引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
悲しき戦争
「まったく、あんな村人のどこかいいんだか……(ブツブツ)」
「あ、あの……」
「ロニン様も、なぜあんなドスケベ野郎にぞっこんなのだ(ブツブツ)」
「あ、あのう。聞こえてますか」
「あんな男よりも、俺のほうが数倍もイケメンではあるまいか。おお、邪神よ、あなたはいったいどちらの味方をするのですか!」
「あ、あの……本当に大丈夫?」
「えっ? ……あっ」
心の声が口に出ていたらしい。ディストは慌てて自身の口を隠し、目線を泳がせる。
「あははは。だから離れろって言っただろ何度も言わせないでくれ頼むから」
早口でまくしたてるディストに、ミュウはひきつった笑みを浮かべながら今度こそ退散する。
ディストはふうと息を吐くと。
改めて王都の騎士たちに向き直った。
敵兵はざっと数千を超えている。シュロン国の戦闘員よりも格段に多い。
その誰もが凄腕揃いのようだ。敵兵ひとりひとりの気迫が尋常ではない。
二年半前にも、セレスティア率いる人間軍が魔王城を襲ってきた。
だが、もはや彼らとは比べ物にならない。エルノス国王もそれだけ本気だということだ。
だがーー
ディストは長髪を掻きあげながら、もう一度、敵兵を見渡す。
ーーどんなに敵が来ても同じことだ。
ディストにとっての師は魔王ロニンである。
彼女のためならば命を捨てても構わない。ロニンに敵対する者であれば、容赦なく斬り捨てるまでだ。
決意を胸に称え、ディストは剣を構える。
すると。
「特記戦力……ディスト。向こうから来てくれたか」
ゴルム隊長が小さい声で呟いた。人間には聞き取れないであろう声量であったが、ディストの耳はそれを確実に捉えた。
「光栄だな。そんなふうに呼ばれているとは」
「……ほう。聞こえていたか」
ゴルム隊長は取り乱す素振りも見せなかった。ただ油断なく剣を引き抜き、切っ先をディストに向けながら、野太い声を発する。
「シュンとロニン。その二人を《消して》しまえば、残る障害は貴様のみだ。我が軍の総戦力をもって、貴様の首を討つ!」
「はっ、いい度胸だな。人間が」
「そう、貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!」
「やれるものがやるがいい。ひ弱な人間どもよ」
ディストも笑みを浮かべ、戦闘の構えを取る。シュロン国の豊かな土地に、一陣の切なげな温風が流れていき。
ディストはこちらから攻撃を仕掛けようとしたーーのだが。
「ま、待ってくだせえ、ディスト様!」
ふいに、ディストの服の裾を掴む人間がいた。三十代半ばの、筋肉隆々な男である。
「あ、あの部隊にはきっと、俺の古いダチがいる。頼む……手荒なことはしないでくだせえ」
「なんだと……?」
ディストは大きく目を見開いた。
そういえばそうだ。すっかり失念していたが、シュロン国の人間はもともと王都の出身。
そしてそのうち、戦闘員の多くはセレスティアの軍から引き抜いたものだ。あの部隊に仲間がいても不思議ではない。
見れば、敵兵の《気迫》はすべてディストにのみ向けられていた。
ーー貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!
ほんの一瞬、さきほどのゴルム隊長の言葉が脳裏によぎった。
★
ーーシュロン国を滅せよ。
それがエルノス国王からの命令だった。
王からの勅命。ゴルムは身を引き締める思いで、それを受けた。それだけにこの任務をなんとしても遂行させねばならないと。
だが。
敵兵――つまりシュロン国民の半分は、かつて同胞であった騎士たちだ。いくら王の命令といえど、素直に従えるものではない。できればこの命令自体をなかったことにしたい。
だが、ゴルムは知っていた。優しいと評されているはずの王が、秘密裏に、意見の合わない者を殺していることを。だからこの任務は必ずやり遂げなければならない。ゴルムだけでなく、部下たちの命のためにも。
だから非情になろうと思った。
まだ幼い子どもを殺すことで、人の心を捨てようとした。どうにしかして《自分》を殺さなければ、この無茶苦茶な命令を遂行することはできない。
ーーだが。
ありがたいことに、特記戦力のディストが自分から姿を現してくれた。シュンとロニンが消えた以上、シュロン国の実質的なトップはあいつだ。あいつさえ殺せばいいのだ。
あいつさえ……!
