転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第二十四話 ドリントルの歓迎会3(12/4修正)
この国のほとんどの街では、領主邸と代官邸があり、領主が王都に向かったときは、代官が代わりに街を治めている。
領主邸に向かう中、街並みを眺めながら歩いていくと、冒険者の街ということもあり、武器や防具、魔道具等色々な店があった。
途中、美味しそうな匂いにつられて一軒の屋台に寄った。
「おじさん、いい匂いだねっ! 串焼き一本ちょうだい!」
串焼きを焼いているおじさんは、子供の冒険者に見えるカインに気づき、笑顔で話しかける。
「お! わかってくれるね、坊主。一本銅貨三枚だ。今、焼きたてをやるから、少し待ってろよ」
串焼きをくるくると回しながら焼いたあと、再度タレにつけてまた焼き始めた。
「ほらよ、焼きたてはうまいぞ」
カインは焼きたての串焼きをもらい、銅貨を払う。
そしてそのまま串焼きにかぶりつく。
「あちちっ。でも美味しい!!」
子供の冒険者に見えるカインが、食べている姿を見て、屋台の親父も笑顔になっていた。
「そういえば、この街ってどうなの? 今日きたばっかりなんだ」
「なんだ、今日きたばかりなのか? この街は冒険者が多いからな。冒険者が狩ってくる魔物の素材を加工して売る店が多いかな。この肉も、冒険者たちが狩ってきた、オークの肉の串焼きだぞ」
「そうなんだ。オークの肉も美味しいね。このタレがよく染み込んでるよ。さっきもギルドに顔を出したら、絡まれたしあんまり治安がいいとは思えないからさ」
「この街の領主は代々、ギルドの圧力で逃げていっちまうからな。それだけ冒険者が多いしな、代官が治めているけど最低限のことしかできない。ギルドマスターは陽気な人だからいいんだが、裏で動いているサブギルドマスターには気を付けろよ? あ、俺から聞いたなんか絶対に言うなよ」
「ふーん。サブギルドマスターね! 気をつけるようにするよ。おじさんありがとう!」
「また買いに来いよっ!」
カインは屋台の親父に手を振って、領主邸に向かって歩いていく。
領主邸は中央広場から北に行った方にあった。
領主邸の門には、衛兵が二人警備をしていた。領主邸の門に近づくと衛兵が話しかけてきた。
「冒険者のようだが、ここは領主邸だ。代官様しかおられない。何もなければ立ち去るが良い」
「今日、代官殿はいますかね、この度、この街の領主となったカイン・フォード・シルフォード・ドリントルがきたと伝えて下さい」
カインはアイテムボックスから出しておいた、就任証明書を出し衛兵に渡した。
「こ、これは領主様でしたか、すいません、すぐにエライブ様にお伝えしてきます」
衛兵の一人は、カインに就任証明書を返し、代官を呼びに代官邸に入っていく。
カインはもう一人の衛兵に、領主邸のホールまで案内された。
すぐに隣の代官邸からは、先ほどの衛兵と、もう一人の文官に見える代官らしき人がこちらに向かってきた。
「これはこれは、カイン子爵様、お待たせして申し訳ありません。この街の代官をしておりますエライブと申します。王城より通達は来ております。それにしても早いおつきで驚きました。まずは、中でお休みください」
エライブは四十代で、少し小太りな人族だ。頭は少し薄く、口ヒゲを生やしている。貴族ではなく平民から代官になった公務員みたいなものだ。
ドリントルの代官であるエライブに案内され、領主邸の応接室にきた。ソファーに座り対面にエライブが座った。
「いきなりきてすいません。冒険者としても登録しているので、この街が王都で聞いた通りなのか、確かめにきました。門でも冒険者として入っていますので」
カインは冒険者の格好をしていた。他の人が見れば、登録したばかりの新人冒険者に見える。まさか領主と思う人はいなかった。
「この街のことについては、聞いているとは思いますが、代官として申し訳なく思っております。ギルドの冒険者たちの人数は千人を超えており、ギルドマスターを筆頭に行政の言うことを聞くことはありません。ギルドから税収を収めることを拒否されているので、ここの住民たちからの税収のみで運営しております。だから赤字運営となっており、直轄地ということで、今まで国からの補助金でなんとかしておりました」
申し訳なさそうにエライブが答えた。他の街では、依頼者が冒険者ギルドに依頼する場合には、税金とギルド運営に関する手数料が引かれることが一般的だ。それにより、街に冒険者ギルドを配置するのを領主が許可しているのだ。千人以上の冒険者たちが税を納めてないということは、この街では問題だと思う。やはりギルドが行政とうまくいってないことがよくわかった。
「ここに来る前に色々と見て回りましたが、街の住民は問題なく生活できているように思えましたが……」
先ほどの串焼き屋といい、武器屋や防具屋、魔道具屋などは、それなりに繁盛しているように見えた。
「冒険者たちはあまり金を貯めないですからね。いつ死ぬかわからない命ですから、依頼料をもらったら街で消費してくれるのはありがたいのですが……。いつも酒場では揉め事が起きて、衛兵が駆けつけています」
「まずは、この街の普通の状態にしないといけませんね。明日までいますので、まずは冒険者ギルドと会談をしましょう。新しく領主となったので、挨拶をしておく必要もありますし」
「それでは、明日会談を行うために、領主邸までくるように使いのものを出します。本日は、こちらにお泊りになりますか?」
