引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
シュンの部 【悪魔なのか救世主なのか】
――アグネ湿地帯。
かつてシュンとセレスティアが、魔術師によって無理やり転送させられた場所である。
ここには不可解な点がいくつもあった。
まず、周囲に漂う紫の瘴気により、魔法が使えない。以前シュンは《ワープ》を使用して脱出を図ったが、その魔法は掻き消されてしまった。
そして特筆すべきは《悪魔》の存在だ。
異形そのものはモンスターのそれに近いが、彼らは魔王ロニンの管轄下にない。悪魔とモンスター、なにがどう違うのか、魔王ロニンでさえ知らないままだ。
当時の記憶を思い出し、周囲を見渡しながら、シュンはぽつりと呟いた。
「またこんなとこに来ることになるたァな……」
「そっか……お兄ちゃんは一度来たことあるんだっけ。セレスティアさんと」
「なんだ。なんでセレスティアの名前を強調すんだ」
「なんでもないよ」
なぜかぷくーっと頬を膨らませるロニンに、首をかしげるシュン。いつもならここでシュンが妻に悪戯のひとつでもしているのだが、今回ばかりはそうはいかない。
シュンは視線をずらし、アグネ湿地帯に連れてきた張本人――アリアンヌへ視線を移した。
「まず礼を言うぜ。助けてくれてありがとよ」
「いえ……」
金色の長髪をさらりと掻き分けながら、アリアンヌは澄まし顔で言った。なんとも透き通るような声だ。様々な修羅場を潜り抜けてきたかのごとく力強く、しかし色気のある女の声だ。
「最後の希望であるあなた達二人を、みすみす死なせるわけにはいきませんからね」
「は? 最後の希望?」
なんともアルスが好きそうな言葉が出てきたもんだ。シュンが目を点にしていると、アリアンヌは表情をほとんど変えないままにお辞儀をした。
「まず自己紹介といきましょう。私はアリアンヌ。《元》神族です」
「おいおい、ちょっと待てや」
シュンは片手をひょいひょいと振ってみせる。
「さっきから話が早えーんだよ。俺はタコみてえな頭してんだ。もっとわかりやすく話してくれねえか」
そこでアリアンヌはむすっとしたように唇を尖らせた。初めての表情らしい表情だ。
「いまので全部わかってください」
「わかるかボケ! 一から説明してくんねえとわかんねえよ!」
「仕方ありませんね。仕切り直しといきましょう。私はアリアンヌ。さきほどディスト創造神は私を《悪魔》と言っていましたが、それは事実と異なります。私は元《神族》。悪魔などと私たちを呼ぶようになったのは、ディスト創造神なのです」
アリアンヌいわく。
この世界には、四種類の《種族》が存在するという。
一つ目は人族。
二つ目はモンスター。
三つ目は悪魔。
四つ目は神族。
この《世界》を作り出したのは、ディストら神族らしい。彼らがこの世界を創造し、人間とモンスターという種族を生み出した。
神族はステータスを自由に操作できる能力を持っている。その力を用いて、本来は非力な人間やモンスターらに《魔法攻撃力》《スキル》などの力を与えたのだという。
なんのために力を与えたのか。
シュンがそれを問うと、アリアンヌは変わらず真顔で言った。
「決まっています……神たちが楽しむためですよ」
「楽しむ……」
そういえばディストも言っていた。
――箱のなかで泳ぐ玩具たちを眺める……これほど楽しいことはない――
つまりはそういうことだ。人間やモンスターたちが箱のなかで苦しみ、懸命に生きていくさまを、ディストは楽しんで鑑賞していたのだ。だからアルスを洗脳した。一流のステータスを持っているにも関わらず、勇者になりきれずに悶々としていた彼を。
「ですがシュンよ。あなたならわかるでしょう。力はそのようにして使うものではない。民のために尽くしてこそ王であると――以前、あなたもこの場所で言っていましたね」
「あ、ああ……まあな」
「私もまったく同感です。ですからディスト創造神に進言したのです。私だけではありません。ディスト創造神のやり方に疑問を持っていたすべての神族が、ディスト創造神に言い寄りました」
ちなみにこの話は、いまから何百年前にも遡るという。長い長い歴史なのだ。
「ディスト創造神は怒りました。そして……私たちを地上に追いやり、あろうことか、《悪魔》という不名誉な存在として、人間とモンスターに認識させたのです」
そこまで言われて初めて、シュンははっと目を見開いた。
「そうか。悪魔の実体や歴史はなんら明らかになっていない。だが人間は悪魔を毛嫌いしている……」
似ている気がした。
記憶を抜き取られてもなお、シュンに対する恨みだけは覚えていたアルスと。
