引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
平和な祭り
武術大会は終わった。
見事優勝を飾ったトルフィン王子に、観客たちは沸いた。
シュロン学園の女生徒などは、「きゃー! トルフィン様ー!」などと黄色い声をあげている。その他の観客たちもまた、強者トルフィンを褒め称えた。
勇者アルスは騎士たちに担がれ、まずは病院に送られた。そこでしかるべき手当てを受けたのち、収容所にて罪を償ってもらう。搬送される際、彼はいっさいの抵抗もしなかった。
祝福の声援を受けてもなお、トルフィンは暗い表情をしていた。シュンが問いかけると、リュアが心配なのだという。
それを聞き、シュンは息子とともにシュロン国の病院までワープした。シュンの制止をものともせず、トルフィンは病室まで駆けだしていった。そしてリュアの無事を聞いたときには、トルフィンは膝を落とし、満面の笑みを浮かべていた。
病室にはセレスティアもいた。リュアのことが心配で、レクスにワープしてもらったようだ。
セレスティアが言うには、武術大会が終了した後、王都で祭りを開くのだと言う。自分はまだリュアの様子を見るから、先に祭りに行ってはどうかとシュンに催促してきた。
シュンはそれに応じることにした。おそらく、いまのトルフィンにとって、そばに親がいることはあまり好ましくないだろうから。
そうして。
シュンは久々に、ロニンと王都でデートすることにした。
「わー、すごーい……」
周囲を見渡しながら、ロニンは目を輝かせた。
天を見上げれば、あちこちで風船が飛んでいる。所狭しと屋台が軒を連ね、店主たちが大声で商品のアピールをしてくる。
「あれ美味しそう……あ、これも美味しそう!」
「落ち着けよ……」
思わず苦笑するシュン。
まったくこの魔王様ときたら、大人になっても落ち着くということを知らない。
ロニンはふりふりと尻尾を振りながら、むうと頬を膨らませた。
「だって美味しそうなんだもん。お兄ちゃんはなにか食べたいものないの?」
「ねえな。おまえの手料理が一番だ」
「……もう、そういうこと言う」
頬を赤く染めるロニン。いくつになっても、子どもっぽさは消えないようだ。
「でもま、今日くらいはなんか屋台で食おうや。なにが食いたい」
「えーっと、えと、コッペパンとアイスとステーキと……」
「無茶苦茶だなおい」
呆れて息を吐くシュン。
「とりあえず買ってきてやるよ。おまえはそこに座ってな」
言いながらシュンは近くのベンチを指差した。
ロニンはまたも頬を膨らませる。
「えっ、いいよ。私も買いにいく」
「いいから座っとけ。一緒に行ったら絶対《あれも食べたい》《これも食べたい》ってうるさいからな」
「むう……」
反論できないロニンだった。
「わかったよ。お腹空かして待ってるからね!」
「へいへい」
シュンの背中を見送りつつ、ロニンは一息つき、ベンチに腰を下ろした。
――でも、良かったな……
王都とシュロン国の共同武術大会。
一時はどうなるかと思ったが、すべて丸く収まった。怪我人もいるし、無事に終わったとは言い難いが。
ただし、まだいくつかの謎は残っている。アルスの記憶を操作したのは何者か。彼の言う《創造神》とはなんだったのか。それについてはまだ判明していないでいる。
でも焦ることはない。
ひとつひとつ解決していけばいい。シュンがいる限り、きっとなにもかもが平穏無事に解決するはずだ。
「いやぁ、相変わらずラブラブですな」
物思いに耽るロニンに、ふと声をかけてくる者がいた。
「あ、ディスト……」
シュロン国の幹部――ディストが、片手のソフトクリームを舐めながら歩み寄ってくる。
「セレスティア王女から王都にいると聞きましてな。探しておりましたよ」
――なんだろう。
若干の寒気を覚えながら、ロニンはディストを見上げた。彼はモンスターで一番の部下のはずだ。なのに現在、例えようのない威圧感を感じる。
「ねえ、ディスト……」
「ハイ?」
「さっき、勇者が言ってたの。私たちを陰で監視・支援してる者がいるって……」
「ほう?」
「よくよく考えたら、ディスト……あなたがいなかったらシュロン国は成立しなかった。ピンチのときには必ず、あなたがいた」
そう。
魔王城を侵略したときも。
人間軍とモンスター軍が争っていたときも。
シュロン国にゴルム率いる人間軍が攻めてきたときも。
必ずディストがいた。
シュンのように目立つことはなかったけれど、きっとディストがいなければ、ここまでシュロン国が繁栄することはなかった。まさに絶妙のタイミングで彼はいた。
そこまで考えて、ロニンは後頭部を掻いた。
――ありえない。
たったこれだけのことでディストを疑うなんて。彼は変態ではあるが、一番の部下なのだ。
「ご、ごめんね……私、変なこと言っちゃって」
両手を合わせて謝るロニンに、ディストもさすがに乾いた笑みを浮かべた。
「ロニン様……いくらなんでも今のは傷つきましたぞ」
「ごめんってば。悪かったよ」
瞬間。
ディストは片頬を吊り上げた。
