転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第二十七話 ドリントルの歓迎会6

 リキセツとベティの二人は口を開いたままフリーズして動く様子はなかった。
 その様子を見たエライブが意味もわからず、ギルドの代表者たちと、カインの顔を見比べている。
 そして、やっとギルドマスターのリキセツが動き始めた。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。あなたはアイアンの冒険者ではないのか、いや、ないのですか?」

 リキセツも驚いていたようで、挙動不審になっている。昨日あれだけの殺気を受けたこともあり、声がうわずっている。ベティに関しては、昨日の新人冒険者だとわかった後は、顔を青ざめさせて震えていた。

「うん、冒険者で間違えないですよ? ほら、ギルド証も持っているし」

 カインは、懐から金色ゴールドに輝くギルドカードを出して、テーブルの上に置いた。

「え? え? Aランク!? ま、まさかそんな……」

 金色に輝くギルドカードを見て、サブマスのベティも驚いた。
 もちろん、ただの子供の貴族だと思っていたエライブも驚いていた。

「うん、王都でエディンさんからもらってるからね。アイアンカードからすぐに金色ゴールドに変えられたんだよね」

「そ、そんなばかな……」

 リキセツも驚いている。

「あ、そういえば王都のギルドマスターのエディンさんから、手紙を預かっているよ」

 カインは用意しておいた懐から手紙をテーブルに置いた。

「拝見させていただきます……」

 リキセツは封蝋でギルド本部からの手紙と確認し、それを開封した。そして中に書いてある手紙を読み始めた。

『ドリントル支部ギルドマスターリキセツ殿。
 久しく会ってないけど元気にしているかな? 今回、その街の領主になったカイン子爵なんだけど、はっきり言ってバケモノだから。僕の妹のティファーナを知っているよね? 今、近衛騎士団長をやっている妹のこと。カイン子爵は妹より遥かに強いから。多分この国で誰も敵わないかもしれないから、言葉には十分気をつけてね。普通に接すれば大丈夫だと思うけど、怒らせたらギルドというか街まで全て破壊するかもしれないよ? 陛下も、国ごと滅ぼさないようにって本人に確認していたらしいから。本当に注意してね? ちなみにカイン子爵の王都の邸宅には、五歳の頃に倒したSS級のレッドドラゴンが飾られているくらいだからね。次会うときに五体満足で会えることを期待してます。あ、ホントに危険だからね? 冗談じゃないよ? 王都ギルドマスター エディン』

 読み終わったリキセツは震えていた。そして、横から覗いて一緒に読んでいたベティは、顔が真っ青から真っ白になっていた。

「エディンさんから渡されただけだから、何が書いてあるか知らないんだけど、って……二人とも顔色悪いけど大丈夫ですか?」

 カインは手紙の中身を知らないから、笑顔で話しかける。

「もしよろしければ、その手紙を拝見させてもらってもよろしいでしょうか……」

 手紙を読んだ二人の表情が、あまりにもひどいので、エライブは気になった。
 リキセツは無言でそのまま手紙をエライブに渡した。
 そして、エライブは手紙を受け取り読み始めた。
 内容を読み進めるにつれ、エライブも顔が真っ青になっていった。しかも細かく震えている。
 エライブも表情を変えたことで、カインも何が書いてあるか気になった。
 エライブから、手紙を受け取り、書いてある内容を読んでみた。
 段々と、カインの手紙を持っている手がピクピクと震えていく。そして無言で手紙をテーブルに置いた。

「「「「……」」」」

 全員が無言だった。その無言が数分続いた。

 いきなり、リキセツが立ち上がった。
 そして、カインに向かって土下座をした。
 カインもエライブも驚いた。もちろん隣に座っているベティもだ。

「この度は、ギルドがご迷惑おかけして申し訳ございません。昨日のことは冒険者及びここにいるベティには責任はございません。わたしが全て責任をとります。だから、平にご容赦ください。わたしのことなら好きにしてもらって構いません。だからどうぞギルドの冒険者のことはお許しください」

 リキセツは頭を床につけ必死に謝ってくる。
 カインは、リキセツの男気を感じて、笑顔になった。

「リキセツ殿、頭を上げてください。あなたの気持ちは受け取りました。僕としても何もするつもりはありません。昨日、訓練場を壊してしまいましたしね……。まずはそちらに座ってください。このままでは話もできません」

 カインの言葉にリキセツは頷いて、ソファーに座り直す。

「ただ、今の状態はまずいので、この街の悪いところを直していくつもりです。税に関しても今までほとんど払っていない状態でした。納税より国からの委託金のほうが多い状態です。これからは収支を出してもらって、それに合った税金を払ってもらいます。昨日訓練場を壊した分につきましては、僕の私財から少し補助金をだしましょう。全額とはいきませんが、それはそちらの責任もあるということで了承してください」