かつてシュンとセレスティアが、魔術師によって無理やり転送させられた場所である。
ここには不可解な点がいくつもあった。
まず、周囲に漂う紫の瘴気により、魔法が使えない。以前シュンは《ワープ》を使用して脱出を図ったが、その魔法は掻き消されてしまった。
そして特筆すべきは《悪魔》の存在だ。
異形そのものはモンスターのそれに近いが、彼らは魔王ロニンの管轄下にない。悪魔とモンスター、なにがどう違うのか、魔王ロニンでさえ知らないままだ。
当時の記憶を思い出し、周囲を見渡しながら、シュンはぽつりと呟いた。
「またこんなとこに来ることになるたァな……」
「そっか……お兄ちゃんは一度来たことあるんだっけ。セレスティアさんと」
「なんだ。なんでセレスティアの名前を強調すんだ」
「なんでもないよ」
なぜかぷくーっと頬を膨らませるロニンに、首をかしげるシュン。いつもならここでシュンが妻に悪戯のひとつでもしているのだが、今回ばかりはそうはいかない。
シュンは視線をずらし、アグネ湿地帯に連れてきた張本人――アリアンヌへ視線を移した。
「まず礼を言うぜ。助けてくれてありがとよ」
「いえ……」
金色の長髪をさらりと掻き分けながら、アリアンヌは澄まし顔で言った。なんとも透き通るような声だ。様々な修羅場を潜り抜けてきたかのごとく力強く、しかし色気のある女の声だ。
「最後の希望であるあなた達二人を、みすみす死なせるわけにはいきませんからね」
「は? 最後の希望?」
なんともアルスが好きそうな言葉が出てきたもんだ。シュンが目を点にしていると、アリアンヌは表情をほとんど変えないままにお辞儀をした。
「まず自己紹介といきましょう。私はアリアンヌ。《元》神族です」
「おいおい、ちょっと待てや」
シュンは片手をひょいひょいと振ってみせる。
「さっきから話が早えーんだよ。俺はタコみてえな頭してんだ。もっとわかりやすく話してくれねえか」
そこでアリアンヌはむすっとしたように唇を尖らせた。初めての表情らしい表情だ。
「いまので全部わかってください」
「わかるかボケ! 一から説明してくんねえとわかんねえよ!」
「仕方ありませんね。仕切り直しといきましょう。私はアリアンヌ。さきほどディスト創造神は私を《悪魔》と言っていましたが、それは事実と異なります。私は元《神族》。悪魔などと私たちを呼ぶようになったのは、ディスト創造神なのです」
アリアンヌいわく。
この世界には、四種類の《種族》が存在するという。
一つ目は人族。
二つ目はモンスター。
三つ目は悪魔。
四つ目は神族。
この《世界》を作り出したのは、ディストら神族らしい。彼らがこの世界を創造し、人間とモンスターという種族を生み出した。
神族はステータスを自由に操作できる能力を持っている。その力を用いて、本来は非力な人間やモンスターらに《魔法攻撃力》《スキル》などの力を与えたのだという。
なんのために力を与えたのか。
シュンがそれを問うと、アリアンヌは変わらず真顔で言った。
「決まっています……神たちが楽しむためですよ」
「楽しむ……」
そういえばディストも言っていた。
――箱のなかで泳ぐ玩具たちを眺める……これほど楽しいことはない――
つまりはそういうことだ。人間やモンスターたちが箱のなかで苦しみ、懸命に生きていくさまを、ディストは楽しんで鑑賞していたのだ。だからアルスを洗脳した。一流のステータスを持っているにも関わらず、勇者になりきれずに悶々としていた彼を。
「ですがシュンよ。あなたならわかるでしょう。力はそのようにして使うものではない。民のために尽くしてこそ王であると――以前、あなたもこの場所で言っていましたね」
「あ、ああ……まあな」
「私もまったく同感です。ですからディスト創造神に進言したのです。私だけではありません。ディスト創造神のやり方に疑問を持っていたすべての神族が、ディスト創造神に言い寄りました」
ちなみにこの話は、いまから何百年前にも遡るという。長い長い歴史なのだ。
「ディスト創造神は怒りました。そして……私たちを地上に追いやり、あろうことか、《悪魔》という不名誉な存在として、人間とモンスターに認識させたのです」
そこまで言われて初めて、シュンははっと目を見開いた。
「そうか。悪魔の実体や歴史はなんら明らかになっていない。だが人間は悪魔を毛嫌いしている……」
似ている気がした。
記憶を抜き取られてもなお、シュンに対する恨みだけは覚えていたアルスと。
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