転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第二十八話 ドリントルの暴れん坊領主1

 ガルムの馬車で家まで送られてきたことにより、カイン邸の門番は驚いていた。

「おかえりなさいませ、カイン子爵様」
「ただいま」

 門番の二人に手を振りながら中に入っていく。
 扉を開け、中に入るとシルビアが待っていた。

「お帰りなさいませ、カイン様、今日帰ってくるのか心配でしたよ」
「学園行かないと、テレスとシルクから文句を言われるからね」
「たしかに心配されて、毎日こられますからね」

 シルビアの答えに無言でカインは頷いた。
 部屋に入り、革鎧を脱ぎ平服に着替える。
 その日は屋敷で食事を済ませゆっくりと休んだ。


 部屋に差し込む日の光を浴びて目が覚める。

「今日からまた学園か、頑張らないとな」

 食事を食べいつものように学園に登校していく。
 授業を受け、テレスやシルクと話しをしながら日々が過ぎていく。

 そしてまた明日から二日間の休みとなった。学校から帰ってきてすぐに、冒険者の格好に着替え、旅装を整える。

「コラン、シルビア、またドリントルの街に行ってくるので家のことよろしくね」

 カインの言葉にコランとシルビアの二人が頷く。

「いってらっしゃいませ。そのうち私たちもまた連れて行ってくださいね!」
「家のことは、私たちで管理しておりますので安心してください」

 二人に挨拶をして、その場で『転移』を使った。

 二人だけには、転移魔法を使えることを、先週打ち明けたのだ。さすがにいちいち王都の門を出ていたのでは面倒なこともあり、屋敷から直接ドリントルに飛べることを知った二人は驚いていた。
 試しに、二人の肩に手を当てて『転移』を使ったら、問題なく使えたので、一瞬だけドリントルに連れて行ったのだ。一瞬で視界が変わったことに驚き、二日の距離を一瞬で転移したことに、さらに二人は驚いた。シルビアに関しては目を輝かせ、もっと色々なところに連れて行ってほしそうだったが、さすがに多用するのは断った。
 転移魔法に関しては、空間魔法の素養があり、尚且つ、相当な修行が必要とされており、伝説級の魔法となっているため、現在使用できる魔導師は確認できていないとのことだ。

 視界は一瞬で変わり、ドリントルの街の入口近くに転移する。

「一週間ぶりだな。今週も色々と調べないといけないけど、もう夕方近いし明日からだな。夕飯はっと……たまにはエナクの顔でも見に行くか」

 門でギルドカードを提示しそのまま門を潜り、猫の和み亭に向かった。
 宿の扉を中に入っていくと、相変わらずエナクがホールを動き回っていた。

「いらっしゃーあ、あっ! お兄ちゃん! いらっしゃい」

 エナクはカインに気づいて、お客さんにプレートを出したあとにすぐにこっちにきた。

「カインお兄ちゃん久しぶり! 今日は、ごはん? とまり?」

 エナクはおしりの方から出ている尻尾が、ゆっくりと振られている。

「今日は泊まらせてもらうよ。夕飯もお願いね」

「はーい! この前の部屋空いてるからそこに泊まっていいよ。あれからお母さんも元気なんだ! ハイ、301号室の鍵ね。本当は特別室だから銀貨二枚だけど、空いてるからお代は大銅貨六枚でいいよっ」

 カインはその場で大銅貨を払い、鍵を受け取った。

「すぐに夕飯できるから、着替えたら降りてきてね」

 エナクはお代を金庫にしまうと、そのまま手伝いに戻っていった。
 夕暮れときもあり忙しそうにしていたので、カインはそのまま階段を上り、前回泊まった部屋に入った。荷物は全てアイテムボックスに入っているので、着替えただけだ。平服に着替えた後、部屋を出て食堂に向かった。

「あ、カインお兄ちゃん、もう用意できてるよ! お父さん、お母さん、カインお兄ちゃん来たよー?」

 エナクが呼んだこともあり、厨房から二人が出てきた。

「いやー、カイン様また来てくれてありがとうございます。カイン様のおかげでヒミカもこのとおりすっかり良くなりました」
「カイン様、ありがとうございます。あれから具合も完全に良くなったので、こうしてお店をがんばれてます」

 ダッシュとヒミカが厨房から出てお礼を言いに来てくれた。

「ヒミカさんも具合が良くなってよかったですね。そのうち教会も少しよくなるといいんですが……」

 カインはまだ行っていない教会のことを考えながら返事をした。

「そういえば、先週新しい領主様が就任されたと聞きました。今までの領主様では何も変わらなかったのですが、今回、少しは良くなるといいんだけどな……」

 ダッシュの話にカインは苦笑いした。さすがにこの場で「領主です」とは言えなかった。

「そうですね……。きっと変わってくれるといいですね……」

 カインにはそう答えるのが精一杯だった。

「今日は、いいミノタウロスの肉が入ったんですよ。なかなかBランクの魔物の肉は手に入らないので、ステーキを焼きますね。口の中でトロけるほど美味い絶品ですよっ!」

 ダッシュはカインが来たことで喜んで厨房に戻っていった。

「あらあら、あなたったら……。カイン様、もう少しで出来ますから少し待っててくださいね」

 一言だけ言ってヒミカも厨房へ戻っていった。
 カインはカウンターに座り、先に出されたフルーツジュースを飲んでいた。
 エナクは冒険者が数人いることもあり、ホールを一生懸命回って飲み物を出している。
 その姿を遠目で見ながら、時間を過ごしていた。

