引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
見えない心理戦
ーーそうきたか。
シュンは下唇を噛んだ。
エルノス国王は徹底して正論だ。
自国の民意を代弁し、うまいこと条約を結ぼうとしている。多勢の同意を得る体で、自分の要望を押しつけようとしているのだ。
すなわち、作物収穫の半分を献上するーー
これはシュロン国にとってかなりの痛手だ。国の発展が相当遅れてしまうだろう。まさにエルノス国王の狙い通りというわけだ。
「どうだ。悪くないと思うがね」
エルノスは玉座にふんぞり返りながら言った。
「我が国には、そなたの国を敵と見なし、すでに戦闘員を募集している組織もある。このままではいずれ、そなたの国は攻め込まれることになるだろう。シュロン国とやらの平和を維持するためにも、この条約は有益だと思うがね」
「ちっ……」
国王に聞こえぬよう、シュンは小さく舌打ちした。
人間とモンスター共存させる。そして平和な世界を創造するーー
その試みは上手くいったと思っていた。
実際にも、シュロン国はこれまで何事もなく、平和を維持してこられたのだ。この平穏な生活がずっと続いていくのだと思っていた。
なのに。
世間がそれを許さない。
理想地の創造を、これでもかと邪魔してくる。
ーー収穫の半分を献上。
こんなものを認めてしまったら、きっとシュロン国の民も不満を抱くだろう。そして確実に、シュンへの不満に繋がっていく。
「どうだシュン殿よ。認められぬと言うならば、こちらにも案がある」
「なんだと……?」
シュンが目を見開く間に、エルノス国王はすっと片手をあげた。
瞬間。
これまで潜んでいた騎士たちが、さっとバルコニーから飛び降り、シュンたちを囲んできた。剣や弓、さまざまな武器を携え、シュンを威嚇する。
「シュン殿、そしてロニン殿には、一生食うに困らぬ資金をくれてやる。建国なぞもう辞めて、ひっそりと暮らすがよい」
「お父様!」
セレスティアが真っ赤な顔で叫び声を発する。
「ひどいわ! こんなもの、ほとんど脅しじゃない!」
「わからぬかセレスティアよ。大義のためならば、多少の犠牲は肯定されるのだよ」
「そ、そんなの……ひどい……!」
さんざん脅迫した挙げ句、最後に甘いお菓子を差し出す。
さすがは大国の王といったところか。交渉がうまい。並の者ならば、国王の誘いに乗ってしまうであろう。
だが。
シュンはゆっくりと顔を上げると、まっすぐにエルノス国王を見据えた。
「温厚にして徳の高い人物。権力者でありながら、並々ならぬ優しさを併せ持っている……」
「なんだと?」
「エルノス・ディ・クローディア。あんたの評判だよ」
シュンは大勢の騎士に囲まれながらも、ひとり、毅然と立ち上がった。
「俺だって一応は国王さ。だからわかってる。王ってのはな、ぶっちゃけ人気商売なんだよ」
「…………」
黙りこくるエルノス国王。
「腑抜けな王には誰もついてこない。かといってただの独裁者も駄目だ。指導力、人間力のない奴に、国民は従わない」
「……だからなんだというのだ。そんなことは常識ではあるまいか」
「わかんねェのか。エルノスさんよ」
シュンはそこでふっと笑った。
「あんたさっき、自分で言ってたよな。《俺たちは戦争を止めた功績者》だって。あんたは功績者に罰を与えるのか?」
エルノスはむっと顔をしかめる。
「そりゃあまずいだろ? 王としての評判はがた落ちだ。きっと貴族たちも動揺するだろう。だからまずは俺たちに褒美の品でもくれてやんのが常識だと思うがーーどうかねぇ?」
「…………」
ますます顔を険しくする国王に対し、シュンは自分の妻を手差ししながら言った。
「あと、さっきも言ったように、この女は魔王だからな。こんな騎士どもじゃ相手になんねえ。くっそくだらねえハッタリかますんじゃねえよ」
数秒間、シュンとエルノス国王はじっと睨み合っていた。
そのただならぬ戦いを、ロニンもセレスティアも、息を呑んで見守る。
やがて、エルノス国王はふっと顔をそむけた。
「……ふん、口のまわる奴め。いいだろう。そなたの言う通り褒美をくれてやる。追って連絡するゆえ、しばし王城にて休んでいたまえ」
