引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

一人前までの道のりは遠い

「ゆ、勇者アルス! あな……おまえの命もここまでだ! 私がおまえを殺しちゃう……じゃなくて、殺してしんぜようぞ!」

 ロニンはぶるぶると瞳を震わせながら、剣の切っ先をアルスに向けた。

 アルスはごくりと息を呑んだ。
 魔王の一人娘というだけあって、彼女から発せられる覇気はなかなかのものだった。あと数年もすれば、とんでもない化け物に成長する予感をさせるほどに。

 だが。

 ロニンは、あまりにも若すぎる。
 見た目だけで判断するならば、まだ十代半ばであろうか。

 そのせいかもしれない。
 アルスには、自身の魔力を思うように使いこなせない未熟者に思えた。

 アルスとて《勇者》だ。

 いくら魔王の子孫といえど、自分の力すらろくに扱えない者に負ける気はしない。

 だが、かといって油断はできない。

 相手は魔王の娘。
 悪の根は絶たなければならない。

 アルスは心のなかで決意を燃やし、改めてロニンを見据えた。

「ううっ」

 ロニンが一瞬だけ眉を八の字にしたが、気を取り直したように仏頂面に戻る。

「そ、そんな怖い顔したって無駄なんだからね! ……じゃなくて、まったくの無駄である!」

「……悪いが、子どもの遊技に付き合っている暇はないんでね」

 薄暗い洞窟の通路。
 ゆらゆらと青白い松明が揺れている。

 アルスは深く息を吸い込むや、勢いよく地を蹴った。

 同時に、自身の剣に魔術を放り込む。ふわりと鮮やかな緑色の光沢が剣を包み込み、洞窟内を激しく照らし出した。

 これがアルスの勇者たる所以ゆえんである。
 剣士の力と、魔術師の力。
 しかも、物理・魔法ともに攻撃力が高いため、まさに隙がない。

 これまでに修行に修行を重ねた、渾身の一撃ユグドラシル・デュアル

 それをロニンに向けて解き放った。

 緑色の残滓を引きながら、剣の切っ先がロニンに吸い込まれていく。

「わ、わあああああ!」

 そのあまりの迫力に、ロニンはなかば恐慌をきたした。
 もはや恥も外聞もない。

 ロニンは直感的に理解していた。
 もし、この《ユグドラシル・デュアル》が直撃してしまえば、自分の命は確実に絶たれると。

 それだけの威力が込められた一撃だった。

 だから避けなければならない。
 あるいは同じように剣を抜いて、アルスの攻撃を防がねばならない。

 そうとわかってはいた。
 だが身体が動かなかった。
 死を目前にして、魔王の娘はなにもできなかった。
 ただただ、悲鳴をあげ続ける。

 剣が刻一刻と近づいてくるにつれ、ロニンは過去のことを思い出していた。

 ここまで自分を育て上げてきた父ーーすなわち魔王のこと。

 優しい父だった。
 いや、優しすぎた。
 それゆえに、この歳まで実戦というものを知らなかった。
 ずっと自分の部屋で過ごしてきた。

 外に出てしまうと、父を恨む人間に狙われる可能性があったからだ。

 だが、いまやロニンも十代半ば。いずれは魔王の後任になるべきはずの娘。
 いつまでも甘やかしてはいられない。

 そう判断した魔王が、今回、勇者の退治を命じてきた。
 まだ幼いロニンにとっては重すぎる任務だった。だが父は安心しろと言う。ロニンが死なぬよう、手は打っておくと。

 それを聞き、ロニンは二つ返事で了解した。

 やっと一人前になれると思ったから。
 やっと父から頼りにされたから。

 それなのにーー
 私は死ぬのか。ようやく父から仕事を任されたのに。私の力が認められると思ったのに。 

 ーー死にたくない……
 ロニンが無念の感情とともに目をつぶった、その瞬間。

 突風が、舞った。

 いつの間にか、ロニンとアルスの間に、何者かが乱入してきたのだ。

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