呟いた四聖魔刃のユーシス・ジェネシス。

「ユーシス、あの程度の奴らなら撤退する必要は無かったんじゃないのか?」
「ランハルド、無駄な戦いは、この私の美学に反する。それに――、奴ら程度を殺したところで意味はないだろう? 時間の無駄だ」
「効率重視か?」
「そうではない。これ以上は無意味だと言っているだけだ。それにランハルド、貴様は無駄に目立ちすぎる。それは、我らの悲願成就の妨げになりかねないのだぞ?」
「――ちっ、そもそも! 貴様が! 失敗したのがいけないんだろうが!」
「私のせいにされても困る。作戦が失敗したのは、あのイレギュラーな存在のせいだ」
「イレギュラーな存在?」
「ああ、クーシャン・ベルニカを――、【海ほたる】で、たった一人で倒した例の奴が【神の杖】を……、予備を含めて配置していた軍事衛星4基を全て破壊してくれた」

 ユーシスの言葉に、ランハルドは目を大きく見開く。

「軍事衛星を……、――か? 静止軌道上に存在している衛星を4基ともか?」
「ああ、間違いない。しかも――、……たったの一撃で……だ……」

 ユーシスが顔色一つ変えずに答えていた言葉を聞いていたランハルドは口角を歪ませる。

「ハハハハ、マジかよ……、そいつは、すげえな! 戦ってみてえ」
「主からは許可は下りないはずだ。余計なことをすれば殺されるぞ? おそらく遠距離型の特殊能力を持つ奴だと思うが……」
「――だが、アイツ――、ベルニカの野郎も負けたんだろう? ――って、ことはだ! 近距離も遠距離も出来るってことだ! 久しぶりに歯ごたえのある敵じゃねえか! 名前は、何て言ったか?」
「ピーナッツマンだ」
「ピーナッツマンか。ふざけた名前だが――、強い奴には代わりはないんだろう?」
「そうだが……」
「どこのギルドに所属しているかくらいは調べてあるんだろうな?」
「ギルドではない」
「ギルドじゃない? どこの組織に所属しているんだ?」
「日本ダンジョン探索者協会に籍を置いているようだ。だが、調べたかぎり籍は置いてあるという情報はあるが、中身が誰かまではホワイトハウスの方でも分かってはいないようだ」
「――チッ! ――それじゃ、どうにもならないだろうが!」
「落ち着け。これを見て見ろ」
「何だ? この女は――」
「名前は、モエ・エハラ。どうやら、そいつとピーナッツマンは面識があるようだが――」
「そうか! なら、この女を人質にすれば、ピーナッツマンってやつが出てくるって訳だな!」
「待て! 我らが主は、日本では無暗に殺戮をしないようにと言明しているだろうが!」
「別に、殺戮はするなとは言われたが一人や二人なら何も言われないだろう? それに――、俺よりは劣ると思うが、たまには強い奴と戦わないと、いざと言う時に力を出し切れないからな!」

 ランハルドは、力説すると空中に結界を作り出し上空を駆けるようにして走り、その場から姿を消した。
 その後ろ姿を見たユーシスは深い溜息と共に。

「――あの脳筋が……、クーシャン・ベルニカを倒したという事は、我々と同等の力か、それに近い力を持っているという事にまで頭が回らないのか! ……仕方ない、私も日本に行き、この女――、モエ・エハラと言う人間を人質に取り、ランハルドが戦う場を作らねばならないか……、まったく面倒なこと、この上ない」

 男の呟きは、上空に流れる風により吹き散らされた。




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