引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

本当の顔

 アルスにとって、シュンは理解の及ばぬ人間だった。
 なぜ魔王の娘をかばう。
 なぜ勇者であるはずの自分と戦う。
 それだけではない。シュンはかなり強かった。行商人に目をかけられ、必死に修行してきたはずの自分なんかよりも、ずっと。

 なのに、なぜ――
 なぜ魔王を殺しにいかない!
 魔王はあんなにも恐ろしいのに。魔王さえ、モンスターさえいなければ、俺の親も友達も、みんな生きていたはずなのに!
 なのにシュンは「めんどくせー」の一点張りで動こうともしない。ある意味でモンスターよりもタチの悪い、最低のクズ野郎だ。

 その数ヶ月後だ。
 村人シュンによって、魔王が殺されたのは。
 むろん喜ばしいことではあった。にっくき魔王が死んだことで、長かった戦争も終わる。あとは生き残りのモンスターが残っているのみ。そいつらを全滅させるくらいならば訳はない。

 なのに、アルスの胸には空虚感だけがあった。
 いったい自分はなんのために修行してきたのだろう。
 行商人の貯蓄まで使わせて、贅沢な教育まで受けたのに、訳のわからない村人が魔王を討伐した。なにが勇者だ。なにが人類希望の星だ――

  ★

「おらおら、どうしたよ! 動きが鈍ってるぜ!」

 幼い子どもの声ではっとした。
 武術大会。事実上の決勝戦。

 シュロン国の王子――トルフィンが、次々と剣を差し向けてくる。かなりのスピードだが、元々のステータスではアルスのほうが上だ。それらの剣撃を難なく受け止め、隙が生じたところに膝蹴りを見舞う。

「かはっ……」 

 トルフィンは掠れ声とともに後方に吹き飛んだ。たしかなダメージを与えたはずだが、トルフィンは空中で体勢を整え、膝を立てた姿勢で着地する。

「……やっぱり動きが鈍ってんな。さっきまでのキレがないぜ」
「なんだと……?」
「かなり胸にキたんだろ? さっきのセレスティアさんの言葉がよ」
「なんのことだか……わからんな!」

 負けじと言い返し、アルスはトルフィンに向けて駆け出した。
 そうしながら、失われていた過去の記憶が、またしても蘇っていく――

   ★


 村人シュンは再び、奇っ怪なことを言い出した。
 人間とモンスターが平和に暮らす国をつくる――と。
 それはアルスにとっておぞましい表明でしかなかった。
 あの恐ろしいモンスターと一緒に住むだって?
 できるわけがない。いつかきっと裏切られる。絶対にまた虐殺される。そんなこと目に見えている。
 なのに、皇女セレスティアも、騎士たちも、あの村人についていくのだと言う。生まれ故郷をなげうってまで、《とりあえず》シュロン国に行くのだと。

 まるで理解不能だった。
 そんなもの認めない。認めてなるものか――

 セレスティアやかつての仲間たちに白い目で見られながら、アルスは逃げた。ひたすらに走った。どこへ行くでもない。行き場のないこの感情を、とにかく発散させたかった。

 そんなときだった。
「可愛そうに。苦しんでるようだね。君はなにも悪くないのに」
 顔は覚えていない。
 何者かに話しかけられた。
「そんな構えないでくれよ。君と戦う気はないさ。……それよりもアルスくん、君は村人シュンが憎いかな」
「……だからどうした。貴様には関係ないだろう」
「助けてあげるよ。君を強くしてあげる。そして近いうちに、あの村人に復讐する機会をあげよう――」

 そこからだ。記憶が綺麗に途切れてしまっている。あのとき誰に話しかけられたか、それすらも思い出せない。再び《元勇者アルス》として目覚めたときには、ただひとつ、憎悪の感情だけが残っていた。

 そう。
 別に俺は、人類を滅亡させたいだなんて思っていない。
 ただ、平和な世界をつくりたかっただけだ。
 だからモンスターを滅ぼす。人間に害悪をもたらす怪物たちを、俺が滅してやるんだ――

 なのに。

 そしてまた、アルスは思い出してしまった。

 あれは数ヶ月前のことだ。
 人々が逃げまどっていた。
 さっきまで平和だった村は、たったひとりの闖入者ちんにゅうしゃによって、壊滅寸前にまで追いつめられていた。
 村人たちは知っていた。その闖入者が何者であるかを。
「ゆ……勇者アルス様! な、なぜこのような……」
 かつて平和を望み、希望の星とで呼ばれていた俺は、憎悪の感情のまま、ひとつ、村を滅ぼした。


   ★

「うああああああああああああ!」
 感情が爆発した。勇者アルスは頭をおさえ、ひたすらに絶叫した。そうしないと身体がはちきれそうだった。
「お、おい、どうしたよいきなり――」
 トルフィン王子が目を丸くして立ちすくむ。

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