引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

村人 VS 魔王 1

 人気ひとけのない荒野に、雷がひとつ落ちた。
 轟音。そして閃光。
 いつしか空には暗雲が立ちこめていた。重厚な黒雲が完全に光を奪っている。

 吹きすさぶ風もどこか肌寒い。いずこより流れてきた紙くずが、空しく地面を転がっていく。

 その荒れ果てた土地で、向かい合う人影が二つ。
 村人と魔王。
 本来ならば交わることさえありえない二人が、いま、無人の地で相対している。

「この私を吹き飛ばすとはな。さすがに驚いたよ」

 魔王が余裕の表情で自身の黒マントをはたく。

 ーー効いてねえか。
 シュンは油断なく構えながら魔王の動きを観察する。

 勇者にしろディストにしろ、これまでシュンの攻撃に耐えられた者はいなかった。
 たった一撃を見舞うだけで、すべての者が倒れていった。

 だが魔王は違う。シュンの放った衝撃波を喰らってもなお、平然と立ち上がっている。

 ーーさすがは魔王ってとこか。やっぱ格が違うぜ。

 魔王は埃をはたき終えると、改めてシュンに目を向けた。その顔に表情はなかった。

「村人よ。なぜ私と戦う?」

「……は?」

「おまえに私と戦う動機があるのか? まさか人類救済を願っているわけでもあるまいに」

「まさか。そんなくっせー動機、反吐が出るぜ」

 ーー人類を救うために魔王と戦うーー
 その志は立派だと思うが、シュンには似つかわしくない。そこまで聖人にはなれない。
 かといって、ロニンのためだけに戦うのでもない。

 そう。シュンが戦う理由はたったひとつ。

「おめーが生きていたらよ。おちおち引きこもってもいられねえ」

「……なんだと?」

 魔王が銀色の眉をぴくりと動かす。

「時間を気にせず、柔らかなベッドでぬくぬくと眠る。この幸せがおまえにわかるか?」

「…………」

「けど、おめーがオーク軍団を村に派遣したばっかりに、それができなくなった。だから許せねえんだ」

 意味がわからないといった風に顔をしかめる魔王。

「おめーは魔王だ。俺も手加減はしねえ。引きこもりレベル999の力、存分に見せてやるよ」

「レ、レベル999……!?」

 驚愕のあまり魔王が目を開く。

「うおおおおおおっ!」

 シュンが声を枯らしながら、両腕を天に掲げる。

 レベル999。ステータスのすべてが万越え。
 そんな彼の轟然たる力の胎動に、大地が、万物が、揺れた。
 荒野に散らばっていた無数の石が、重力を無視して浮き上がる。いくつかの枯れ木などはぽっきり折れてしまった。
 轟音を響かせながら、ふたつめ、みっつめの雷が落ちる。

 いつしか、シュンの両手には漆黒の剣が握られていた。
 スキル、《業の双剣》。
 斬りつけた際に、相手のHPをも奪ってしまう欲張りなスキル。
 まさに、他人に依存している引きこもりに相応しい能力といえた。

 シュンはゆっくりと双剣を構えながら、決然と言い放った。

「さあ魔王のおっさんよ。おめーも出してみろよ、本気をな!」

「……ふ。ふふ」

 魔王は狂喜の笑みを浮かべると、天空に向けて笑い声を発した。

「あーっはっっはっは! 面白い、面白いぞ村人よ! 私も久々に楽しめそうだ!」
 叫ぶなり、魔王も魔力を解放した。

  ★

「な、なんだ!」
 勇者アルスは歩いていた足を止め、空を見上げた。
 揺れている。
 地上のものすべてが。世界のあらゆるものが。
 ーーどこか見果てぬ土地で、激しい戦いが起きている。
 勇者ですら手出しできない、高次元な戦いがーー

  ★

 アルスだけではない。
 世界中のすべての人々が、謎の地震に驚き、そして恐怖した。
 知らないところで、なにか恐ろしいことが起きていると。


 そのようにして、村人と魔王の戦いは幕を開けた。

「引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く