「カイン様お待たせしました。ミノタウロスのステーキです」

 ダッシュがわざわざ持ってきてくれた。カインの目の前に置かれたステーキは肉厚があり、食欲をそそるソースがかけられていることで、その匂いがカインの鼻をくすぐった。

「ありがとうございます。さっそくいただきますね」

 カインはナイフを一口大の大きさに切り分けて、フォークで刺し肉を口に放り込む。噛めば噛むほど肉汁が湧き出て口の中が旨さでいっぱいになった。

「これは美味いっ!!」

 パンを肉汁のたっぷり入ったソースにつけて食べても格別だった。
 夢中で食べていると、また四人組の少し柄の悪い冒険者らしき客が入ってきた。

「おぅ、邪魔するぜっ」

 ずかずかと店に入っていき、自分の思ったところのテーブルを囲んだ。

「おい、とりあえずエール四つもってこい」

 すでに冒険者たちは少し酔っているようだった。
 エナクは「ハイッ」って返事をし、厨房にオーダーしていた。
 そして両手に一つずつの二つのジョッキを持ってテーブルに運んでいた。
 二往復してやっとジョッキを置くことができたのだが、それでも酔った冒険者たちには遅かったと思われたようだった。

「おせーよ」

 そう言って、酔っ払い冒険者の一人が、エナクの後ろから蹴りをいれた。

「痛っ」

 エナクはまだ小さいこともあり、勢いよく転んだ。

「ぎゃははは、このガキ転んでるぜ」
「足どっかに引っかかっちゃったのかなぁ」
「「ぎゃはははは」」

 大笑いしている冒険者をよそに、カインは立ち上がった。
 冒険者たちの柄が悪いこともあり、エナクに気を向けていたからすぐに気づけた。
 カインはすぐにエナクの元へ向かった。

「エナク、大丈夫だったかい? 『ヒール』」

 カインは倒れているエナクを起こしてあげ回復魔法を唱えた。
 エナクはその瞬間に白い光に包まれた。
 光が収まると、エナクの痛みは消えていた。

「あれ? お兄ちゃん、もう痛くないよ」
「うん、それならよかった。ちょっと用事ができたから待っていてね」

 カインはエナクを立ち上がらせ、蹴り飛ばした冒険者のほうを向いて睨みつけた。

「お、ガキ同士仲良くやってるか! こっち見てないで二人でママゴトでもしてろよ」
「「「ぎゃははははは」」」

 カインの視線に気づいた酔っている冒険者は、カインとエナクの二人の姿を見てさらにからかった。

「おまえ……エナクに向かって蹴りを入れたな……」

 カインは冷たい視線を向けながら話かけた。

「おい、ガキ、俺たちはBランクだ。口の利き方に気を付けろよ? 教育すんぞ」
「「「ぎゃははははは」」」

 蹴りをいれた冒険者の一言で、他の仲間が大笑いしている。
 カインはその四人に向かって、ゆっくり歩いていく。
 それに気づいたエナクが、カインの袖を引っ張り止めようとする。

「カインお兄ちゃんダメだよ。相手はBクラスの冒険者だよ」
「大丈夫だよ。こんな酔っ払いの雑魚冒険者より、僕のほうが強いから平気だよ」

 カインはエナクの方を向き、頭を撫でてあげる。
 しかしその一言で、酔っ払いの冒険者たちが殺気立つ。
 そして四人の冒険者が、ジョッキをテーブルに叩きつけ立ち上がる。

「ガキには教育が必要みたいだな……」

 四人の冒険者の表情は先ほどまでとは、まったく違っていた。
 カインはゆっくりと四人に向かって歩き始める。
 周りで飲んでいる他の客も、その様子に喉を鳴らす。
 そしていきなりカインが消えた。 

「「「「えっ」」」」

 周りの客は、いきなりカインが消えたことに驚いた。
 その瞬間に、四人の冒険者たちは外に投げ出されていた。

「「「「「えぇぇぇぇっ!!!!!」」」」」

 カインは一瞬にして、風魔法を使い、入口の両開きの扉を風圧で開いた。
 そして、一人一人の手首を持ち、外に向かって順番に投げ飛ばしたのだ。
 あまりの速さに誰も目で追うことができず、他の人たちからは一瞬で、冒険者が外に投げ出されたとしか見えなかった。 
 いつの間にか外に投げ出された本人達が、一番驚いていた。



「この店で暴れたら迷惑がかかるでしょう。外に行ってお話しましょうね」

 そしていきなり現れたカインは、外に投げ出した冒険者たちに向かって黒い笑みを浮かべた。

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コメント

  • にせまんじゅう

    この世界のチンピラは「教育すんぞ」や「夜まで付き合えよ」などの言葉を多用します。

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  • にせまんじゅう

    でた!『ダークネススマイル』

    0
  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    どっかのCランクのクロス様(笑)に似てるね

    4
  • スザク

    闇のゲームの始まりだ!(ニヤァ)

    2
  • ノベルバユーザー304999

    ニタァ

    2
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