「――だが、ロニン君。悪くない推理だったよ」
見事優勝を飾ったトルフィン王子に、観客たちは沸いた。
シュロン学園の女生徒などは、「きゃー! トルフィン様ー!」などと黄色い声をあげている。その他の観客たちもまた、強者トルフィンを褒め称えた。
勇者アルスは騎士たちに担がれ、まずは病院に送られた。そこでしかるべき手当てを受けたのち、収容所にて罪を償ってもらう。搬送される際、彼はいっさいの抵抗もしなかった。
祝福の声援を受けてもなお、トルフィンは暗い表情をしていた。シュンが問いかけると、リュアが心配なのだという。
それを聞き、シュンは息子とともにシュロン国の病院までワープした。シュンの制止をものともせず、トルフィンは病室まで駆けだしていった。そしてリュアの無事を聞いたときには、トルフィンは膝を落とし、満面の笑みを浮かべていた。
病室にはセレスティアもいた。リュアのことが心配で、レクスにワープしてもらったようだ。
セレスティアが言うには、武術大会が終了した後、王都で祭りを開くのだと言う。自分はまだリュアの様子を見るから、先に祭りに行ってはどうかとシュンに催促してきた。
シュンはそれに応じることにした。おそらく、いまのトルフィンにとって、そばに親がいることはあまり好ましくないだろうから。
そうして。
シュンは久々に、ロニンと王都でデートすることにした。
「わー、すごーい……」
周囲を見渡しながら、ロニンは目を輝かせた。
天を見上げれば、あちこちで風船が飛んでいる。所狭しと屋台が軒を連ね、店主たちが大声で商品のアピールをしてくる。
「あれ美味しそう……あ、これも美味しそう!」
「落ち着けよ……」
思わず苦笑するシュン。
まったくこの魔王様ときたら、大人になっても落ち着くということを知らない。
ロニンはふりふりと尻尾を振りながら、むうと頬を膨らませた。
「だって美味しそうなんだもん。お兄ちゃんはなにか食べたいものないの?」
「ねえな。おまえの手料理が一番だ」
「……もう、そういうこと言う」
頬を赤く染めるロニン。いくつになっても、子どもっぽさは消えないようだ。
「でもま、今日くらいはなんか屋台で食おうや。なにが食いたい」
「えーっと、えと、コッペパンとアイスとステーキと……」
「無茶苦茶だなおい」
呆れて息を吐くシュン。
「とりあえず買ってきてやるよ。おまえはそこに座ってな」
言いながらシュンは近くのベンチを指差した。
ロニンはまたも頬を膨らませる。
「えっ、いいよ。私も買いにいく」
「いいから座っとけ。一緒に行ったら絶対《あれも食べたい》《これも食べたい》ってうるさいからな」
「むう……」
反論できないロニンだった。
「わかったよ。お腹空かして待ってるからね!」
「へいへい」
シュンの背中を見送りつつ、ロニンは一息つき、ベンチに腰を下ろした。
――でも、良かったな……
王都とシュロン国の共同武術大会。
一時はどうなるかと思ったが、すべて丸く収まった。怪我人もいるし、無事に終わったとは言い難いが。
ただし、まだいくつかの謎は残っている。アルスの記憶を操作したのは何者か。彼の言う《創造神》とはなんだったのか。それについてはまだ判明していないでいる。
でも焦ることはない。
ひとつひとつ解決していけばいい。シュンがいる限り、きっとなにもかもが平穏無事に解決するはずだ。
「いやぁ、相変わらずラブラブですな」
物思いに耽るロニンに、ふと声をかけてくる者がいた。
「あ、ディスト……」
シュロン国の幹部――ディストが、片手のソフトクリームを舐めながら歩み寄ってくる。
「セレスティア王女から王都にいると聞きましてな。探しておりましたよ」
――なんだろう。
若干の寒気を覚えながら、ロニンはディストを見上げた。彼はモンスターで一番の部下のはずだ。なのに現在、例えようのない威圧感を感じる。
「ねえ、ディスト……」
「ハイ?」
「さっき、勇者が言ってたの。私たちを陰で監視・支援してる者がいるって……」
「ほう?」
「よくよく考えたら、ディスト……あなたがいなかったらシュロン国は成立しなかった。ピンチのときには必ず、あなたがいた」
そう。
魔王城を侵略したときも。
人間軍とモンスター軍が争っていたときも。
シュロン国にゴルム率いる人間軍が攻めてきたときも。
必ずディストがいた。
シュンのように目立つことはなかったけれど、きっとディストがいなければ、ここまでシュロン国が繁栄することはなかった。まさに絶妙のタイミングで彼はいた。
そこまで考えて、ロニンは後頭部を掻いた。
――ありえない。
たったこれだけのことでディストを疑うなんて。彼は変態ではあるが、一番の部下なのだ。
「ご、ごめんね……私、変なこと言っちゃって」
両手を合わせて謝るロニンに、ディストもさすがに乾いた笑みを浮かべた。
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「ごめんってば。悪かったよ」
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