引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

たった十秒

 視界に光が射し込んでいた。

「んん……」
 寝言をぼやきながら、シュンは片目をこする。
「ーーあっ!」 

 大声をあげ、シュンは思い切り上半身を起こした。
 空が明るい。太陽の強い光が木々の隙間を差しており、夜とはだいぶ印象が違う。

 ーー朝、のようだ。
 どうやら予定より寝過ぎてしまったらしい。
 慌てて周囲を探るも、悪魔どもに襲われた痕跡はない。周囲の木々は一本も折れておらず、太陽光以外は周囲に変化はない。

 ーーいやあ、ちょっとだけ仮眠するつもりだったんだがなぁ……
 シュンがぼりぼり後頭部を掻いていると、ふいに背後から声をかけられた。

「起きたみたいね、シュン」
 振り返ると、両手を空にかざし、力強く背伸びしているセレスティアの姿があった。
 きらきら、と。
 きらびやかな陽光を全身に受けた皇女に、シュンはほんの一瞬だけ目を奪われた。

「おまえ……もう元気になったのか」
「全快ってわけじゃないけどね。でもなんだか寝ているときすごい幸せで……風邪なんかどっかいっちゃったよ」

 寝ているときすごい幸せ……
 いやいやいや、俺はなにもしてないからな。なーんにもだ。神に誓ってもいい。
 などと考えていると。

「あ……あのさ」
 セレスティアがほんのり頬を染め、そっぽを向きながら言った。
「昨日、私、あの……変なこと言ってないよね?」
「ん? あー」
 変に悪戯心が沸いたので、シュンはからかってやることにした。
「言ってたぜ。シュン様大好きちゅっちゅ……ってな」
「…………!」

 セレスティアは最大限にまで頬を桜色に染め上げると、腕を組み、なぜだか偉そうに言ってのけた。

「そ、そそそそれはその、嘘、ではないんだからね。か、感謝しなさい!」
「……なんだそりゃ」

 彼女のツンデレはいつものことだ。シュンは苦笑して流す。

「ねえシュン。あなたが結婚してるのはわかってるけど……無事に帰れたら、その」
「ん?」
「い、いえ、あの」

 セレスティアは言いよどむと、ぷんっと後ろを向いた。

「なんでもありません。無事に帰れたらお願いが……いえ、私からのわがままがあります」
「へいへい」

 シュンは面倒くさそうに返事をすると、よいしょと立ち上がり、皇女のもとに歩み寄っていく。

 ーーあのとき。
 三年前、ロニンやディストとともに魔王城を侵略したとき。

 ロニンには味方がいなかった。父である魔王に命を狙われ、かつての部下も自分を殺さんとばかり襲いかかってくる。
 彼女はどうしようもなく孤独だった。
 でも。
 シュンだけは違った。
 魔王の娘という《厄介者》を、文句を言いながらも匿った。
 彼はのちのち知ったことだが、たったそれだけでロニンは救われたという。

 誰も味方がいないとき。
 たったひとりでも、寄り添ってくれる人がいるだけで。
 それだけで。

 シュンは過去に想いを馳せながら、セレスティアの頭に優しく手を置いた。

「ま、頑張ってこうや。すくなくとも俺はおまえの味方だからな」
「…………」
 セレスティアは向こうを向いたまま、びくりと身を震わせた。
「あなたの、そういうところ……卑怯です」

 言いながら、くるりと身を翻し、ほんのすこしだけ、シュンに抱きついた。泣いているのか、小さな嗚咽おえつが聞こえる。

「ごめんなさい。たった十秒でいいの。甘え……させて」
「おう。十秒だけな」

 シュンもすこしだけ、セレスティアの背に手をまわした。

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