転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第五十五話 マルビーク領2
時は少し遡る。
騎士団の詰所で、テーブルを挟みデリータとカインが座っている。
簡易的な応接室みたいになっており、待遇に不満はなかった。
部屋の入口には騎士が二人立っており、逃げ出すことが出来ないようにしている。
「それで君の名前は?」
「――カインです」
「確認のためだ、ステータスオープンしてもらえるかな?」
「――無理です」
「騎士としてではなく、この街を治める公爵家の人間として聞いてもダメかね?」
「――無理です」
何度言われてもカインのステータスは見せられるものではなかった。下手に見せたら国王から処罰もありえるからだ。
フゥとため息をついたデリータは、用意された紅茶を一口飲んでから再度聞く。
「どうしてダメなのかね? 私が君を手打ちにすると言っても?」
「どうしてもダメだからです。どうしても見たいならエリック様に聞いて下さい。それで許可が出れば見せます」
エリックの名前を急に出され、デリータは目を見開く。
冒険者の格好をし、お供を連れていないカインが父親の名前を出されたことに驚かないはずはない。
「なぜ君が父上のことを知っているのかね? 年はシルクに近いくらいか、もしかしてシルクも?」
「もちろんです。シルクは学園で同じクラスですから」
「それなら余計に見せられない理由がない。ちょうど明日、父上が屋敷に戻ってくる予定だ。君の秘密は父上が到着してから聞くことにする。もし父上を知っているということが虚偽だった場合は問題になり不敬罪となるかもしれん。悪いがそれまでは別室で待っていてもらいたい」
カインは仕方なく素直に頷いた。
そして案内されたのは牢屋だった。いや、牢屋もどきであろうか。
半地下となっており、天井付近からは少しだけ陽の光が差し込んでくる。
牢屋は個室となっており、思ったより清潔にされていた。中に仕切りはないがトイレもベッドもある。
ソファーやテーブルが配置してあり、雑魚部屋みたいな牢屋もある中で、ここまで豪華な個室にしてくれたのはデリータの配慮だろう。
正直、マルビークに来た理由は転移拠点をつくるためだけだ。そのまま転移して王都に戻ってもいいが、カインという名前を出している以上、エリック公爵がこの地にくると聞いたことで顔を合わせる必要があった。
温泉に入りたかったという残念な気持ちを抑えベッドに横になった。
のんびりとベッドに寝転がり時間を潰す。昼食は出してもらえなかったので、アイテムボックスからこっそりとパンとコップを出し、水魔法を使ってお腹を満たした。
牢屋の外にはカインを見張るために、一人だけ衛兵が待機している。
カインは暇つぶしのために話しかけることにした。
「ねぇねぇ、衛兵さん。いつまでここにいればいいのかな?」
カインの問いに衛兵は少しムッとしたが、やはり衛兵も暇だったこともあり話に乗ってくれた。
「デリータ様の許可が出るまでだ。デリータ様は公爵家の次男だが、騎士団に入り隊長としてこの街の治安を守っているのだ」
「そうなんだー? さっきデリータ様が明日にはエリック様が来るって言ってたよ。それまで出れないのかな……」
「デリータ様がそう言うならそうなるだろう」
ベッドで寝転び、アイテムボックスから菓子を出し食べながら話す。
このお菓子は以前、シルビアに作ってもらったもので、ドライフルーツを乗せたクッキーだ。
「そうかぁ……温泉入りたかったな……」
「この街の温泉は最高だからな――ってお前何食ってる??」
「え? お菓子。食べます?」
カインはまだ残っている菓子を牢の隙間から衛兵に差し出す。
「悪いな、って違うわっ! お前、アイテムボックス持ちかっ!」
口の中をモゴモゴと動かしながらもカインは頷く。
衛兵は恐る恐るカインの手からお菓子を受け取り、口に入れる。
「おっ、これ旨いな」
満足する衛兵にさらにアイテムボックスから出したコップを渡しジュースを注ぐ。
「こちらもどうぞどうぞ。まだ、未成年ですから酒は持ってませんが、王都で買ったジュースです」
「悪いな、頂くとするよ」
いつの間にか打ち解けた衛兵とカインの会話は次第に盛り上がってくる。
「デリータ様は悪い人ではないのだが、性格が一直線でな。言うことを聞くのはエリック公爵だけなんだよ。領主の代理をしている長男のノエール様にも対抗意識を燃やしているぐらいだからな」
