引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
シュンの部 【勝機はいま】
アグネ湿地帯。
どこまでも広がる密林地を、シュン一行はひたすらに歩いていた。
アリアンヌによれば、次の修行場へ向かっているようだが、長いこと歩いているにも関わらずまだ到着しないらしい。
アグネ湿地帯の具体的な規模はわからない。
だがこの様子を見るに、かなりの広さがありそうだ。前回アグネ湿地帯を抜けたときも、天空へ飛んで無理やり転移したくらいである。
「なあ」
シュンはアリアンヌの背後へ声を投げかけた。
「あんたを信用してないわけじゃねえが……本当に大丈夫なのか? まじでディストが襲いかかってきたりしねえか?」
「それはありえません。断言できます」
振り向かないまま、アリアンヌはきっぱりと言い切ってみせた。
「ディストはかなり猟期的な性格をしています。おそらくどこか遠い場所から、人間たちが苦しむさまを楽しんで鑑賞しているでしょう」
「……マジかよ」
「過去を振り返ってみてください。思い当たる節はありませんか?」
「あ、ある!」
ロニンが授業を受ける生徒みたいに片手を挙げた。
「あの《ヒト》、前は異常に私を好いていたのに……前代魔王を倒してから、ぱったりおとなしくなったもん」
「む。まあ確かにな」
ロニンの発言に、シュンも同意せざるをえなかった。
すっかり忘れていたが、ディストは当初、ロニンの好意ゆえに前代魔王をも裏切り、シュンの村にやってきた。
にも関わらず、前代魔王を討伐した後は、嘘のようにおとなしくなった。シュンとロニンが結婚するときも、さして騒ぎを起こさなかった。
「それは実際にも嘘だったんでしょうね」
とアリアンヌが口を差し挟んできた。
「シュンさん。創造神はおそらくあなたに目をかけていたんでしょう。引きこもりレベル999のあなたに」
「……へ、俺に?」
「ええ。前にも言ったように、創造神は《箱》のなかに生物を長らく生きさせ、飽きたら殺すのが好きなのです」
「……はん、そういうことかよ」
シュロン国の建設。
それがまさに、ディストの思惑でもあったのだ。
「またシュンさんは、人間とモンスターの共存も掲げていましたね。それは長い歴史でもありえない試みでした。ですから、あなたがどのように国を立ち上げるか、実際に惹かれたのやもしれません」
シュンは思い出した。
武術大会の決勝戦において、アルスはこのようなことを言っていた。
――奴らはひっそりとおまえたちに監視と支援をしている――
それはつまり、こういうことだったのだ。シュンがどのようにして人間とモンスターを共存させるのか、神はこっそり見ていたのだろう。そしてしかるべき後に、人間とモンスターを掃討するつもりだったのだ。
いま思えばディストの動きは違和感だらけだった。
にも関わらず気づけなかったのは、シュン自身も国づくりで忙しかったせいである。国王エルノス、勇者アルスという《敵》が次々現れ、ディストに目を向ける余裕がなかった。
「あ、わかった!」
とロニンが急に大きな声を出した。
「モンスターがあなたたちに近寄ったとき、《貴様らの指図は受けない》って言ったの……あれはディストがいたからね!」
「ご名答」
アリアンヌはそこで初めて、ぴたりと立ち止まった。
「本当に趣味の悪い神です。奴さえいなければ、あなたたちにすぐ近寄れたのに……」
そしてくるりと振り返ると、シュンとロニンを交互に見つめる。
「巨大蜘蛛との戦いで、シュンさんの実力はわかりました。本当はすぐにでもあなたたちに接触し、創造神の内情を知らせたかった……。でもディストがそうはさせてくれなかったのです」
――なるほど、そういうことか。
そこで初めてシュンは合点がいっった。
武術大会の当日、悪魔たちが近寄ってこようとしたのは、ディストの危険性をシュンたちに知らしめるため。しかし創造神がいるせいで、王都には入れなかった。
またアリアンヌは、勇者アルスの同行を追っていたことも明かした。アルスは当時ディストに記憶を操作されていた。悪意の感情をこじらせ、村を滅ぼさんとしていた。それを防ぐため、シュンの故郷へと向かっていたのだ。
シュンが気づいていなかっただけで、神と悪魔のやり合いは行われていたのである。
「わかったでしょう? ディストは遊んでいたのです。ひ弱なふりをしてシュンさんに接触し、シュロン国に潜み、裏で私たちを牽制していたのです」
「はん。ようくわかったよ。あいつの性格の悪さがな」