 カインは今後のことについて次々と説明をしていった。

「はい……わかりました。十歳で領主様になるという意味がわかるような気がします……」

 リキセツが力なく頷く。

「僕は今日で、王都へ戻るのでまた来週来ます。その時にもう少し打ち合わせしましょう」

 カインの説明に対し、リキセツが疑問に思った。

「えっ。王都へはどうして戻るのですか? ここから二日、往復四日ですよ? それならドリントルにいたほうがよろしいのでは?」

「あ、僕はこれでも王立学園の一年生なのです。学園に行かないと文句を言われますので。言われる相手が相手なので行かないといけません」

「……そういえば、まだ十歳なのですよね。話しているとつい忘れてしまいます。ドリントルについたときに、ご連絡いただければ領主邸にお伺いいたします」

「わかりました。それではこれからよろしくお願いしますね」

 カインは立ち上がり、右手をリキセツに出す。
 リキセツは自分より幾分も小さな手を、大きな両手で包み込むように握手をした。

「はい、もちろんです。これからは気軽にギルドに遊びに来てください」

 リキセツは最後に頭を下げて、サブマスのベティと一緒に部屋を出て行った。
 ベティは何かを考えているようで、何も話さず終始無言だったが、カインは気にしなかった。
 そして残された部屋で、カインとエライブの二人だけになった。

「来週また来ますので、その時までよろしくお願いしますね。僕はそろそろ王都に帰ります」
「カイン様、承りました。馬車などの用意はどうしましょうか」
「あーー、それはいいよ。自分で来れるから。そこは気にしないで」

 カインは話を終わらせると、執務室に戻って冒険者の服装に着替えたあと、エライブや文官たちに挨拶をし、領主邸を出た。

「一応街の外まではこのまま出るかな……」

 そのまま『転移』を使ってもよかったが、門での出入りを衛兵が確認していると問題になる可能性もあったので、一度街から出ることにした。
 カインはこの前買った串焼き屋の親父のところで串焼きを買い、のんびりと王都側の東門へと向かった。外壁の門を抜け道を少し歩いてから端の他から見えないところに外れ魔法で一気に帰った。

 一瞬にして視界が変わってくる。
 先ほどまではドリントルを出た田舎道だったが、目の前に広がっているのは王都の雄大な城壁が視界に入ってくる。
 カインはのんびりと散歩気分で、王都への一般向けの入場門に並んだ。
 王都には、一般用の門と貴族用の門が設けられている。貴族の乗った馬車をスムーズに通すためだ。
 貴族の馬車もそれなりに出入りが多く、並んでる間も馬車が出入りしていた。
 そして、一台の馬車がカインを通り過ぎたところで止まった。
 馬車には、見覚えがある紋章がついていた。忘れるはずもない、それはシルフォード家の紋章なのだから。
 護衛の馬に乗った騎士が二人、こちらに向かって来る。
 冒険者の振りして入門しようかと思ったけど無駄だった。

「カイン子爵様、なぜ一般門に並んでおられるのですか、辺境伯様がこちらの馬車に乗るようにと」

 一緒に並んでいた冒険者の子供という認識だった周りの人は、貴族とわかったことにより人がカインから離れていく。その様子にため息をつき騎士に返事をした。

「父上の馬車だったのですね。……そちらに乗ります」

 一般向けの人の列から抜け出し、ガルムの馬車に向かった。
 先に馬車から、下りて出迎えてくれたのはセバスだった。

「ご無沙汰しております。カイン子爵様、お噂はグラシア領まで届いております。中でガルム様がお待ちになっておりますので、どうぞお乗りください」

「久しぶりだね、セバス。遠慮なく乗せてもらうよ」

 セバスに軽く挨拶をして、ガルムの馬車へ乗った。

「父上、ご無沙汰しております」

 カインはガルムに頭を下げ、ガルムの対面に座った。

「カインよ、久しぶりだな。子爵になったと聞いて驚いたが、まさかあのドリントルの領主とはな、陛下もやりよるわ。それにしても冒険者の格好してどこに行ってたんだ?」

 ガルムには転移魔法のことはすでに教えているので、そのままドリントル領に行ってたと説明した。最初にこの魔法を見せたときは、腰を抜かして驚いていたなと思い出しながら。

「あの街の冒険者ギルドは強いからな……ってカインにしたら大したことないか」

 ガルムは苦笑いしながら答えた。

「それより父上、内政ができる人を紹介してもらえませんかね。あそこの街は赤字運営なので、これから色々と変えていきたいと思っているので」

 世界事典ワールドディクショナリィを使えば、内政についても調べられるだろうが、学生と領主を兼務していることもあり、そこまでの余裕はなかった。
 カインはドリントルの財政状況を、素直に父に話した。辺境伯領にはいくつもの街があり、特にガルムの善政のおかげで、各街は栄えている印象だった。辺境伯領から人を出してもらえれば、カインとしてはありがたかった。
 ガルムは少し悩んでいたが、思いついたように手を叩いた。

「いるぞ、ちょうどいいのが」
「本当ですかっ!? 是非紹介してください」
「今グラシア領にいるから呼び寄せておく。一ヶ月以内には、王都に来るようにしておく」
「父上、ありがとうございます」

 内政ができる人が来ることが決まったことにより、カインは街づくりに思いを寄せながら馬車で家まで送ってもらった。


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コメント

  • にせまんじゅう

    これ一つの国を作っちゃんじゃない?

    0
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