玉虫色の依頼、少女達のストライド
Prologue
もういいかい、を一度減らせば。もういいよ、を待たなければ。――そうしていれば、こんな光景を見る事もなかったのだろうか。
胸元を彩る深紅は少しずつ先へ先へと手を伸ばし、今にも白いワンピースを塗りかえようとしていた。走り寄り首に下げたタオルを押さえつけても、驚く間もなくそれは役立たずの布切れへと姿を変える。救急車、と呟きそれが叫びに変わるまで、何度も繰り返し譫言のように発し続けた。近付いてくる足音を聞きながら、血で染まるタオルを投げ捨て、カーテンを引きちぎった。
屋根裏部屋の真ん中。たった八歳の少女、朝陽の最期を、僕は確かに感じていた。
窓の向こう、くぐもった救急車のサイレンと共に彼女が遠のいていく。もうあの笑顔には会えないだろう。どれほどの手を尽くしても。
傍に居てやりたかった。あの言葉をこんな形で真実にさせたくなかった。何もできなくとも、ただその手を握っていてやりたかった。
それでもこの子を放って行く事はできない。全身で震えながら一歩も動けなくなってしまった、彼女と同じ顔をしたこの子のために、ここに残る事を決めた。
「……満月ちゃん、皆のところに戻ろうか」
もう見えなくなった救急車の姿を見つめながら、僕のシャツの裾をぎゅっと握る。未だ動けない少女を僕はそっと抱き上げて、部屋に向かって歩き出した。
僕は“探し物探偵”だ。しかし今の僕を突き動かすのは、探し物があるからではない。
ただ少女とした約束を、守りたいからだ。
“探し物探偵”の名に賭けて、彼女が遺した依頼の意味を探すことにしよう。
 
胸元を彩る深紅は少しずつ先へ先へと手を伸ばし、今にも白いワンピースを塗りかえようとしていた。走り寄り首に下げたタオルを押さえつけても、驚く間もなくそれは役立たずの布切れへと姿を変える。救急車、と呟きそれが叫びに変わるまで、何度も繰り返し譫言のように発し続けた。近付いてくる足音を聞きながら、血で染まるタオルを投げ捨て、カーテンを引きちぎった。
屋根裏部屋の真ん中。たった八歳の少女、朝陽の最期を、僕は確かに感じていた。
窓の向こう、くぐもった救急車のサイレンと共に彼女が遠のいていく。もうあの笑顔には会えないだろう。どれほどの手を尽くしても。
傍に居てやりたかった。あの言葉をこんな形で真実にさせたくなかった。何もできなくとも、ただその手を握っていてやりたかった。
それでもこの子を放って行く事はできない。全身で震えながら一歩も動けなくなってしまった、彼女と同じ顔をしたこの子のために、ここに残る事を決めた。
「……満月ちゃん、皆のところに戻ろうか」
もう見えなくなった救急車の姿を見つめながら、僕のシャツの裾をぎゅっと握る。未だ動けない少女を僕はそっと抱き上げて、部屋に向かって歩き出した。
僕は“探し物探偵”だ。しかし今の僕を突き動かすのは、探し物があるからではない。
ただ少女とした約束を、守りたいからだ。
“探し物探偵”の名に賭けて、彼女が遺した依頼の意味を探すことにしよう。
 
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