引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

シュンの部分 【悪魔】

「……あ」

 前方を歩いていたアリアンヌが、ふと小さな声を発した。彼女の可憐な金色の長髪が、風に乗ってふわりとたなびく。
 シュンは隣のロニンと目を合わせ、
「どうした?」
 と訊ねた。

 アリアンヌはくるりと振り向くと、やや安堵感のある声音で告げた。
「トルフィンさんたちに協力者が現れたようでね。どうやら勇者アルスの模様です」
「なんだと……」
 シュンはあんぐりと口を開けた。
「彼は創造神ディストにより、わずかながら神の霊気を授けられています。天使の《ステータス操作》も効きません。だからこれまで生き延びられたのでしょう」

 勇者アルス。
 彼が協力してくれれば、頼もしい味方になることは間違いない。大会の決勝戦ではトルフィンに敗れたものの、そもそものステータスではアルスのほうが上なのだ。

「よかった……」

 ロニンもほっと胸を撫で下ろした。アルスも久々に、勇者らしい行動に打って出たことになる。本来は服役しているはずだが、この緊急事態だ、細かいことは言っていられまい。

 アリアンヌはシュンたちを見回すと、数秒目を閉じ、再びゆっくりとまぶたを開けた。

「トルフィンさんたちはひとまず安心していいでしょう。……これより、本格的な修行を始めます」
「…………」

 シュンは思わず固唾を呑んだ。
 いつの間にか、シュンたちはひらけた場所に出ていた。あれほど視界を阻んでいた木々はなく、背の低い雑草が生い茂っている。まさに動き回るにはうってつけの場所といえよう。

「今回の修行のため、この周辺だけ伐採を行いました。……さあ、同胞たちよ、出番です」

 アリアンヌが言いながら片手をあげる。
 ――と。
 見るもおぞましい《悪魔》たちが、そこかしこから姿を現した。ゾンビのような男、サキュバスのような艶めかしい女、かつて相対した巨大蜘蛛まで。

 その数、五十三体。
 アリアンヌは同胞たちを見渡し、やや切なさを帯びた表情で告げた。

「当然ですが、皆かつては《神族》でした。天界から逃げる際、ディストにより、こうも禍々しい姿に変えられてしまったのです。明確な意識を持ちながらも、言葉を話せなくなってしまいました」
「ぴきー」
 アリアンヌの言葉に呼応するかのごとく、巨大蜘蛛が高い鳴き声を発する。

 それを聞いたロニンが、
「あ……」
 と言って眉の端を下げた。

「おまえ……言葉がわかるのか?」
「うん……ほんとに、辛い思いをしてきたみたい。私にはわかるよ」
「そうか……」

 残念ながら人族たるシュンにはわからない。だが魔王ロニンには彼らの意思が通じるらしい。
 悪魔たちは揃って、外見上は身の毛のよだつ姿をしている。
 しかしながら、彼らからは敵意や悪意はなんら感じられなかった。それどころか、シュンとロニンをどこか歓迎しているような雰囲気がある。

「お兄ちゃん。みんな喜んでるよ。自分たちの姿を見ても逃げられないからって」
「……はん。そりゃま、これでも人間とモンスターのトップだからな」

 鼻の下をこするシュン。
 アリアンヌは数歩だけ退くと、張りのある声を周囲に響かせた。

「シュンさん、ロニンさん。あなたたちには、これより五十三もの悪魔と戦ってもらいます。彼らはみな《神の霊気》を持っています。決して油断などしないように」

「引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く