引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

叶わぬ想いだったのに

 ーーお兄ちゃん?

 ロニンが目を見開いたのも束の間。

 地面の一点に、突如として幾何学模様が発生した。ロニンが瞬きをする間に、その幾何学模様から筒状の輝きが放たれーー
 シュンが現れた。

「あーあー、大変なことになってんなこりゃ」
 彼は後頭部をぼさぼさ掻きながら周囲を見回した。その口調こそ軽いが、さすがにいつものような飄々とした態度は見られない。

 それはそうだ。人間もモンスターも、この地で多くの生命が死んでいるのだから。

 ぐるりと辺りを観察していたシュンは、ふいにロニンに視線を固定する。
「お、いたいた」
「えっ……?」
 棒立ちになるロニン。

 どうやら彼はロニンを探していたようだ。
 魔王の全身に緊張感が走る。怒られるかもしれないと思ったから。なぜ開戦なんてしてしまったのかと、罰を受けるかもしれないと思ったから。

 その脇で勇者アルスは呆然と突っ立っていた。が、数秒後、我に返ったように吼える。

「お……おい村人! これから俺と魔王が戦うところだ! 邪魔してくれるな!」
「…………」
「おい聞いてるのか!」
「うっせ」

 シュンがひょいと右腕を突き出す。

 ズドン! というすさまじい衝撃音に続いて、勇者と騎士たちがいっせいに後方に吹き飛んでいく。目に見えぬ衝撃波が勇者たちを襲ったようだ。

「お、おのれ、こんな猪口才ちょこざいな攻撃なぞ……!」
 怒った勇者が立ち上がろうと地面に手をつけたーーのだが。
「な、なんだ……?」
「どうなってる……。た、立てないぞ!」
 人間たちは地面に這いつくばったまま、一向に立ち上がろうとしない。いやーー立ち上がれない。

 シュンの放った攻撃は的確すぎるほどの《急所狙い》だった。人間たちはいま、HPの残量を多く残しているにも関わらず、動くことができない。

「あ……」
 ロニンは思い出した。かつて彼が、勇者アルスを一撃で戦闘不能に陥れたことを。

 でも、その攻撃を一瞬で、しかも大勢の敵にやるなんて。
 ーーさすがはお兄ちゃん。強すぎる……

「あーあ、やっと静かになったぜ」
 あくまで冷静なシュンに、ロニンは上擦った声を発した。
「お、お兄ちゃん……」
「おうロニン。久々じゃねえか」
「そ、そんなことないよ。昨日の夕方まで、一緒にいたじゃん……」
「たしかにな。でも俺は、あーっと、その」

 そこでシュンは珍しく頬を赤らめると、そっぽを向いた。

「会いたかったぜ、おまえにな」

「あ……」
 こんなときだと言うのに、ロニンは爆発寸前にまで顔を赤らめた。

 ーーお兄ちゃん。
 私はモンスターなんだよ。
 魔王なんだよ。
 なのに……どうして……なんで……
 そのことを思うと、戦争の真っ最中であることも忘れ、ロニンは思考停止になってしまうのだった。

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