「そうなんですか、それは大変ですね」
カインは衛兵の愚痴に相槌を打ちながら話を聞いていく。
「でも、平民にも分け隔てなく接するいい人なんだよなー。ただ、良い、悪いで判断してしまうから極端で困ることもあるが……。もう少しエリック様のような柔軟性を持っていただけるといいのだが……」
エリックの顔を浮かべてカインは苦笑いした。
話していると、扉がノックされ開かれた。
「そろそろ夕飯の時間かな。って……デリータ様!?」
衛兵は夕食の差し入れだと思っていたら、中に入ってきたのはデリータだった。
慌てて手に持っていたコップをテーブルに置き、起立し敬礼をとる。
「父様は予定より早くお着きになられた。そして早々に確認を行うこととなった」
牢屋の前で、デリータは剣をすぐに抜けるように待機した。
そして、護衛の騎士を二人従えてエリックが入ってきた。
牢屋の前でエリックはカインと視線を交わす。
「どうも」
カインはその一言だけ返す。みるみるうちにエリックの顔が赤くなってくる。そして我慢できずに大爆笑しはじめた。
「あっはははは……お腹痛い。カインくん、なんでこんなところ入っているの? あはははっ、ほんともうダメ……」
エリックが一人で大爆笑していることに、デリータも護衛の騎士も衛兵も皆、唖然とする。
「お父様、このカイン、知り合いなのですか?」
デリータが恐る恐る聞いてくる。
「うん、もちろん。だって、シルクの婚約者だよ? カイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵だし。ガルム辺境伯の子供でもあるよ?」
その言葉を聞いて、エリック以外の全員が青ざめた。
なぜなら、名前の後に領地名が入っているということは、まだ幼く見えたとしても貴族の当主であるからだ。たとえデリータが公爵家の次男だとしても、当主には誠意を持って接する必要がある。
「えっ……子爵!? 辺境伯の!? シルクの婚約者!?」
デリータはエリックの言葉に思考が追いつかなかった。
「それにしても、カインくん、なんで子爵の証明書出さなかったの? それ見せれば貴族だって証明できたでしょ」
笑いながらエリックが聞いてくる。カインはステータスのことばかり聞かれていたので、すっかりと忘れていた。
普段はアイテムボックス内に入れていることもあり、身体検査でも見つけることはできない。
「たしかにそうですね。ずっと「ステータスを見せろ」って言われたから断っていたので、すっかり忘れてました」
カインは頭を掻きながらアイテムボックスから、子爵の証明書を出した。
そして、カインの言葉を聞いたエリックは先ほどまでの笑みが一瞬にして覚め、冷たい視線をデリータに向けた。一瞬にしてこの部屋の空気が変わった。
「――デリータ……カイン子爵のステータスを見たのか?」
その表情の落差にデリータは驚きつつも顔を横に振った。
「いえ、断固として拒否されましたので、この牢屋に入ってもらいました。ただ貴族の子弟かと思いましたので、この部屋にしました」
「それならばよろしい。もし、見ていたら……デリータ、場合によって――君は死罪になるかもしれなかった」
エリックから告げられた言葉に、デリータは目をこれほどまでというほど見開いた。
「このカイン子爵はそれほどまでの人材だということだ。だからこそこの年で叙爵され当主としているのだ。わかったか? それにしてもカインくんが牢屋とは……早く出してあげてくれ。これは王都に戻ったら国王に報告しないと……ププッ」
冷たい表情はいつの間にか消え、またいつもの表情に戻って笑い始める。
衛兵はカインが貴族だと知ると、焦ったように開錠し牢屋の扉を開けた。
「衛兵さん、楽しかったよ。ありがとう」
カインが衛兵に笑顔を向けると、衛兵は恐縮した表情をし、頭を下げる。
「カインくん、それじゃ、屋敷に行こうか。家族を紹介するよ」
エリックに連れられ、カインは屋敷に向かった。
デリータはあまりのショックで、その場で数分間固まったまま立ち尽くしていた。
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コメント
ノベルバユーザー304999
「悪いな。」(キリ)
ストレスマッハ
デリータ不憫な子や…
ノベルバユーザー265071
面白かった
べりあすた
エリック様、大爆笑w
I♡ジョゼ(*^^*)
デリータwwww