「いえ、急な訪問でしたし、今日は街の宿屋に泊まろうと思います。もう少し街並みを見たいですし」
カインとしては、もう少し街並みを実際に自分の目で見て確かめたかった。
「それでは、明日の昼食後に領主邸まで来るよう手配をいたします。こちらで昼食のご用意はしておきますので、昼前までにお起こしいただければありがたいです」
エライブは終始申し訳なさそうに答える。あのギルドでは仕方ないかとカインは思った。
「あ、カイン様、街中を散策するとのことですが、南門付近から裏に入っていくと、スラム街がありますので、そこはご注意ください。なるべくそちらには近づかないように……」
スラム街があることにカインは驚いた。
「この人数の街で、スラム街があるのですか……」
「はい、冒険者崩れだったり、亡くなった冒険者たちの子供などが集まってしまって……細かいことは、私もわかっておりません」
「わかりました、そちらには近づかないように気をつけます。ではまた明日きますね」
カインはエライブに返事をし、領主邸を出て、西門のほうへ歩きだす。色々な店を覗きながら歩いて行った。昼食時間には少し早かったが、カインは美味しそうな匂いを出している店に入ってみた。
「はいっ! いらっしゃい! おとまりですか? それともしょくじ?」
迎えてくれたのは、カインより年下に見える猫耳の女の子だった。
ワンピースの上からエプロンをして、後ろからは尻尾がユラユラと揺れている。まだ、六,七歳くらいに見え、頭の上から猫耳が立っている。
クリクリとした可愛い目で、こちらを覗き込んでくる。
「とりあえず、飯かな?」
「わかりました。こちらへどうぞ」
猫耳の子の案内でカウンター席に座る。厨房から匂ってくる、食欲を唆る匂いに、カインの意識を厨房に向けた。
「ひがわりでいいですか。きょうはトロールのステーキです。ひがわりは銅貨九枚です。飲み物をつけると大銅貨一枚になるよ」
「うん。それでいいよ。あと果実ジュースもつけて」
「わかりましたー!」
猫耳娘は厨房のほうへ駆けていった。
「おとーさん! ひがわりひとつ!」
「はーい!」
厨房の中から、父親らしき声が聞こえた。
食事を出るまで、カインはこの街について考えてみた。
「冒険者ギルドは明日会うからいいだろ。あと、さっき聞いたスラムか……。孤児に関しては孤児院みたいなのを作ってなんとかするか。あとは冒険者ばかりだから、引退した冒険者を、一般の仕事への斡旋か……」
色々と考えていると、いつの間にか食事が出てきた。
「おまたせー!」
猫耳娘がお盆に食事を乗せて、持ってきてくれる。
「ありがとう、手伝いしているのかい? えらいね」
その猫耳娘から、料理の入ったお盆をもらう。
「うん! 今、おかーさんが病気で寝込んでいるから、わたしが手伝いしてるのっ!」
「そっか……。教会にいってないのかい?」
カインはその娘に聞いてみた。
途端に、その猫耳娘が耳を倒してシュンとしてしまった。
「教会……。行かせたいけど、そんなお金ないし……」
教会で回復魔法をかけてもらえることは知っていたが、お布施程度で問題なかったとカインは思っていた。
「そっか……。回復魔法使えるから、治してあげようか」
「えっ!? ほんと!? おとーさんに聞いてくる!」
猫耳娘は走って厨房に行ってしまった。
「とりあえず、食べるか……」
出された食事に手をつける。トロールの肉は適度に脂身がのっていて、とても美味しかった。つけているタレがさっぱりとしてこの肉と合っている。一緒に出されたスープも、野菜のダシが染み出ていて、とても美味しかった。
「うんっ! 美味しい!」
食事をしていると、猫耳娘に連れられたお父さんらしき人が出てきた。
父親も猫獣人らしく、三十代に見える。温和な顔をし、中肉中背でエプロンをしたままホールまで出てきた。
「ここの食事、美味しいですねっ!」
カインは素直にそう言う。猫耳父は嬉しそうな顔をして答えた。
「そう言ってくれると、料理をしている担当として、とてもありがたいです。それにしても娘に聞きましたが回復魔法を使えるということで……。お礼はそこまでは出せませんが、是非ともお願いします」
「わかりました。食べ終わったらやりましょう」
「ありがとうございます」
猫耳父は必死に頭を下げてお礼を言った。
食事を済ませて、料金を払い、そのまま奥の住居スペースにカインは案内された。
「それにしても、教会での回復はそんなに高いのですか?」
カインは知らなかったので猫耳父に聞いてみた。
「ここの街の教会では、ヒール一回で大銀貨一枚です。ハイヒールは金貨一枚になります」
ヒール一回で日本円にすると十万円で、ハイヒールについては、一回百万円ということにカインは驚いた。
「たかっ!!! 王都でもそんなにしませんよ。さすがにそれはおかしい……」
案内された先では、母親らしき人が布団に入って寝ていた。同じ猫獣人だが、顔色を見てもあまり良さそうに見えなかった。長い間、病床に伏していたようで、やせ細っている。猫耳娘は布団から出ていた母の手をギュっと握っている。
「妻のヒミカです。よろしくお願いします」
猫耳父は申し訳なさそうな顔をしている。
寝ている母親のすぐ横に座り、カインは手をかざした。
『ハイヒール』
その瞬間に、寝ている母親は白い光に包まれた。
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