「総戦力でディストを討ちにかかれ! 怯むでないぞ!」
ゴルムは大声を張り、部下たちに命を下した。
「あ、あの……」
「ロニン様も、なぜあんなドスケベ野郎にぞっこんなのだ(ブツブツ)」
「あ、あのう。聞こえてますか」
「あんな男よりも、俺のほうが数倍もイケメンではあるまいか。おお、邪神よ、あなたはいったいどちらの味方をするのですか!」
「あ、あの……本当に大丈夫?」
「えっ? ……あっ」
心の声が口に出ていたらしい。ディストは慌てて自身の口を隠し、目線を泳がせる。
「あははは。だから離れろって言っただろ何度も言わせないでくれ頼むから」
早口でまくしたてるディストに、ミュウはひきつった笑みを浮かべながら今度こそ退散する。
ディストはふうと息を吐くと。
改めて王都の騎士たちに向き直った。
敵兵はざっと数千を超えている。シュロン国の戦闘員よりも格段に多い。
その誰もが凄腕揃いのようだ。敵兵ひとりひとりの気迫が尋常ではない。
二年半前にも、セレスティア率いる人間軍が魔王城を襲ってきた。
だが、もはや彼らとは比べ物にならない。エルノス国王もそれだけ本気だということだ。
だがーー
ディストは長髪を掻きあげながら、もう一度、敵兵を見渡す。
ーーどんなに敵が来ても同じことだ。
ディストにとっての師は魔王ロニンである。
彼女のためならば命を捨てても構わない。ロニンに敵対する者であれば、容赦なく斬り捨てるまでだ。
決意を胸に称え、ディストは剣を構える。
すると。
「特記戦力……ディスト。向こうから来てくれたか」
ゴルム隊長が小さい声で呟いた。人間には聞き取れないであろう声量であったが、ディストの耳はそれを確実に捉えた。
「光栄だな。そんなふうに呼ばれているとは」
「……ほう。聞こえていたか」
ゴルム隊長は取り乱す素振りも見せなかった。ただ油断なく剣を引き抜き、切っ先をディストに向けながら、野太い声を発する。
「シュンとロニン。その二人を《消して》しまえば、残る障害は貴様のみだ。我が軍の総戦力をもって、貴様の首を討つ!」
「はっ、いい度胸だな。人間が」
「そう、貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!」
「やれるものがやるがいい。ひ弱な人間どもよ」
ディストも笑みを浮かべ、戦闘の構えを取る。シュロン国の豊かな土地に、一陣の切なげな温風が流れていき。
ディストはこちらから攻撃を仕掛けようとしたーーのだが。
「ま、待ってくだせえ、ディスト様!」
ふいに、ディストの服の裾を掴む人間がいた。三十代半ばの、筋肉隆々な男である。
「あ、あの部隊にはきっと、俺の古いダチがいる。頼む……手荒なことはしないでくだせえ」
「なんだと……?」
ディストは大きく目を見開いた。
そういえばそうだ。すっかり失念していたが、シュロン国の人間はもともと王都の出身。
そしてそのうち、戦闘員の多くはセレスティアの軍から引き抜いたものだ。あの部隊に仲間がいても不思議ではない。
見れば、敵兵の《気迫》はすべてディストにのみ向けられていた。
ーー貴様さえ殺せばいいのだ、貴様さえ……!
ほんの一瞬、さきほどのゴルム隊長の言葉が脳裏によぎった。
★
ーーシュロン国を滅せよ。
それがエルノス国王からの命令だった。
王からの勅命。ゴルムは身を引き締める思いで、それを受けた。それだけにこの任務をなんとしても遂行させねばならないと。
だが。
敵兵――つまりシュロン国民の半分は、かつて同胞であった騎士たちだ。いくら王の命令といえど、素直に従えるものではない。できればこの命令自体をなかったことにしたい。
だが、ゴルムは知っていた。優しいと評されているはずの王が、秘密裏に、意見の合わない者を殺していることを。だからこの任務は必ずやり遂げなければならない。ゴルムだけでなく、部下たちの命のためにも。
だから非情になろうと思った。
まだ幼い子どもを殺すことで、人の心を捨てようとした。どうにしかして《自分》を殺さなければ、この無茶苦茶な命令を遂行することはできない。
ーーだが。
ありがたいことに、特記戦力のディストが自分から姿を現してくれた。シュンとロニンが消えた以上、シュロン国の実質的なトップはあいつだ。あいつさえ殺せばいいのだ。
あいつさえ……!
「総戦力でディストを討ちにかかれ! 怯むでないぞ!」
ゴルムは大声を張り、部下たちに命を下した。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1168
-
-
381
-
-
37
-
-
147
-
-
4
-
-
969
-
-
125
-
-
93
-
-
353
コメント
ノベルバユーザー322464
ディストさん忘れてました