シュンは下唇を噛んだ。
エルノス国王は徹底して正論だ。
自国の民意を代弁し、うまいこと条約を結ぼうとしている。多勢の同意を得る体で、自分の要望を押しつけようとしているのだ。
すなわち、作物収穫の半分を献上するーー
これはシュロン国にとってかなりの痛手だ。国の発展が相当遅れてしまうだろう。まさにエルノス国王の狙い通りというわけだ。
「どうだ。悪くないと思うがね」
エルノスは玉座にふんぞり返りながら言った。
「我が国には、そなたの国を敵と見なし、すでに戦闘員を募集している組織もある。このままではいずれ、そなたの国は攻め込まれることになるだろう。シュロン国とやらの平和を維持するためにも、この条約は有益だと思うがね」
「ちっ……」
国王に聞こえぬよう、シュンは小さく舌打ちした。
人間とモンスター共存させる。そして平和な世界を創造するーー
その試みは上手くいったと思っていた。
実際にも、シュロン国はこれまで何事もなく、平和を維持してこられたのだ。この平穏な生活がずっと続いていくのだと思っていた。
なのに。
世間がそれを許さない。
理想地の創造を、これでもかと邪魔してくる。
ーー収穫の半分を献上。
こんなものを認めてしまったら、きっとシュロン国の民も不満を抱くだろう。そして確実に、シュンへの不満に繋がっていく。
「どうだシュン殿よ。認められぬと言うならば、こちらにも案がある」
「なんだと……?」
シュンが目を見開く間に、エルノス国王はすっと片手をあげた。
瞬間。
これまで潜んでいた騎士たちが、さっとバルコニーから飛び降り、シュンたちを囲んできた。剣や弓、さまざまな武器を携え、シュンを威嚇する。
「シュン殿、そしてロニン殿には、一生食うに困らぬ資金をくれてやる。建国なぞもう辞めて、ひっそりと暮らすがよい」
「お父様!」
セレスティアが真っ赤な顔で叫び声を発する。
「ひどいわ! こんなもの、ほとんど脅しじゃない!」
「わからぬかセレスティアよ。大義のためならば、多少の犠牲は肯定されるのだよ」
「そ、そんなの……ひどい……!」
さんざん脅迫した挙げ句、最後に甘いお菓子を差し出す。
さすがは大国の王といったところか。交渉がうまい。並の者ならば、国王の誘いに乗ってしまうであろう。
だが。
シュンはゆっくりと顔を上げると、まっすぐにエルノス国王を見据えた。
「温厚にして徳の高い人物。権力者でありながら、並々ならぬ優しさを併せ持っている……」
「なんだと?」
「エルノス・ディ・クローディア。あんたの評判だよ」
シュンは大勢の騎士に囲まれながらも、ひとり、毅然と立ち上がった。
「俺だって一応は国王さ。だからわかってる。王ってのはな、ぶっちゃけ人気商売なんだよ」
「…………」
黙りこくるエルノス国王。
「腑抜けな王には誰もついてこない。かといってただの独裁者も駄目だ。指導力、人間力のない奴に、国民は従わない」
「……だからなんだというのだ。そんなことは常識ではあるまいか」
「わかんねェのか。エルノスさんよ」
シュンはそこでふっと笑った。
「あんたさっき、自分で言ってたよな。《俺たちは戦争を止めた功績者》だって。あんたは功績者に罰を与えるのか?」
エルノスはむっと顔をしかめる。
「そりゃあまずいだろ? 王としての評判はがた落ちだ。きっと貴族たちも動揺するだろう。だからまずは俺たちに褒美の品でもくれてやんのが常識だと思うがーーどうかねぇ?」
「…………」
ますます顔を険しくする国王に対し、シュンは自分の妻を手差ししながら言った。
「あと、さっきも言ったように、この女は魔王だからな。こんな騎士どもじゃ相手になんねえ。くっそくだらねえハッタリかますんじゃねえよ」
数秒間、シュンとエルノス国王はじっと睨み合っていた。
そのただならぬ戦いを、ロニンもセレスティアも、息を呑んで見守る。
やがて、エルノス国王はふっと顔をそむけた。
「……ふん、口のまわる奴め。いいだろう。そなたの言う通り褒美をくれてやる。追って連絡するゆえ、しばし王城にて休んでいたまえ」
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