引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

幕間 【皇女セレスティア】

「勇者さん。王都まで後どのくらいかしら?」

「はっ。あと十分後には着くはずでございます」

「十分かぁ……。だいぶ昼寝しちゃってたみたいね」

 言いながら、セレスティア皇女はふあっと大きな欠伸をした。
 明日は学園の入学式がある。それまでにはなんとか入寮手続きを完了せねばならない。

 ふと脇を見ると、勇者アルスが馬車小屋に揺られながらも、油断なく外を見回していた。
 セレスティアもつられて窓の外を見やる。だが、どこをどう見渡しても平和な草原が広がるばかり。
 いくら夜間とはいえ、盗賊はおろかモンスターすら徘徊していない。

 セレスティアは頬杖をつきながら言った。

「そんな警戒しなくても、誰も襲ってきやしないわよ」

「いえ……皇女様に万が一のことがあったら事ですから」

 ふーん。真面目な男なのね。
 セレスティアはだるそうにこめかみを掻くと、もう一度ふわぁぁあと欠伸をした。

 セレスティアも今年で十六になる。皇女として気ままに遊んでいられたのも去年まで。今年からは、学生として真剣に勉学に励まなければならない。

 皇女という立場上、どうしても身に危険がつきまとう。だから王都に向かうまでの道のりを、こうして勇者アルスが警護しているのだ。

 もちろん、彼が付き添うのはそれだけが理由ではない。
 アルスは凄腕の剣士だ。彼に適う者は世界にも何人といないだろう。
 よって、新入生には彼が直接指導する。
 つまり、彼自身も王都には用事があるのだ。

「……でも妙よね。こんな時間なのに、モンスターが一匹も見当たらないなんて」

 セレスティアの発言に、アルスは小さく首肯した。

「まったくです。今日だけではありません。ここ一ヶ月、モンスターの動向が変なのです」

「……変?」 

「ええ。極端にモンスターの数が減ったように思われます」

 アルスが推測するに、その変化はあのときーー謎の地震が発生した日からだ。あの日からモンスターの様子に異変が訪れた。

「……もしかしたら、モンスターたちの内部でいざこざが起こってるのかもね。だったらいまが好機じゃない?」

「ええ。その通りでございます。連中を叩くならばいましかありませぬ」

「ふうん。ならそのときは私が指揮を取るわ。お父様に許可を取ってね」

 この言葉に偽りはない。
 セレスティアは優秀な魔法使いであると同時に、一流の指導者でもある。彼女が指揮を取れば、王都の騎士が大勢派遣できるのだ。

「ありがたき幸せでございます」

 だからアルスも素直に礼を述べる。

 そのときだった。
 ふとアルスの視界に、信じがたいものが映った。 

「…………!?」

 人影が二つ、馬車の脇を駆け抜けていったのだ。窓から顔を出すと、とんでもないスピードで王都に向かう人間が二人。

 馬鹿な、馬車を追い越して走っていくだと……?
 アルスとて、一時的には馬より速く走ることはできる。だがあそこまでスピードは出せないし、なにより体力が持たない。

 そして。
 二人の顔に、アルスは見覚えがあった。約四ヶ月前の、思い出したくもない記憶が蘇る。

「いまのは……。まさか、あのときの村人と……魔王の娘?」

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