引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

謎フラグ

 それから二ヶ月。
 トルフィンは《引きこもり》と魔術の習得を。
 リュアは剣術の向上を。
 ひたすらに、己の実力を磨くために努力をした。

 このときの二人は意識していなかったが、互いに互いを思い合うことで、ひそかなモチベーションに繋がっていた。とりわけトルフィンは前世から無気力を地でいく人間だった。にも関わらず武術大会へ向けて真剣に修行を始めたのは、ひとえに《リュアのため》という意識が強いからだった。

 トルフィンは強くなった。大会前、国王シュンが「頑張ったな」と息子の頭を撫でるくらいには。

 そして同時に、リュアも見違えるほどに変わった。《引きこもり》であるトルフィンには及ばないものの、そこらの大人では太刀打ちできないほどに腕を磨きあげた。トルフィンとゴルムに稽古をつけてもらった成果だった。

 そのようにして、とうとう武術大会が幕を開ける――



 クローディア王立首都。
 武術大会会場。
 シュロン国と人間界の腕自慢が集まり、参加者はのべ二万人近くにまで昇った。

 このときのために、王女セレスティアは大がかりに設備を追加した。

 まず、参加者は各ブロックごとに振り分けられ、予選を行うことになる。ちなみにこの時点で、トルフィンとリュアは同じブロックにはいなかった。つまり予選にて二人が対決することはなくなったわけだ。

 そして各ブロックにて優勝した一名だけが、本戦への出場資格を言い渡される。ひとつのブロックに二千五百名もの選手がいるので、この予選突破がかなりの難所となる。

 ただでさえ参加者が多いので、観客は予選を直接見るすることはできない。しかし王女セレスティアの計らいにより、広間に設置されている《大水晶》にて戦いのようすを眺めることができる。本戦を待ちきれない観戦客たちは、こぞってこの大水晶の前に集まった。

   ★ 

「うう……トルフィンくん、緊張するよぉ」
 小さな銀の鎧を身につけたリュアが、ガクブル震えながらトルフィンにくっつく。
「そんな調子でどうすんだ。もうじき予選だぞ」
「で、でもぉ」

 事ここに至って駄々をこねるリュアだが、しかしトルフィンとて、その気持ちはわからないでもなかった。
 なにしろ人が多い。二万人もの選手たちが、このホールに一斉に集結しているのだ。ストレッチをしている屈強な戦士や、目を閉じて精神を統一している魔術師など、みんなそれぞれ予選に備えて準備を行っている。この雰囲気に呑まれるのも無理はない。

 ホール内には、八つの石畳が作成されていた。これを舞台にして戦うのだろう。

「えー、選手のみなさん!」
 ふと、ホール内にエコーのかかっった男の声が響き渡った。
「まもなく予選が始まります! 選手のみなさまは、割り当てられたブロックにお集まりください!」
「は、始まっちゃった……」

 アナウンスを聞いてさらに萎縮してしまったリュア。なおも名残惜しそうにトルフィンの腕を掴んでいたが、数秒後、意を決したように口を開く。

「トルフィンくん、あのね、この大会が終わったら……」
「ん?」
「…………」
「どした?」
「な、なんでもない! お、おおお互い頑張ろうね!」
 顔を真っ赤にして、そそくさと走り去っていくリュアであった。

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