引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

引きこもりの継承

 入学式まで残り三十分。
 手合わせをするには充分な時間がある。
 トルフィンは警備員から木剣を二つ拝借し、片方をリュアに授けた。可憐な幼女はなおも悩んでいたようだが、意を決したように剣を受け取る。

 ――王子と騎士長の娘が手合わせをする。
 このニュースはあっと言う間に周囲に広がっていった。
 ロータリーで対峙するトルフィンとリュアを、大勢の国民が取り囲む。気づけばわーわーと歓声が沸き起こり、もう大変な騒ぎだ。

「あ、あうぅ……」
 熱狂に気圧されてか、リュアが目を白黒させる。
 思わず苦笑しながら、トルフィンは木剣を構えた。
「まさかこんな騒ぎになるたァな。さすがに予想外だったよ」
「ト、トルフィンくん、私なんだか恥ずかしいよ……」

 頬を真っ赤にするリュア。

「大丈夫さ。父さんに訓練してもらってんだろ? いつもみたいにかかってこいよ」
「で、でも……」
「いいのか? 俺はゴルムさんより強いかもしれないぞ? 油断してたらおまえが危ないぜ」

 正直なところ、このセリフはいらなかったかもしれない。
「つ、強いもん……」
 幼女は身体を震わせながら、かすれた声を発した。
「私のお父さんは、誰よりも強いもんっ!」

 瞬間、リュアは剣先をこちらに向け、戦闘の構えを取った。先程までの甘さは一切はない。まさに剣士としての面構えだ。

 トルフィンはごくりと唾を飲んだ。
 まるで隙が見当たらない。
 大きなクチを叩くだけあって、彼女の強さは本物のようだ。

 ――面白い。
 俺だって国王と魔王の息子なんだ。
 剣の手ほどきを受けたことはないが、血筋では劣っていないはず。あのシュン国王も、俺のステータスを見て満足げにしていたのである。相手にとって不足なし。

 トルフィンも同じく木剣を構え、相手の攻撃に備える。
 極限にまで高められた集中力が、周囲の歓声を意識の外に追いやった。トルフィンの視界には、もはやリュアの一挙手一投足しか映っていない。

「……はっ!」
 その彼女が、勢いよく地を蹴った。タタタタタ……という小気味の良い足音を響かせ、トルフィンに迫ってくる。
 そのスピードに、さしもの彼も驚嘆せざるをえなかった。明らかに《六歳》の域を超えている。

 いや、それどころの話ではない。
 前世においても、あれほどの動きができる者はなかなかいなかったように思う。つまり彼女は、六歳にして大人の域に達してしまっているわけだ。ゴルムの教え方がいいのか、あるいはリュア自身の才能か。

「せいいっ!」
 思い切り振りかぶられた剣先が、猛烈な勢いでトルフィンに襲いかかってくる。普通の六歳児であれば、反応もままならずに打ちのめされるだろう。

 ――だが。
 バコッ!
 木剣と木剣が衝突し、盛大な音を周囲に響かせた。

「えっ……!」
 驚愕の声を発したのは、攻撃をしかけたリュアのほうだった。
 それだけに衝撃的だったのだ。

 ――自分の剣を、まさか受け止められるとは。

「うそ……。防いだ……? 私の剣を……お父さんじゃないのに……」
 トルフィンは余裕の表情でリュアの木剣を受け止めていた。まるで息をするように、ごく自然に。

「なに寝ぼけたツラしてんだ。俺はまだまだいけるぜ!」

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