「はい。ですから、しばらくディストは《鑑賞》に徹するはずです。その隙を叩くしか、私たちに勝機はありません」
どこまでも広がる密林地を、シュン一行はひたすらに歩いていた。
アリアンヌによれば、次の修行場へ向かっているようだが、長いこと歩いているにも関わらずまだ到着しないらしい。
アグネ湿地帯の具体的な規模はわからない。
だがこの様子を見るに、かなりの広さがありそうだ。前回アグネ湿地帯を抜けたときも、天空へ飛んで無理やり転移したくらいである。
「なあ」
シュンはアリアンヌの背後へ声を投げかけた。
「あんたを信用してないわけじゃねえが……本当に大丈夫なのか? まじでディストが襲いかかってきたりしねえか?」
「それはありえません。断言できます」
振り向かないまま、アリアンヌはきっぱりと言い切ってみせた。
「ディストはかなり猟期的な性格をしています。おそらくどこか遠い場所から、人間たちが苦しむさまを楽しんで鑑賞しているでしょう」
「……マジかよ」
「過去を振り返ってみてください。思い当たる節はありませんか?」
「あ、ある!」
ロニンが授業を受ける生徒みたいに片手を挙げた。
「あの《ヒト》、前は異常に私を好いていたのに……前代魔王を倒してから、ぱったりおとなしくなったもん」
「む。まあ確かにな」
ロニンの発言に、シュンも同意せざるをえなかった。
すっかり忘れていたが、ディストは当初、ロニンの好意ゆえに前代魔王をも裏切り、シュンの村にやってきた。
にも関わらず、前代魔王を討伐した後は、嘘のようにおとなしくなった。シュンとロニンが結婚するときも、さして騒ぎを起こさなかった。
「それは実際にも嘘だったんでしょうね」
とアリアンヌが口を差し挟んできた。
「シュンさん。創造神はおそらくあなたに目をかけていたんでしょう。引きこもりレベル999のあなたに」
「……へ、俺に?」
「ええ。前にも言ったように、創造神は《箱》のなかに生物を長らく生きさせ、飽きたら殺すのが好きなのです」
「……はん、そういうことかよ」
シュロン国の建設。
それがまさに、ディストの思惑でもあったのだ。
「またシュンさんは、人間とモンスターの共存も掲げていましたね。それは長い歴史でもありえない試みでした。ですから、あなたがどのように国を立ち上げるか、実際に惹かれたのやもしれません」
シュンは思い出した。
武術大会の決勝戦において、アルスはこのようなことを言っていた。
――奴らはひっそりとおまえたちに監視と支援をしている――
それはつまり、こういうことだったのだ。シュンがどのようにして人間とモンスターを共存させるのか、神はこっそり見ていたのだろう。そしてしかるべき後に、人間とモンスターを掃討するつもりだったのだ。
いま思えばディストの動きは違和感だらけだった。
にも関わらず気づけなかったのは、シュン自身も国づくりで忙しかったせいである。国王エルノス、勇者アルスという《敵》が次々現れ、ディストに目を向ける余裕がなかった。
「あ、わかった!」
とロニンが急に大きな声を出した。
「モンスターがあなたたちに近寄ったとき、《貴様らの指図は受けない》って言ったの……あれはディストがいたからね!」
「ご名答」
アリアンヌはそこで初めて、ぴたりと立ち止まった。
「本当に趣味の悪い神です。奴さえいなければ、あなたたちにすぐ近寄れたのに……」
そしてくるりと振り返ると、シュンとロニンを交互に見つめる。
「巨大蜘蛛との戦いで、シュンさんの実力はわかりました。本当はすぐにでもあなたたちに接触し、創造神の内情を知らせたかった……。でもディストがそうはさせてくれなかったのです」
――なるほど、そういうことか。
そこで初めてシュンは合点がいっった。
武術大会の当日、悪魔たちが近寄ってこようとしたのは、ディストの危険性をシュンたちに知らしめるため。しかし創造神がいるせいで、王都には入れなかった。
またアリアンヌは、勇者アルスの同行を追っていたことも明かした。アルスは当時ディストに記憶を操作されていた。悪意の感情をこじらせ、村を滅ぼさんとしていた。それを防ぐため、シュンの故郷へと向かっていたのだ。
シュンが気づいていなかっただけで、神と悪魔のやり合いは行われていたのである。
「わかったでしょう? ディストは遊んでいたのです。ひ弱なふりをしてシュンさんに接触し、シュロン国に潜み、裏で私たちを牽制していたのです」
「はん。ようくわかったよ。あいつの性格の悪さがな」
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