【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
指針と会話(3)
「さて、話を戻すが――、藤堂」
「はい。何でしょうか?」
「どうして、お前たちは上落ち村に居たんだ? ギルドチャットログが使えないというだけでは、俺の故郷だった場所までは分からないはずだろう?」
「そうですね……」
神妙な表情で彼女は頷く。
「じつは、山岸さんの家に上がらせて頂きました」
「俺の家に?」
「はい」
「――と、言う事は……」
俺は江原の方へと視線を向ける。
彼女は、陰りのある表情で俺を見てくるが――、それだけで何となくだが理由が分かってしまう。
「つまり、俺の実家が分かったのは家探しをしたからなのか」
「そうなります」
藤堂が即答してくる。
隠しても意味は無いからと理解しているからだろう。
むしろ隠し事をされる方が俺にとってはマイナスと思われるからと判断したからなのかも知れないが……。
「……えっと、山岸さんの家に届いていたお墓の維持の……」
「自徳寺からの手紙を見たのか」
江原の言葉に溜息をつく。
たしかに――、手紙に関しては不用心に置きっぱなしであった。
ただ……、その手紙の内容を見て行動を移せてしまう女性達に……、ただ感嘆たる気持ちしか持てない。
少なくとも俺なら――。
知人が行方不明になったのなら……、警察に任せる。
「はい。それで……、自徳寺のご住職からお話を伺ったところ――、山岸さんのご実家は上落ち村に存在していると伺いました」
「それで、藤堂。住職……、神居(かみい)守鷹(もりたか)さんは、元気にしていたか?」
「はい」
「そうか……」
元気ならそれでいい。
それに神居の爺さんなら俺の実家も知っている。
「あの……、山岸さん……。私からも伺っていいですか?」
「別に構わないが?」
藤堂は、何を聞きたいんだ?
牛丼の作成方法か?
「山岸さんは、私から見ても――、その強さは普通ではありませんでした。少なくともレムリア帝国の四聖魔刃と同格以上の力を持っているように思えますが……、山岸さんはそれだけの力をどうやって手に入れたんですか?」
「……」
何と答えていいものか……。
デスクの中にダンジョンが出来ていてミニチュアな魔物を倒していたらレベルが上がったと言って信じるのか?
いや――、普通は信じない。
「それは言えない」
自分でもよく分かっていない事を言えるわけがない。
そもそも、そんな事を教えて何になるのか。
「そう……、ですか……。それでは、話は変わりますけど……、山岸さんの故郷は地滑りにより村ごと消滅したんですよね?」
「そうだが……」
「それは太陽光発電の斜面工事が原因だったと――」
「よく調べているな」
「はい。そのようにインターネット上には情報が流れていましたので……。それで太陽光発電建設を進めたのは西貝議員とも書かれていました」
彼女は――、藤堂は何が聞きたいんだ?
上落ち村の太陽光発電施設の建設に関わっていたのは当時――、伊東市の市長であった西貝当夜と、東亜ソーラー開発株式会社、そして――、太陽光を日本全体に広めようと政財界に多額の不正資金をバラまいていたクリエイティブバンク、――そして……、情報統制の先鋒を担っていた東京夕日新聞だ。
他にも地方議員が関わっていたのは知っていたが……、それは噂の域は出なかった。
だからこそ、俺は情報を仕入れる為に――、復讐をするために……、夜刀神を止めるために……。
「山岸さん?」
藤堂が、無言になった俺に話かけてくるが――。
記憶が……、良く分からないが絡まっていて整理出来ない。
「大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「……いえ――」
心配そうな視線を彼女は向けてくる。
だけど、どうして俺は……。
――あんなに復讐を誓っていた気持ちと感情が薄れているのか……、その理由が分からなかった。
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